
ミュージカル『テニスの王子様2ndシーズン』で注目を集め、舞台『魔法使いの約束』など人気作品への出演が続いている橋本真一。「芸能界は選択肢になかった」と語る彼が役者になった理由や俳優業への思い、さらに今後の展望も語ってもらった。
■就活を目前に考えた「本当にやりたいこと」
ーー橋本さんが俳優を目指したきっかけを教えてください。
親族に公務員や教師、弁護士などがいて、安定の道が当たり前の環境で育ったんです。自分自身も特にやりたいことがなかったですし、両親の期待に応えることも苦ではなかったので、芸能界は選択肢にありませんでした。
高校のときに文化祭で劇の主役を経験したり、ダンスチームに入っていたりしたこともあって、人前に立つ楽しさは感じていたんですけど、まさか仕事になるなんて当時は思っていなかったですね。でも、テレビっ子だったこともあって、無意識のうちに憧れはあったのかと思います。
大学3年になるときに、友人と「就活が始まったら、流れで就職してしまうんだろうな」と話していたんです。そこで、本当にやりたいことを考えたときに、俳優という道が浮かびました。
ーー大学時代も俳優活動をしていたんですか?
大学2年生まではしてませんでした。当時は『ROOKIES』や 『クローズ』など、若手俳優が活躍する作品が流行っていて、自分もやってみたいなと思ったことがきっかけですね。、「一回だけ挑戦してダメなら諦める」と決めてオーディションに臨んだら、オーディションには落ちてしまったのですが、特待生として養成所に入らないかと声をかけていただいて、大学を1年休学して上京し、養成所に入りました。
ーーさきほどお伺いしたような家庭環境で育つと、相当な覚悟が必要だったのでは?
そうですね。僕は15歳で父を亡くしていて、それから女手ひとつで母に育ててもらっていたんです。だから、挑戦するからには絶対にやりきると決めて養成所に入りました。母は心配しつつも、「1年休学して養成所に通うなら、その1年を中途半端にせず、やり切りなさい」とバイトする必要がないようにと仕送りをしてまで背中を押してくれました。
養成所で結果が出なければ諦めるつもりでしたが、在学中から少しずつ仕事をいただけるようになりましたし、養成所卒業後すぐにミュージカル『テニスの王子様2ndシーズン』に合格できたことは大きな出来事でしたね。
ーー“テニミュ”と復学期間がかぶっていたそうですね。
大学は父の遺産で学費を払ってもらっていたので、どうしても卒業したかったんです。当時は、東京で稽古を受けて夜行バスに乗り、兵庫にある大学で単位を取るために1日中授業を詰め込んで、また夜行バスで東京に戻る生活をしていました。
肉体的にはハードでしたが、大きな舞台に出演して、応援してくれる人も目に見えて増えていて、精神的には充実していた期間でした。
ーーちなみに、今回撮影を担当したカメラマンのTOYOさんは、養成所時代に橋本さんと同じ寮に住んでいたそうですね。
16年前に一緒に住んでいました。当時から写真を撮ってもらうことは何度もあったけど、やっぱりお互いに仕事の現場で撮影してもらうのはちょっと恥ずかしかったです(笑)。
周りを見ても、クリエイティブな業界は続けることが難しいので、互いに目指していた世界のプロ同士として再会できたことが、本当にうれしいですね。

■「人のために役者を続けよう」と思った出来事
ーー“テニミュ”の後はどんな俳優人生でしたか?
3年ほど出演した“テニミュ”を卒業した後は、正直言うとつらい日々でした。作品の看板がはずれた途端に、チケットの売上も、ブログのコメント数も目に見えて減っていったんです。役者としての仕事も減って、自分の実力ではなく作品の力だったことを実感しました。今思えば当たり前なんですが、当時は若かったし、自分を過信していましたね。
けれど、それが演技や歌、人としての成長が必要だと見つめ直すきっかけになりました。規模が大きくない作品でも、主役をつとめて、地道に実力を積み重ねようと決心したんです。ここでしっかりと芝居を学べたことで、現在につながっていると確信しています。
ーーその期間にターニングポイントとなった作品はありますか?
