和牛、豚肉、鶏肉(ブロイラー)の生産量が日本一を誇る畜産県・鹿児島。そのうえ実は水産業も盛んで、なかでも養殖に関してはウナギ、ブリ、カンパチが生産量日本一であることをご存じでしょうか。本稿でフォーカスするのは、その中のウナギ。なぜ鹿児島のウナギはスゴいのか、そしてウナギの名店やコスパよく食べる裏技などを紹介します。
課題山積みのナウなウナギ文化を強く支える大崎町
真実を知るべく訪れたのは、ウナギ養殖日本一の町である鹿児島県大崎町。ウナギ好きが高じて20年以上研究や発信をし、人気番組『マツコの知らない世界』のウナギ回に出演するなど活躍する、高城久(たかしろ ひさし)さんの案内でじっくり勉強してきました。
▲ウナギ愛好家の高城さん。持っているのは著書『読めばもっとおいしくなる うなぎ大全』
ウナギは約5000年前の縄文時代には食べられていたとされ、奈良時代には万葉集に「夏痩せにウナギが良い」とも詠われる伝統食です。大きな転換点となったのが江戸時代。千葉の野田・銚子・流山で濃口の醤油と白みりんが誕生したことでタレとなり、発明ともいえる美食・ウナギの蒲焼きが生まれたのです。
さらに、平賀源内のエピソードで有名な『土用丑の日』マーケティング(諸説あり)の影響もあり、ウナギは今に続く栄養満点のご馳走に。そして、この需要と供給を支えたのが1980〜90年代に量産技術が確立されたウナギ養殖です。
それまでのウナギは天然ものが主流で、より希少な存在でした。養殖により生産が安定したことで、スーパーやチェーン店などで比較的安く味わえるようになったのです。2010年には、世界で初めてニホンウナギ(品種名。海外品種より身がやわらかく、脂が上品で美味)の完全養殖が成功しました(実用化はこれから)。
ただし2010年代に入るとシラスウナギ(稚魚)が不漁となり、環境省はニホンウナギを絶滅危惧種に指定するほどの状況となりました。それは市場にも影響をおよぼし、さらに近年は海洋環境の変化や飼料と燃料費の暴騰などによって、ウナギはやはり高嶺の花に。
加えて2025年の11月には、ワシントン条約におけるウナギの国際取引規制が話題にもなりました。結果としては否決となりましたが、引き続きこの問題は注視すべきといえるでしょう。やや極論かもしれませんが、つまりおいしく安定的なウナギの食文化を最も支えているのが大崎町の養鰻(ようまん)なのです。
鹿児島の養鰻が他県を圧倒する3つの理由
一方でウナギの名所と聞くと、老舗や名店が多い東京と近郊の埼玉・茨城・千葉、ひつまぶしで有名な愛知、浜松の『うなぎパイ』で知られる静岡西部がイメージされるでしょう。ではなぜ、生産量では鹿児島が他を圧倒しているのでしょうか。
理由は大きく3つあり、ひとつが名水です。大昔の火砕流が堆積したシラス層。この台地が広がる鹿児島南部の大隅半島は、地表の保水力が低い分、地下に吸い込まれた雨水がシラス層でろ過され清らかな湧水に。これがウナギ養殖に欠かせない、清澄で膨大な水源のオアシスとなるのです。
もうひとつは、シラスウナギの産地が近いこと。稚魚は黒潮に乗ってやってくるのですが、 九州の太平洋側はこの子たちが日本に初接岸する地点のひとつであり、新鮮な稚魚を確保しやすく、そのまま地元の養鰻場へ運び込める利点があります。
そして3つめは、温かさ。南九州特有の温暖な気候は、ハウス内の温度を維持する燃費効率がよく、ウナギの成長スピードを早めるためにも適しているのです。鹿児島の生産者は、抗生物質や抗菌剤に頼らずとも元気に育てる無投薬養殖にも積極的ですが、これらは恵まれた湧水や温暖な環境の賜物ともいえるでしょう。
▲訪れたのは12月。同町のカリスマ、楠田養鰻(写真は飼料を整えて積み込むシーン)ではTシャツで働く方も。コートは不要で、筆者もロンTで取材しました
また、大崎町はウナギの加工も国内トップレベルです。たとえば『おおさき町鰻加工組合』は、日本で初めて養殖から加工まで一貫管理するシステムを構築した実力派。一貫体制なので鮮度がよく、生きたまま氷締めして仮死状態にしてから捌くことで、よりフレッシュな状態で商品化できるのです。
▲『おおさき町鰻加工組合』にて
実際に工場見学もさせてもらいましたが、技術力は圧巻。たとえば、東京のウナギ名店でも行われているような、蒸してからタレ付けと焼きを4回繰り返す工程を取り入れたり、しっかり焼き上げた直後に急速冷凍することで、ウナギの水分を保ちつつ焼きたての風味を閉じこめたりと、おいしく仕上げるこだわりが随所にみられました。
▲約700℃で焼き上げたらすぐに、マイナス45℃でピキッと冷凍。なお、ウナギは地域によって味の好みが異なるため、同加工場では関東、東海、関西、九州とでレシピを変えているとか
