
片田舎で暮らす男子高校生のよしきが、親友の光を模倣する“ナニカ”と共に過ごす中で遭遇する怪異と、それぞれの思いや葛藤を描く青春ホラーアニメ「光が死んだ夏」(毎週土曜夜0:55-1:25ほか、日本テレビ系/ABEMAで配信)。物語はいよいよクライマックスにさしかかり、SNSを中心に視聴者の盛り上がりも一層高まっている。そこで今回、原作を手掛けるモクモクれんと、エンディング主題歌を担当するTOOBOEによる特別対談が実現。後編では、それぞれの創作の原点など、クリエイターとしての素顔が垣間見られる貴重なエピソードをお送りする。(以下、ネタバレを含みます)
■作品を通じてヒカルと一緒に救われた気分になってくれたら

――モクモクれん先生のホラーやオカルトの原点はどこにあるのでしょう。
モクモクれん 物心ついたときからホラーが好きで、「ほんとにあった怖い話」(フジテレビ)という番組がすごく好きだったんです。妖怪とかモンスターとかお化けとか、人間だけじゃなく超常的な存在が出てくるものがホラーに限らず好きで、それは幼い頃から変わらないですね。
――「光が死んだ夏」がホラーテイストになったのも必然だったのでしょうか。
モクモクれん そうですね。私は人外が大好きなので、かなりヒカル目線になって描いていることも多くて。人外が好きではない人にヒカルを好きになってもらおうと、ストーリー上でかなり努力しました。
――本作を描かれるにあたって、最初にあったのはキャラクターですか、それとも設定ですか?
モクモクれん ストーリーですね。人間がモンスターに成り代わられる話はよくあると思うんですけど、モンスターが敵になるか、人間にとって良いことをして最後に消えるかしかないんですよ。それが毎回モヤモヤして。モンスター目線に立った作品はあまりないので、そういうものを読みたいというのが始まりでした。
――作品が多くの人に愛されているというのは、実はこういう作品が求められていたということなのかもしれませんね。
モクモクれん いつも敵になってしまう、排除されてしまう立場の目線で描かれた作品というのは、モンスターに限らず感情移入する人が多いのかなって。現実世界にモンスターはいないですけど、この作品の何かを自分の境遇に当てはめて、ヒカルと一緒に救われた気分になってくれたらうれしいですね。

――TOOBOEさんの創作の原点についてお聞かせください。
TOOBOE 奥田英朗さんの「イン・ザ・プール」という小説がありまして、心を病んだ人とお医者さんの話がいっぱい入った短編なんですが、それがすごく好きで。心を病んだ人が自分を許す物語で、完治はしないけれどもっと心が楽になる方法を、お医者さんを通して学ぶんです。自分は人とちょっと違うんじゃないか、周りと違っていてなじめないという人に、僕は音楽でそれをしたいんですね。僕も周りが勉強しているのに勉強に集中できなくて、変なことをしちゃうような子どもだったんですけど、そんなときに出会った小説なんです。TOOBOEは“負け犬の遠吠え”というスラングから取っているのですが、社会を勝ち負けに二分したときに自分は負け側の人間だと思う人がいて、僕もどっちかというとそういうタイプの人間なので。
――「あなたはかいぶつ」にもそういう思いがあると。
TOOBOE そうですね。よしき君みたいにどう頑張っても光は帰ってこない、努力ではどうしようもない環境による負け状態というのは、現実でもいろんな人にあって。そういう人に対して曲を書きたいという思いが、「あなたはかいぶつ」を書いたことで解像度が上がった気がします。
モクモクれん すごくいい話ですね。自分がどうしようもない負けに直面したときに、漫画や音楽が味方になってくれるというのはありますよね。直接の解決策を提示できるものではないですけど、解決できないことに直面したときに寄り添えるものではあると思います。

