(2)職人さんたちが不得意なことをやっている
工藝界における新参者の僕らではあるが、こうした現場の変化は、全国各地の工房を訪ねて回るなかでも実感するところが多々あった。業界構造の変化を感じ、自社でブランドを立ち上げて商品開発・販路開拓をし、ネットショップを始める職人さんは非常に多い。ただ、彼らとお話していて感じるのは、必要に迫られた結果とはいえ、とにかく不得意なことを、それでもやむにやまれず試行錯誤している、という姿だった。
これまで、売ることも含めて分業制だったのは、当然その利点もあったからだろう。例えば作り手と使い手をつなぐというのは、単にできあがった作品をお客さんに販売するということだけではない。時代に合わせ、お客さんの嗜好や時代の潮流をある程度反映したチューニングのようなことは、必要があればこれまでも問屋や百貨店からの提案なども受けながら行われてきたのだろう。
しかし、ものづくり一筋に精進してきた職人さんが、突然に「自社ブランドを作ろう」「ネットショップを開設して直販しよう」と考えても、ことはそう簡単ではない。
率直にいえば、経験もなく、得意ではないことを抱え込んで苦境に陥っていると感じることも多かった。なかにはベテラン職人さんのお子さんたちが東京など大都市の企業でビジネスマンとして働いた後に地元へ戻り、後継者としてブランディングやマーケティングに意欲を見せることもある。
ただしこれも、ものづくりの現場と嚙み合う形で結果を出せているケースは残念ながら多くはないのが現状だ。
(3)健康的ではない取引条件の蔓延
お客さんと工藝品の出合う場として大きな役割を果たしてきた百貨店をはじめとする小売店も、もちろん工藝から撤退してしまったわけではない。
リアルショップとして工藝品を愛好家に届ける現場として、長年の実績と経験が活かされうる場だろう。しかし僕はここにも、非常に大きな課題があると考えている。
いま職人さんたちと仕入担当者の商談では、「後継者不足を乗り越えるために」「職人さんのために」ぜひ一緒にやりましょう、という前向きな話がよく語られる。担当者の方々の中には、実際に心からそう思っている人もいるかもしれない。
ただ、現実の取引条件を聞いてみると、その内容で前述のような目標を職人さんたちと「一緒に」実現するのは難しいと感じる。その条件とは、例えばこんな感じである。
「仕入値は定価の六割台後半」
「商品を百貨店へ百〜数百個規模で預ける」
「売れ残った場合は全返品」
「欠品が生じた際は数日内に補充」……。
利益率のとらえ方は状況にもよるが、中小規模の工房が、このボリュームで、かつ買取ではなく委託契約で取引していくのはかなりのハイリスクだろう。だが、小売店の立場からすれば、前述のような取引条件でなければ、いまの状況ではビジネスとして成り立たないのだ。
自分たち自身も小売業を経験してきたからこそ、痛いほどその現実を知っている。しかしその一方で、作り手にとっての仕入条件は、ますます厳しさを増している。
例えばある工藝品を百貨店に200個預けて、結果として50個しか売れなかったとする。この場合、残り150個はそのまま返却されてくる。加えて、欠品時の即時補充に備えた余剰在庫を百個用意していたとすれば、この職人さんは250個もの在庫を抱えることになる。
ただでさえ余裕はない状況で、このような取引条件ではなおさら疲弊することになるだろう。そして、それでも何とかこの状況に適応しようとするなかで、負のスパイラルが生まれていく。

