
古代の壁画は一般に、「家族や集団ではなく、男性が一人で創作するものだった」と考えられています。
しかし、カンタブリア大学(UC・スペイン)とケンブリッジ大学(CU・英)の研究では、この常識を根底から覆す報告がされています。
西ヨーロッパ全域で見つかっている旧石器時代の手型ステンシル750点を調べた結果、なんと4分の1(25%)は子どもの手によるものだったのです。
これは古代人が、芸術を個人でなく、家族や仲間で楽しんでいたことを示唆します。
研究の詳細は、2022年3月4日付で学術誌『Journal of Archaeological Sciences』に掲載されました。
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- 全体の25%が「2〜12歳の子どもの手」と判明
全体の25%が「2〜12歳の子どもの手」と判明
研究主任の一人、ディエゴ・ガラテ(Diego Garate)氏は、この調査について、「私たちの主な目的は、古代社会が生み出した芸術そのものではなく、これらの芸術作品を創造した人々についてより深い知識を得ること」と述べています。
そこで本研究では、スペイン、イタリア、イギリス、フランスなど西ヨーロッパ全域で見つかっている旧石器時代の手型ステンシル750点を調査しました。
ステンシルとは、岩壁に手を当て、その上から顔料を吹き付けて手形を作るアートです。

この研究では特に、スペイン各地の洞窟で見つかった、約2万年前の壁画計180点を重点的に、3Dモデルで分析しました。
その後、それぞれの手形に現代の高度な生体分析を行い、手形の持ち主の年齢を測定。
ステンシルの手形は、実際の手に比べてシルエットが大きくなるため、数センチの誤差が生じます。
その誤差も考慮して計算したところ、予想をはるかに上回る数の「子どもの手形」が同定されたのです。
同様の手法を用いた結果、全体の750点のうち、少なく見積もっても、4分の1(25%)が2~12歳の子どもによって制作されたものと判明しました。
チームは、これらの手形について、「大人や青年たちに分類できるほど大きくなかった」と指摘します。

古代の芸術創作は「みんなでワイワイ」やっていた?
この結果について、研究主任のヴェロニカ・フェルナンデス=ナヴァロ(Verónica Fernández-Navarro)氏は「これまで考えられてきたように、古代の芸術は、男性個人にのみ結びついた閉鎖的な活動ではなかったと思われる」と述べています。
家族や集団で行われたと言えるのは、手形ステンシルが子ども一人では制作できないと考えられるからです。
これら先史時代の壁画は、岩壁に手を当てた状態で、中空の葦(あし)や骨をストロー代わりに、顔料を巧みに吹き付けなければなりません。
ですから、この場合もおそらく、親や大人が子どもの手を岩に押し当てさせ、その上から顔料を吹き付けたと考えられます。
その微笑ましい光景が目に浮かびませんか?
古代の壁画は、厳かな儀式というより、家族や友人と一緒に和気あいあいと行う娯楽の一つだったのかもしれません。
参考文献
A Whopping 25% of Prehistoric Rock Art Could Be Children’s Art, Study
https://www.ancient-origins.net/news-history-archaeology/childrens-art-0016531
元論文
Visualizing childhood in Upper Palaeolithic societies: Experimental and archaeological approach to artists’ age estimation through cave art hand stencils
https://doi.org/10.1016/j.jas.2022.105574
ライター
大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。
編集者
ナゾロジー 編集部