■神格化されることへの葛藤から生まれた名曲「春嵐」
――今、お互いに聞きたいことはありますか?
モクモクれん TOOBOEさんがjohnさんの時代に書かれた「春嵐」がすごく好きで、特に漫画を描き始めてから共感できることが多くて。あの曲を作られたときにどんなことを考えていたのか、すごく知りたいです。
TOOBOE 当時は自分を出さないように、出さないようにしていたんですね。何なら性別や国籍も分からないようにひっそりやっていたんですけど、憶測で勝手に輪郭が作り上げられて、神様みたいになってきたのがすごく嫌だったんです。あの曲を出すまでは細々と音楽をやっていて、みんなと変わらない一個人でしかないから、肥大化した妄想みたいなものはやめてくれという気持ちで作った曲ですね。
モクモクれん 私もいろんなことを隠して漫画を描いているので、「春嵐」が刺さったのが分かるような気がします。よけいな情報を入れずに漫画を観てほしい反面で、作者として責任を持って言わないと伝わらないこともあって。そういったことは漫画の中で伝えるべきだという気持ちもあるのですが、それもある意味クリエイターの傲慢かもしれないと思うところもあり、いろんなインタビューに答えているんですけど。
TOOBOE 作品の方が自分より前にいてほしいというのは僕も同じです。姿を現して自分で歌うと、楽曲より先に人間が出てきちゃうんですよ。ただ、曲がギリギリ僕より前にいるように頑張っていますし、そういう部分に共感していただけたのはうれしいですね。

■憧れは「ベルセルク」三浦建太郎の密度が高い作風
――TOOBOEさんからモクモクれん先生に聞きたいことはありますか?
TOOBOE 僕はすごく絵が好きで、毎週Xで「本日アニメ第何話です」と「光が死んだ夏」の告知をするときに絵を描いているんですよ。先生はとても上手で、ちゃんと教養のあるスキルだという感覚があるので、絵の勉強の原点をお聞きしたいです。
モクモクれん 私は美大出身でガチデッサン勢ではありましたね。小さい頃から絵を描くのが好きだったので、受験勉強を始める前からいろいろな絵を描いていました。絵の息抜きに絵を描くような感じでしたね、ずっと。
TOOBOE やっぱりそうなんですね。僕は独学なので憧れが強くて。影響を受けた漫画家さんはいらっしゃいますか?
モクモクれん 「ベルセルク」の三浦建太郎先生です。作業するパソコンの近くに複製原画を貼って、「これくらいの密度で描きたいな」と。三浦先生の作品はハッチングが多いんですよね。重ねて描いていく技法で、あまりトーンを使わずに絵を描いていく。アカデミックなデッサンを学んだ人は、作品もハッチングっぽいので私もそれと分かりますね。
TOOBOE うれしい話を聞けました、ありがとうございます。
――最後におふたりから読者にメッセージをいただけますか。
モクモクれん スタッフの方々が本当に命を削って頑張って作ってくださっているので、作者としてはアニメスタッフさんたち頑張ってくださいとしか言えないのですが。いろいろな人の努力が詰まった映像になっているので、最後まで一緒に観ていただけたらうれしいです。原作も終盤に向けて盛り上がっていて、作者として頑張って完結まで描きたいと思いますので、どちらもお付き合いいただければうれしいです。
TOOBOE 最終話まで観終わったあとに「この人がエンディング主題歌担当で良かったな」と思ってくれればいいなと。この曲はヒカル君とよしき君の曲ですけど、聴いてくださる皆さんの曲でもあるんですよね。アニメが終わったあとにも、この曲が隣人を愛するためのきっかけになってくれたらと切に願っております。
◆取材・文=帆刈理恵(スタジオエクレア)

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<プロフィール>
・モクモクれん

漫画家。『光が死んだ夏』で商業連載デビュー。
青春とホラーが交錯する鮮烈な世界観がSNSを中心に話題を呼び、連載開始から1年足らずで同作品が『このマンガがすごい!2023』(宝島社)オトコ編第1位、『マンガ大賞2023』第11位を獲得。小説化・アニメ化・舞台化など、様々なメディアミックスが展開される。
・TOOBOE

音楽クリエイター「john」による、作詞/作曲/編曲/歌唱/イラスト/映像を始めとした様々なクリエイティブ活動を手がけるソロプロジェクト「TOOBOE」。
特徴的な声とキャッチーで癖になる楽曲で、現代の音楽におけるネットシーンとJ-Popを横断的に行き来し表現するマルチアーティスト。
2022年4月に1stシングル「心臓」をリリースしメジャーデビュー。
2022年11月にリリースした「錠剤」はTVアニメ『チェンソーマン』第4話エンディングテーマとして起用された。
さらに2024年6月に公開した「痛いの痛いの飛んでいけ」のMVは、既にそれぞれ2000万回再生を突破している「心臓」「錠剤」を凌ぐ勢いで世界各国で話題を呼び、自身最速でYouTubeの再生回数2000万回を突破した。

