9月になると一斉に全国各地のスキー場のシーズン券や早割券の情報が解禁される。どこをベースにこの冬は滑ろうかという判断材料が豊富に揃う時期だ。
すでに滑る場所が決まっている人は、早々に冬のチケットを手に入れているが、そんな人ばかりではない。
自宅からのアクセス、スキー場の規模や数、積雪量、チケットの金額、滑る日数や回数など、様々な要素から最適解を求めて、締切期限のギリギリまで頭を悩ませる。とくに、はじめてシーズン券の購入を考えていたら、なおさら迷うだろう。
そこで、ここでは異なるバックボーンを持ちながら、初めて購入したシーズン券をきっかけに滑る魅力に深く惹き込まれた2人の滑り手を紹介しよう。
24-25シーズンにはじめてHakuba Valley全山共通シーズン券(通称・バレー券)を手にして、1シーズンをHakuba Valleyで過ごした、関東在住の會澤(あいざわ) 沙祐里さん。関西からシーズン券購入と就職をきっかけに長野県へと移住した長崎明歩さん。
はじめてのシーズン券は、彼女たちのスノーボードライフに何をもたらし、これまでのシーズンとどのような変化があったのか。昨季の3月30日にエイブル白馬五竜に待ち合わせて、一緒に滑りながら話を伺った。


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滑り方が変わる!? 「運任せ」から「狙い撃つ」スタイルへ
STEEP編集部(以下STEEP):今日はシーズン終盤の貴重な1日を費やしていただき、ありがとうございます。
早速ですが、2人がバレー券を手にする前は、どんなスノーボードライフを送っていたのでしょうか?
會澤沙祐里さん(以下會澤):本格的にスノーボードを始めたのは社会人になってからです。スノーボード歴は9年になります。当時は家の近い人同士が集まって、一台の車に乗ってゲレンデに行く「あいのり」スタイルでした。みんなで滑って、帰りの道中でご飯や温泉に入って帰宅するという、一般的なスノーボードとの付き合い方です。
車を持つ友人の予定に合わせるので、行き先の決定権はドライバーにあることが多くて、自分の意志で「今日はあそこのスキー場へ行く」とは、なかなかならなかったですね。

長崎明歩さん(以下長崎):私も大学1年生でスノーボードを始めて6シーズンが経ったんですが、昨季バレー券を買うまでは、シーズンに2、3回行ければ良い方でした。友達と休みを合わせて、「とりあえず行こう!」という感じ。
だから、その日のコンディションがパウダーなのか、ガリガリのアイスバーンなのかは、行ってみないとわからない。完全に「運」任せでしたね。コンディションを選ぶなんて発想は、そもそもありませんでした。
STEEP:そういったスタイルからバレー券を手にして、まず何が変わりましたか?
長崎:もう、すべてが変わりました(笑)。一番は滑走日数です。シーズンに2、3回滑りに行っていたのが、いきなり25回から30回にまで増えました。これまでの私のスノーボード人生の総滑走日数を、1シーズンで超えちゃったくらいです。
STEEP:劇的な変化ですね、滑る場所の選び方にも変化はありましたか?
會澤:私はそれが最大の変化かもしれません。水曜日あたりから週末の天気図をチェックするのが習慣になりました。「この冬型の気圧配置なら、新潟県境に近い小谷エリア(栂池・乗鞍・コルチナ)に雪が降りそう」とか、「西風が強いから、谷の地形で風を避けやすいHakuba 47が狙い目かな」とか。
能動的に、その日のベストコンディションを予測して「狙いに行く」っていう感覚に変わったんです。

長崎:です、です。Hakuba Valleyは南北に長いんで、同じ日でもエリアによって天気が全然違うんですよね。白馬エリアが強風で止まっていても、「じゃあ、南側の爺ガ岳に行こう」といった具合で、すぐにプランBに切り替えられる。
この選択肢の多さは、本当に心強いです。遠征が無駄足になるリスクがほぼなくなりました。
STEEP:「運任せ」から、天候を読んで「狙い撃つ」スタイルに変わったんですね。1日の時間の使い方も、以前とは変わったのではないでしょうか?
長崎: まったく違いますね。以前はリフト券代の「元を取らなきゃ」という意識が強くて、朝から夕方のリフト終了まで滑り倒していました。でも、バレー券があると、「いつでも滑れる」という心の余裕が生まれるんです。
だから、朝一番の誰も滑っていないノートラックバーンを数本だけ滑って、雪が荒れてくる前の午前10時にはもう帰る、みたいな本当に贅沢な時間の使い方ができるようになりました。
會澤: すっごく、わかります、それ。
最高のコンディションだけを味わって、午後はカフェでのんびりしたり、温泉へ行ったり。時間に追われる感覚から解放されたのは、大きな精神的変化でした。量をこなす滑りから、質を追求する滑りに変わったんだと思います。

日常の変化 、 ゲレンデが生活圏になる!?
STEEP:スタイルが変わると、滑り方だけでなく、生活そのものにも影響が出てきそうですね。とくに、平日の過ごし方などはいかがでしたか?
會澤:最高のパウダーデイって、なぜか平日に来ることが多いじゃないですか(笑)。バレー券を持ってからは、「この日は絶対に良い雪が降る」と天気予報で確信したら、もう迷わず有給休暇を取るようになりました。
週末の混雑とは比べ物にならないスキー場を独り占めできる。これは、バレー券を持ったからこそできた最高の特権だと思っています。
長崎: 私はシーズン中はまだ大学生だったので、最高のコンディションが予想される日は、意図的に授業を午後に固めて、午前中はがっつり滑っていました。麓のカフェでWi-Fiを繋いでオンライン授業を受けることもありましたし。
スキー場が特別な場所じゃなく、日常の延長線上にある「生活圏」になったような感覚でしたね。

STEEP:まさにライフスタイルの中にスノーボードが溶け込んでいった感じですね。滑った後の楽しみ方、いわゆるアフタースノーはどうでしたか?
會澤:それは変わりましたね。以前は「ゲレ食」が当然多かったのですが、午前中で切り上げる日が増えたこともあって、白馬村内の美味しいお店を開拓するのも楽しみになりました。
ボリューム満点の定食が人気の「グリンデル」や、地元の野菜が美味しい「農カフェ」が好きです。
長崎:私は拠点が大町エリアだったので、餃子が絶品の中華料理店「俵屋」とか、ローカルが集う「くんくん亭」とか、よく行ってました。地元の人たちとの交流のなかで「あそこが美味しいよ」って教えてもらうことも多くて。滑ること以外の楽しみが、どんどん広がっていった感じです。

