“昭和歌謡”に欠かせないジャンルといえば、ご当地ソング。特に僕が生まれ育った異国情緒あふれる横浜の街こそ、ご当地ソングの先駆けではないのかな。
僕が“和製R&B”シンガーと呼ぶ五木ひろしさんのデビュー曲「よこはま・たそがれ」の舞台となったのも横浜・新山下にあった「バンドホテル」。このホテルには「シェルガーデン」というライブハウスがあって、僕も何度か出演しています。
そして僕が生まれて初めて自分のお金で手に入れたいしだあゆみさんの「ブルー・ライト・ヨコハマ」。あの曲の弾むがごとき、洋楽的な響きが素敵でクレジットを見たら「作曲・筒美京平」と書かれていやした。思えば、これが僕と京平先生の最初の出会いでもあったね。
この歌詞は、港の見える丘公園辺りから眺めた山下埠頭、新山下の夜景を思わせ、虚ろにアンニュイに歌うあゆみさんの歌いっぷりが流されていく女性の悲哀を見事に表現しています。ちなみに僕らのバンドCKBでは、裏の横浜を舞台にした刹那的な恋模様を歌った「レッドライト・ヨコハマ」というナンバーも発表していやすから聴いてみてください。
横浜ご当地ソングの極みと呼べるのが青江三奈さんの「伊勢佐木町ブルース」だよね。歌の冒頭で入る青江さんの「あん・あん」いうため息の声がセクシーでね。なんのことか、親や学校の先生に質問して大人を困らせるのが面白くてね(笑)。
68年の紅白では、ため息をなんと笛の音で表現したこともあった。腰を抜かすほど驚いたね。村西とおる監督の、「気持ちよかったら、笛を吹いてください」の名ゼリフもあの歌から来ているのかな。そう思うと、実に奥が深いね。
そしてもう1曲。忘れてはならないのが僕らの世代のスター・柳ジョージさんの「雨に泣いてる…」。この曲で横浜・本牧がザ・ゴールデン・カップス以来の注目を集めてね。横浜の飲み屋ではジョージさんか藤竜也さんの真似をしてタレサンにヒゲを生やしてバーボンを飲んでいる人が多かった。ご本人は普段、非常にシャイで礼儀正しい方なんですが、一旦、お酒が回ると一転してワイルドなドランカーに変身するという。そこもまた柳さんらしいエピソードですが。
昭和歌謡の特徴の一つと言えるのが、“女の名前”をつけた歌が多かったことだよね。「圭子の夢は夜ひらく」「ナオミの夢」「そんな夕子にほれました」と枚挙に暇がありやせん。中でも“そんなシリーズ”が大ヒットした増位山太志郎さんは、大関にまで上り詰めた現役の力士でした。力士はみんな歌がうまくてね。そういえば「大相撲年忘れ歌合戦」なんていう番組もあったなぁー。
ちなみに、CKBにも「せつ子」という女の名前がついた曲がありやす。こちらは本牧のおでん屋の親父が可愛がってたオス犬の名前から取りました。惚れた女の名前をオスの野良犬につけるなんて、なかなか粋でイイネ!
横山剣(よこやま・けん)ご存知〈俺の話を聞け!〉「タイガー&ドラゴン」でスマッシュヒットを放ったクレイジーケンバンドのフロントマン。今年9月に発売した25枚目アルバム「華麗」を引っ提げ、全国ツアーを敢行中! ライブで行われる「昭和歌謡イイネ!」のコーナーも大好評!

