■観客数最多は、“ゾンビ映画”の常識を覆した『ゾンビ娘』

最多観客数563万人を記録したのは、チョ・ジョンソク主演、ピル・カムソン監督の『ゾンビ娘(原題:좀비딸)』だった。原作はウェブトゥーンで、ゾンビウイルスに感染した娘を守ろうと奮闘する父親のジョンファンをチョ・ジョンソクが熱演した。本作は、ゾンビは出てくるものの、ホラーではなく家族愛が感じられるコメディになっている。
韓国では、これまでたくさんのゾンビ映画が作られ、“Kゾンビ”というジャンルが生まれるほどだったが、本作がユニークだったのは、人間をゾンビから守るのでなく、ゾンビを人間から守る物語という点だ。ウイルスに感染してしまった中学生の娘のスア(チェ・ユリ)は、完全にゾンビになったのではなく、人間としての記憶も残った状態で、努力すれば意思疎通も図れる。“ゾンビは見つけたら殺す”というのが社会の掟となっているなか、ジョンファンは実家でこっそりスアをかくまい、少しずつ人間に戻す訓練を試みる。

噛みつこうとするスアをなだめすかすジョンファン。噛みつかれたらジョンファンもゾンビになるという緊張感もありながら、笑えるシーンも多く、感動まで与えてくれる。ゾンビの狂暴性と人間の理性の間で葛藤するスア役のユリの名演が光った。

ヒョンビン主演、ウ・ミンホ監督の『ハルビン』は、2024年の年末公開作なので興行結果としては2025年の作品とも言える。観客数491万人は数字としては2位の記録だ。ヒョンビンが祖国独立のために戦う安重根(アン・ジュングン)役、安重根に暗殺される伊藤博文役をリリー・フランキーが演じた。さらに安重根と共に戦う同志としてイ・ドンウク、パク・ジョンミンも出演し、豪華キャストによるスパイアクションが繰り広げられた。伊藤博文の「この国の民衆は国難のたびに変な力を発揮する」というセリフが、まさに昨年12月の非常戒厳ののちに国会議事堂のある汝矣島(ヨイド)に集まって大統領弾劾を訴えた人たちと重なり話題を集めた。

そして、カン・ハヌル、ユ・ヘジンが共演する『YADANG/ヤダン』が観客数337万人のヒットを記録。主演のハヌルは、「ヤダン」と呼ばれる、麻薬犯罪者から話を聞きだし警察などに情報提供を行うブローカーを、共演のヘジンは「ヤダン」を利用して出世しようとする検事を演じた。どちらもギラギラとした野心家で、タッグを組んで次々に麻薬犯罪者の検挙を成功させていく。

麻薬犯罪に関して使われる隠語であり、“捜査機関に情報を提供する情報員”を指す「ヤダン」の存在は、この映画が公開されるまで一般的には知られていなかった。違法と合法のグレーゾーンで暗躍しながら、麻薬犯罪の取り締まりに一役買うヤダン。ファン・ビョングク監督は、その実態に迫ろうとヤダンを含む麻薬犯や捜査関係者計100人以上に実際に会って取材を重ねたという。リアルな描写は監督自ら身を投じた努力の賜物だ。
■話題の的はパク・チャヌク×イ・ビョンホンの『しあわせな選択』

世界的な話題作は、なんと言ってもパク・チャヌク監督、イ・ビョンホン主演の『しあわせな選択』で、8月に第82回ヴェネチア国際映画祭でお披露目され、9月の第30回釜山国際映画祭では開幕作として上映された。家族にも仕事にも恵まれて順風満帆に見えた主人公マンス(ビョンホン)は、ある日突然、勤め先の製紙会社を解雇される。マンスは美しい妻ミリ(ソン・イェジン)と育ち盛りの息子、娘を養う一家の主として再就職を目指す。しかし、行き詰まった末にとんでもない計画を実行に移す──というブラックコメディだ。
同作は、第46回青龍映画賞では最優秀作品賞、監督賞を含む7冠を達成。イェジンが主演女優賞と人気スター賞を受賞し、『ハルビン』で主演男優賞と人気スター賞を受賞したヒョンビンと共に、夫婦でW受賞という前代未聞の吉報で世界を沸かせた。

