栄二一型や、マーリンエンジンを再現した飛行機エンジンアプリTrans4motor Sもある
脱線ついでに、もうひとつ脱線しておくと、Trans4motorと、Trans4motor Rの間には、飛行機用のTrans4motor Sというアプリがある。あいにく飛行機ファンには届かなかったようで、人気は出なかったそうだが、描画的にはTrans4motor Rに近いクオリティで、飛行機のエンジンが描かれる。
Trans4motor S
https://apps.apple.com/jp/app/trans4motor-s/id1561448237
筆者は自動車やバイクだけでなく、飛行機も好きなのだが、飛行機用エンジンというのはクルマやバイクとは別に進化していて面白いエンジンがいっぱいある。もちろん、一番気になるのは星形エンジンだが、零戦の栄二一型もこのように見ることができる。

気になる『星形エンジンのクランクってどうなってるの?』という問題も、一部のパーツを消すことができるようになっているので、即座に対応できる。

そう、星形エンジンのコンロッドはご覧のように、親コンロッドがあって、それに6個の子コンロッドが付くカタチになっている。実に不思議なのだが、これでバランスするのだ。栄二一型の場合7気筒の複列で14気筒。飛行風で冷やすために、前列と後列のシリンダーは少しズレて配置されている。こうやって見ていると、当然のことながら下側のシリンダーにはオイルが落ちただろうなぁ……とか、いろんなことを想像してしまう。
星形といえば、プラット&ホイットニーのR-2800。高齢者の方が『グラマンが来てねぇ』と言う際にはF4Uコルセアを表していることが多いのだが、そういう戦闘機に積まれていたエンジンだ。

こちらは1列9気筒を複列備えた18気筒。2400馬力だから重装甲の機体を飛ばすことができる。ゼロ戦の1300馬力がいかにも非力に思える。つらいところだ。
もちろん、星形ではなくV型12気筒エンジンも搭載されている。こちら、ロールスロイスマーリンのパッカードV-1650。これを搭載したP-51マスタングについて語り始めるとキリがないが、トップガン・マーベリックでトム・クルーズが乗っていたP-51Dにもこのエンジンが搭載されているはずである。

V型水冷エンジンは、全面を風に晒して冷却する星形空冷エンジンに対して、スリムに作れるのが特徴。つまり、P-51DマスタングやメッサーシュミットBf109、スーパーマリン・スピットファイアなどは機首がスリムでトップスピードが出る。ただ、後方のシリンダーも均等に冷却するためには、シリンダーの周りにウォータージャケットを持った水冷エンジンである必要があったが、日本の少ない資源と加工技術では、終戦まで安定して水冷エンジンを作ることはできなかった。そういう意味では、マーリンV-1650も羨まし過ぎるエンジンである……。
実車を再現する苦労
話が逸れ過ぎた。
ともあれ、このTrans4motor Sの技術を使って新たに作られたのがTrans4motor Rである。
苦労した点をうかがうと、実車資料の少なさを挙げられた。
なにしろ、メーカーから実車エンジンの図面が出ているわけではない。整備マニュアルなどにもエンジンの内部の寸法などが正確に出ているものでもない。ボア×ストローク、バルブ径などの公開されている数値をもとに推測して作らなければならない。ただ、正しく推測しないと、動かした時に不自然になる。
バイクの場合はギアの歯数などが表記されている場合もあるが、クルマの場合は減速比しか書いていないことが多い。そこで、その減速比から辻褄の合う歯数を計算して出したという。

バイクマニアにとって特に不思議なのは、ここにRC211Vがあることである。
RC211Vというのはホンダのワークスマシン。つまりF1のようなレース用の超少量生産車だ。もちろん、内部構造なども門外不出となっている。筆者は、バイク雑誌編集者時代に、ワークスマシンの撮影のアシスタントをしたことがあるが、一昼夜に及ぶスタジオ撮影の間中ホンダの広報担当者の方が横について、ある一定角度の写真を撮らないように監視されていた(単純に言えば、真横の写真があると図面を起こせるから)。当時はまだ、GP500の時代で、このMotoGP時代のRC211Vについては知らないが、それでも同等以上に秘密であることに変わりはない。

特にRC211VはV型5気筒という独特のシリンダー配置で、その点火順なども秘密だったが、阿部さんは当時のバイク雑誌など可能な限りの資料を集め、謎を解明していったという。
ギア比にいたっては、当然のことながらワークスマシンのギア比など絶対に秘密なはずだが、バイク雑誌に写っていた分解写真のギアパーツの写真を拡大し、歯数を数えて反映したという。このアプリをホンダのエンジニアの方が見たら、驚かれるのではないだろうか?