
ウルトラマンや怪獣など、初期ウルトラシリーズのデザインを手掛けた成田亨氏の作品と言葉を収録した、「成田亨作品集」(羽鳥書店)
【画像】「えっ、不評だったの?」 これが『ウルトラQ』で強烈な印象だった「宇宙人」のデザインです(6 枚)
宇宙人目線で地球人を見てみると……変?
今から60年前の1966年1月2日、特撮TVドラマの元祖であり、「ウルトラシリーズ」第1作となる『ウルトラQ』がスタートしています。 ウルトラシリーズには、巨大怪獣はもちろん、個性的な宇宙人(星人)の存在も欠かせません。これまでに登場した宇宙人は約300種類にもなりますが、みなさん一度は、「なぜ、こんなに地球人と容姿が違うの?」と思ったことはありませんか。
例えば、「バルタン星人」の、ピスタチオの殻のような手。私たちからすると、「物がつかみにくくて不便そう」などと思うでしょう。でも、この考え方、バルタン星人から地球人を見ると、「なぜ指というものがあるの?」と思うはず。……こんな発想に変えると、ウルトラシリーズ側の意図が見えてくるの です。
こうした宇宙人デザインの鍵を握るのは、初期ウルトラシリーズの造形を担った、デザイナー「成田亨」氏です。
成田氏は、著書『成田亨作品集』や『怪獣デザインの源流』などで、「人間の延長線上にある怪獣・宇宙人は作る意味がない」「地球の生物学を前提にしない生命を造形したい」と語っています。
つまり、こんな解釈ができます。地球とは違う星で生まれ育ち、異なる重力、環境、進化史を持つ生命体なら、地球の人間型である方がむしろ不自然である、という論理です。
「いかにして人に似せないか」。その思想は、具体的なデザイン工程にも刻まれています。
シリーズ随一の人気を誇る「バルタン星人」は、最初のアイデア段階で「甲殻類と昆虫の中間」として構成されました。人体の骨格をほとんど利用せず、腕を巨大なハサミに置き換えることで、人間の動きでは達成できない「異次元の知性体」という設定を視覚化したのです。成田氏はこのとき、「人間の顔では宇宙人の威厳が出ない」と語り、昆虫の複眼を抽象化した頭部形状を採用しました。
代表的な実験的造形が『ウルトラマン』に登場した「ダダ」です。ダダは縞模様の全身スーツに抽象的なマスクという「記号の集合体」で構成されており、人間の筋肉線や表情を徹底して排除したデザインです。これは成田氏が「怪獣は悪の象徴ではなく、造形として美しくなければならない」という信念のもと、民族的・人種的連想を起こさない「純粋造形」を追求した例として研究されています。
人間的特徴をあえて排除する方針は、「メフィラス星人」「メトロン星人」などの制作資料にも現れています。この2体は、初期案に、「人に寄せた顔」が検討された時期がありました。しかし成田氏は、それを退けて、メフィラス星人は反骨獣の骨格を連想させる頭部に変更。メトロン星人は、平面的な仮面のような顔へと方向転換させました。
メトロン星人については、のちに円谷プロ関係者が「あまりに人に似ると比喩性が強まり、物語が狭くなるため抽象度を上げた」と証言しており、思想と実務が一致していたことが分かります。

「バルタン星人はなぜ美しいか 形態学的怪獣論 ウルトラ編」(小林晋一郎/朝日ソノラマ)
逆に「人に近い」と不評だった?
人間とかけ離れた宇宙人は不自然である、という意見がある一方で、ウルトラシリーズ初期の時代には、「人間に近くて不気味だ」という苦情が寄せられるケースもありました。なんだか皮肉なものです。
『ウルトラQ』第19話の「ケムール人」は、初めて登場した知性のある宇宙人とされています。ところが、痩せた体形と顔の形が「人に近くて怖い」と、子供はもちろん大人からもクレームが届いたそうです。
最初から不評だったことで、制作側が異形方向の造形を強化していく判断材料にもなったとされています。人間的特徴を残すほど、視聴者は、「人間に近くて気持ち悪い」という不気味の谷を感じやすい。この経験も、宇宙人デザインの人間離れした造形を後押ししました。(ただし、ダダ、ザラブ星人、ゴドラ星人など、クレームが届いた宇宙人は他にもいたとか)
以上を踏まえ、改めて、「なぜウルトラシリーズの宇宙人は人間離れした容姿なのか?」をまとめると、「宇宙生命体としてのリアリティ―を追求すると、人間型はむしろ不自然で、人間型は不評」と、なるわけです。
ちなみに、「人種差別の比喩を避けるために人間に似せなかった」という説も語られています。身近なことで言えば、子供たちの間で「○○星人に似てる」という、いじめのネタになりにくいメリットはあったでしょう。ただし、このルールは、スタッフ間の暗黙の了解だったらしく、制作資料や成田氏自身による言及は見当たりません。
