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「囲碁は20手先、お笑いは客席を見る」囲碁将棋×プロ囲碁棋士・上野愛咲美が語る“勝負勘”の正体

「囲碁は20手先、お笑いは客席を見る」囲碁将棋×プロ囲碁棋士・上野愛咲美が語る“勝負勘”の正体

お笑いと囲碁に共通する、相手や観客を見る力 

––––お笑いの場合、オーディエンスの反応を見て、その場でネタの細部を変える、というのは難しそうです。

文田 やっぱりコンビでやっているので、その場で意思を共有できないんですよね。だから基本的には方向転換せず、スベってもやり切る、みたいな感じです。

上野 でも、1公演目と2公演目でネタを変える、ということはありますよね?

根建 一応、例えば同じ劇場で3公演ある場合は、すべて違うネタをやるようにはしています。ただ、芸人さんは結構同じようにやっていますよ。上野さんも、対局ごとに戦術を変えていますよね?

上野 確かにそうですね。相手を研究したうえで、その人に対して最適な戦い方を選ぶようにしています。お二人は、その日やるネタをどうやって決めているんですか?

根建 「今日やるならこのあたりかな」という候補がいくつかあって、その日の客層――例えば修学旅行の学生が団体で来ている、とかを見て決めています。

文田 舞台裏にモニターもありますし、前説などを見れば、だいたいの雰囲気もつかめるんですよ。「今日はあんまり笑わないな」とか、「何でも笑ってくれそうだな」とか。ただ、1本目で想定していた反応が返ってこなかったとしても、2~3本目でネタを変えることはあまりないですね。

根建 上野さんは、対局直前で戦術を変えることはあるんですか?

上野 ありますね。相手の表情や雰囲気を見て、変えることがあります。例えば、相手の気合が入りすぎているようだったら、普段はあまり打たないような戦術で挑んでみたり。

根建 すごい。「あ、ちょっとコイツ鼻息荒いな」みたいな。

上野 そうです、そうです(笑)。特に世界戦だと、そういうことが多い気がしますね。

文田 ちなみに読み筋みたいなのって、どうやって鍛えているんですか?

上野 やっぱり本番の対局を積み重ねることでしょうか。真剣勝負を何度も繰り返すことで、どこで集中すればいいのかなどが自分の中でわかってくるんです。直感的なところも大きいんですけど。

––––やっぱり現場を積み重ねることは大事ですね。お笑いの場合はどうですか?

文田 それこそ、例えば5時間くらい打ち合わせしてネタを作っても、実際に舞台上でポロッと出たアドリブが一番ウケた、みたいなのはありますよね。

根建 囲碁だとあんまりないですか? 事前に研究した形ではないけどその場の思いつきでやってみる、みたいな。

上野 全然ありますよ! いまではAIが有効な打ち手を確率で出してくれるんですけど、それよりも、自分で適当に選んでみた手がうまく進む、みたいなこともあります。

お笑いと囲碁、AIとのちょうどいい付き合い方は?

––––囲碁はAI技術のブレイクスルーとして注目されるのも早かったですよね。普段から上野さんも活用されているんですか?

上野 AIと対局することはないですが、日頃から参考にしながら勉強しています。研究会でも、対局後にAIを使って「ここの手がよくなかった」といった振り返りをすることは多いですね。

それこそ、お笑いの世界ではどうなんですか? ネタづくりでも使えそうですよね。

文田 作らせたことはありますけど、まだ正式なネタとして採用できるレベルではないですね。台本っぽいものは確かに作れるんですが、だいぶ無理がありました。

ただ、この先どうなるかはわからないです。囲碁でも、コンピュータが人間に勝つなんて「まだまだ先だ」と言われていたじゃないですか。でも、一気に流れが変わったので。

根建 近い将来「AIで作ったネタでM-1チャンピオンになりました」って人が出てきても、おかしくないですよね。まだ実際に聞いたことはないですけど。

文田 囲碁や将棋と違って、笑いのツボをデータ化するのは難しいですよね。数値化できるものじゃないので、もう少し時間はかかりそうな気もします。

上野 なるほど。でも、私もAIはあくまで参考にする程度ですね。例えばAIが「90%負けます」みたいな評価値を出したとしても、それが本当に逆転不可能な90%なのか、まだ勝てる可能性が残っている90%なのかは、また別の話なんです。

だから、あくまで研究のサポートとして使っている、という感覚ですね。それに、AIの指示どおりに打てば勝率は上がるかもしれませんが、それだとやっぱり自分が面白くないですから。

<後編に続く>

インタビュー・文/毛内達大
写真/宮崎慎之輔
取材協力/藤澤一就一門後援会

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