一方、製作費2億ウォン(約2100万円)の低予算ながら観客数100万人を超えたヨン・サンホ監督、パク・ジョンミン主演の『顔(原題:얼굴)』は、不況にあえぐ韓国映画界の希望のニュースに。ジョンミンは視覚障がい者でありながら著名な篆刻家(てんこくか/篆刻=はんこを作る職人)のヨンギュ(クォン・ヘヒョ)の息子役と、若き日のヨンギュの一人二役を好演。実際にジョンミンの父は視覚障がい者だが、キャスティングは偶然だったそうだ。
ジョンミンは、今年俳優業を一時中断して自身が営む出版社の仕事に専念し、11月に東京、神保町で開かれた「K-BOOKフェスティバル」にも参加。耳で聴くオーディオブックの制作に力を入れるのは、父が本を目で読めないことがきっかけだったのだそうだ。出版界の救世主として脚光を浴びたジョンミンは、さらに青龍映画賞の授賞式でMAMAMOOのファサの祝賀ステージにコラボ出演したことでさらなる話題を呼び、一躍スターとなった。
インディーズ映画では、『世界のジュイン(原題:세계의 주인)』が口コミで評判を広めて観客数16万人を突破、カナダのトロント国際映画祭や、日本の第26回東京フィルメックスに招待されるなど、国を超えて注目を集めた。タイトルの「ジュイン」とは主人公の名前だが、韓国語では「主人」の発音も「ジュイン」なので、タイトルには『世界の“主人”』という意味も込められている。
クラスメイトが提案した署名運動に全校生が参加するなか、ジュインだけが署名を拒否。それが波紋を呼んで、友だちとの関係もぎくしゃくし始める。背景には、ジュインが過去に受けた傷があった。『わたしたち』(16)のユン・ガウン監督が、10代の揺らぐ内面を繊細に描きだし、ジュイン役のソ・スビンもまた新人とは思えない演技力で高い評価を得た。
■2026年はチョ・インソン大活躍の年に!
来年に公開を控える期待作としてはリュ・スンワン監督のスパイアクション『ヒューミント(原題:휴민트)』が筆頭に挙げられる。ウラジオストク国境付近を舞台に南北の秘密要員たちが犯罪を暴くなかで衝突する物語で、『密輸 1970』(23)にも出演したチョ・インソン、パク・ジョンミンのほか、パク・ヘジュン、シン・セギョンらが出演し、2月に韓国で公開予定だという。
また、ヨン・サンホ監督の『新感染 ファイナル・エクスプレス』(16)、『新感染半島 ファイナル・ステージ』(20)に続くゾンビ第3弾となる『群体(原題:군체)』は、チョン・ジヒョン、チ・チャンウク、ク・ギョファンら豪華キャストの出演が明かされており、期待を集めているところ。さらにナ・ホンジン監督の『ホープ(原題:호프)』は、非武装地帯近くの村で得体のしれない生物が目撃され、村全体が緊急事態に直面する物語で、チョ・インソンのほか、ファン・ジョンミン、マイケル・ファスベンダー、アリシア・ヴィキャンデルら、韓国とハリウッドの俳優が共演する。

Netflixで配信予定のイ・チャンドン監督の新作『可能な愛(原題:가능한 사랑)』は、まったく異なる人生を生きてきた2組の夫婦の関係が交錯し、4人の日常に亀裂が広がる物語。『ペパーミント・キャンディー』(00)、『オアシス』(02)主演のソル・ギョング、『シークレット・サンシャイン』(07)でカンヌ国際映画祭主演女優賞を受賞したチョン・ドヨンのほか、チョ・インソン、チョ・ヨジョンが主演する。2026年は『ヒューミント』、『ホープ』、『可能な愛』に主演するチョ・インソンから目が離せない一年となりそうだ。
文/成川彩