ミュージカル『AGAIN!』です。サンタクロースはもともと、誰かひとりのことを幸せにする存在であるという説を基にしたお話でした。
僕は主役のサンタクロース役を演じたのですが、彼の前に5人の不幸な人が現れて、ひとりに決められない主人公が、どうにか全員を幸せにできるように手伝うんです。その5人の中に、心臓移植が必要な病気の女の子がいました。実はその子には実在のモデルがいて、作品の収益の一部を寄付に充てていたんですよ。
あるとき、寄付を募る街頭演説をするシーンで、お客さんがステージまで来て、募金箱に1000円を入れてくれたことがあって、その1000円も寄付させていただいて。お芝居だとわかっているはずなのに、きっと心を動かされて行動してくれたのだと思うと、「自分の芝居が誰かの命を救う一助になれた」という経験が衝撃だったんです。そこで僕は、人のために役者を続けようと強く思いました。
ーー誰かのために役立つことが、この仕事を続ける意味なんですね。
自分が好きなことを続けられるのは、観客・ファン・家族が応援してくれるおかげだと思っています。自分のためだけでは頑張りきれず、誰かのためでなければ途中で辞めていたと感じますね。

■120%で舞台に立つ理由と今後の目標
ーー橋本さんといえば、『僕のヒーローアカデミア』The “Ultra” Stageの青山優雅役が印象的でした。
毎公演アドリブを任されていたのですが、リピーターが多い2.5次元舞台で何度来ても楽しんでいただくために、毎回動きやアイデアを変えて挑んでいました。その結果、目に見えて痩せていくほど体力を使っていたんですが(苦笑)、客席の笑いや拍手が大きな力になりましたね。
演技のゴールは、お客さんの反応だと思っているんです。やり切って終わりではなく、届いた演技が観ている人の心を動かし、そのリアクションが返ってきて初めて「成仏した」と感じています。泣いた・笑った・感動したという声が、努力が報われたと実感させてくれますね。
ーー役作りはどのようにされているのですか?
まず原作の発声・癖・喋り方を徹底的にインストールして、どんな言葉を話してもキャラクターでいられる状態を目指します。ただし外側だけではモノマネになるので、そこに心の核や生い立ち、他の登場人物との関係性を深く掘り下げてチューニングしていくイメージですね。
2.5次元でも舞台上に生きる人間らしさを忘れず、原作の枠を守りながらも、その枠を少しでも広げることで、キャラクターの可能性を広げていくことを意識しています。
ーー役にのまれてしまうようなことはないですか?
昔は不器用な入り込み型で、言わされているセリフは観客に必ずバレると思っていたんですよね。夜にお風呂で台本を読んでいたら、たった一行のセリフが嘘なく言えずに朝になっていたこともありましたし、ノートにその人物の人生をすべて書き出していたこともありました。自分が納得しないとお客さんに失礼だという、エゴに近い責任感が強かったんでしょうね。
今は客観視できるようになって、のまれることはなくなりました。演出的な視点も持つようになって、バランスが取れるようになった気がします。
ーー1月に上演される「狂音文奏楽 文豪メランコリー『BUNGO'S WIVE』」への意気込みを教えてください。
“文メラ”はゲスト出演で、本編に深く関わるわけではないんです。でも、初演に関わっていい作品を作った実感はあるので、初演メンバーの誇りを背負って臨みたいですね。
ただ、ゲストとはいえ、初演時のゲストさんは出番やセリフ量が多くて、他の舞台ならほぼメイン並みだったので緊張しています。今作はどうなるか分かりませんが、どうなっても期待に応えられるように精一杯頑張ります。
ーー来年5月には、舞台『魔法使いの約束』きみに花を、空に魔法を 後編も控えています。
“まほステ”で演じているムルは二面性のある難しい役ということもあり、気合が入っています。原作が本当にすてきな作品なので、その世界観を再現できるようにつとめたいですね。
これまで3作出演して、前任の橋本汰斗さんの魅力的なムルを尊重し、そのムルを愛してきたファンの気持ちも大切にしたいと思いながら演じてきました。今はやっと、汰斗くんが演じたムルを継承しながらも、自分の色を強く出せるようになってきたと感じています。役柄的にも自由なキャラクターなので、毎日違う動きをしつつ、舞台上でムルが生きていることを感じながら演じています。
“まほステ”では、山田ジェームス武くんが隣にいてくれることも心強いです。彼も本当にお芝居が大好きな人ですし、「こういうお芝居っていいよね」という感覚が似ているんです。だからアドリブで何をしても返してもらえるし、互いにそれを楽しんでいるし、一緒に演じていられることが喜びなんです。
キャストが多い舞台なので、自分に与えられるシーンや表現をするチャンスは少ない中でも、最大限何ができるかを考えて演じているので、観ている人に楽しんでいただけたらと思っています。
ーー最後に、今後の展望は?
俳優の仕事は趣味であり生きがいであり、仰々しい言い方ですが、“今世の使命”だと感じているんです。届けたものを受け取ってくれる人がいる現在がすでに幸せで、その環境を続けるためにも努力し続けたいですね。年齢とともに役の幅も変わるので、役者としても人としても誠実に生きていくことが大事だと考えています。
ーーさきほど、「演出的な視点も持つようになった」というお話がありましたが、演出側の仕事もやっていきたいという思いもあるのでしょうか?
すでに輝山立くんと2人でプロデュースする音楽朗読劇を継続的に作っていて、来年2月で4作目になります。ただ、作り手としての仕事も楽しいですが、あくまで軸は俳優としての活動です。まず俳優として地に足をつけたうえで、若い世代に経験を伝える場として、創作にも取り組んでいきたいですね。
◆取材・文=イワイユウ/ヘア&メーク=田中宏昌/スタイリング=北村梓(Office Shimarl)

