この謎に迫るべく、飛躍的に競技成績が向上する現象を「ブレークスルー」と名付け、過去にブレークスルーの経験があり、全国大会で上位進出経験のある8名の選手にインタビューを行ない、その内容を徹底分析しました。
第11回は、「頻繁に大会へ出場すること」の重要性について解説していきます。

■ブレークスルーは「いつ」起こるのか?
これまでの連載では、ブレークスルーにつながる練習への取り組み方や、モチベーションの高め方を紹介してきました。これらはいずれも、ブレークスルーの実現にとって必要不可欠な要素です。
しかし、本連載ではブレークスルーを「ある時期を境に、競技成績が飛躍的に向上する現象」と定義しています。この定義に立ち返ると、ブレークスルーが実際に起こるのは、練習ではなく、試合の場面なのです。すなわち、練習で良い感覚を掴み、パフォーマンスが向上することは、ブレークスルーの重要な前提条件のひとつですが、試合での結果が変わらなければ、それはブレークスルーとは言えません。
筆者自身の経験や、周りの選手との会話を振り返ってみても、「試合よりも練習の方が好き」という選手は意外にも多いものです。しかし、ブレークスルーの確率を高めるためには、練習することと同じくらい、試合に出場する機会を増やすことが重要になります。
■格上選手への勝利によって「メンタルブロック」が外れる
多くの選手は、ブレークスルーを経験した当時を振り返り、「一度格上の選手に勝ったとき、『自分はこのレベルでも戦えるんだ』と思えた。この『自己評価が変わる瞬間』が、とても大切だと思う」と語ります。これは、過去の試合結果をもとに無意識のうちに形成された「自分はこのくらいのレベルの選手なのだ」という「メンタルブロック」が外れる瞬間だと言えます。その結果、選手は自分の潜在的な能力を、これまで以上に発揮できるようになるのです。
「メンタルブロック」が外れるきっかけは、「自分が勝った」という「直接的な成功体験」であることが多いですが、実はそれだけではありません。心理学の研究では、自分と似た立場や状況の他者の成功を目の当たりにし、「この人ができるなら、自分にもできるかもしれない」と感じる「間接的な体験」もきっかけになり得るとされています。日頃から一緒に練習しているチームメイトが好成績を残した姿を見ることも、その一例です。
こうした「メンタルブロック」の影響力を象徴する事例として、陸上競技の「10秒の壁」が挙げられます。陸上競技の100m走では、長らく平地で10秒を切る選手が現れなかったなか、1983年にカール・ルイスが9.97秒を記録すると、その直後から次々に10秒を切る選手が登場しました。その背景には、トレーニング方法や用具の進化といった環境的な要因もありますが、「10秒を切ることは不可能ではない」と信じられるようになったこと,すなわち「メンタルブロック」が外れたことも、ひとつの要因であったと考えられます。
■格上選手との対戦機会がどれだけあるか?
ここまで述べてきたように、格上選手への勝利によって「メンタルブロック」が外れることは、ブレークスルーそのものと捉えてもよいでしょう。そう考えると、「格上選手へ挑戦する機会」が競技生活のなかにどれだけ組み込まれているのかは、ブレークスルーの確率を高める重要な要素となります。
これは一見すると当たり前に思えますが、実際に過去1年間に出場した大会を振り返ってみると、こうした機会が十分に確保されていないケースも少なくありません。たとえば大学生年代の選手は、一般の大会に出場しない場合、年間の大会数自体が少なくなりやすく、結果的に格上選手へ挑戦する機会も限られてしまいがちです。また、その他の年代についても、大会には出場しているものの、大会のグレードが実力と合っていないことを背景として、格上の選手と対戦できていないケースが見られます。
実際、ある選手はインタビューのなかで、「全国大会で優勝したあと、その年代の大会には常に上位シードとして出場することになり、いつも追われる立場で試合をしていました。そのうち、テニス自体も守りに入りはじめて、不調な時期が続きました。そんな中、コーチと話をして、全日本選手権と国際大会に照準を合わせ、出場する大会のレベルを上げたところ、心理的にも技術的にも、大きく状況が改善しました」と語っています。
これはトップレベルのケースではありますが、自分の実力に合わないグレードの大会に出場し続けることで生じうる課題を示しています。多くの場合、「負けるよりは勝ちたい」という心理が働くため、勝利できる可能性の高いグレードの大会を選びたくなるものです。しかし、そもそも格上の選手に敗れる可能性のある場に身を置かなければ、ブレークスルーが起こることはありません。
こうした考え方は、選手自身の「試合の選び方」だけでなく、部活動やクラブチームでの「練習試合の組み方」といった、コーチやチームのリーダー層の日常的な実践にも応用することができます。チーム内の練習試合では、近いレベルの選手同士で対戦を組むことが多くなりがちです。これを基本としつつも、定期的にレベル差のある選手が対戦するチャレンジマッチを取り入れることで、チーム全体が活性化することがあります。なぜなら、チーム内で番狂わせが起こることは、勝利した本人にとっての成功体験になるだけでなく、周囲の選手にも「自分もできるかもしれない」という感覚をもたらす可能性があるためです。
今回は、日々の練習やトレーニングに継続的に取り組んでいることを前提に、どのような大会に出場し、どのような経験を積むことがブレークスルーにつながるのかを考えてきました。練習やトレーニングの取り組み方や考え方については、これまでの連載を参考にしてみてください。次回以降は、実際に格上の選手と対戦した際に、どのようなことを意識するとよいのかを、より具体的に解説していきます。
解説=日置和暉
2000年生まれ。慶應義塾体育会庭球部を経て、慶應義塾大学大学院に進学。慶應義塾大学総合政策学部非常勤講師。プリンス契約コーチ。2023年、日本テニス学会研究奨励賞。
解説=發田志音
2000年生まれ。慶應義塾体育会矢上部硬式庭球部を経て、東京大学大学院に進学。国際テニス連盟のコーチング科学誌で論文審査を担当。2018年、日本テニス学会研究奨励賞。
構成●スマッシュ編集部
※スマッシュ2024年12月号より抜粋・再編集
【画像】なかなか見られないトッププロの練習やテニス教室の様子
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