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「仕入値は定価の6割台後半」「売れ残りは全返品」「欠品は数日内に補充」…不健全な取引条件で疲弊する日本の工藝職人たち

「仕入値は定価の6割台後半」「売れ残りは全返品」「欠品は数日内に補充」…不健全な取引条件で疲弊する日本の工藝職人たち

(4)本来の「輝き」と「やりがい」の喪失

自前でのネットショップ開設・運営は難しい職人さんや、直販ルートだけでは食べていけない職人さんたちは、生き残るために、こうした厳しい取引条件に応えられる品を作らざるを得なくなる。それはひとことでいってしまえば「流通事情に乗る量産品」だ。つまり「売れ筋のデザイン」で「短期間に多数納品できる」商品である。

「美しいモノ」を作ることと、「売れるモノ」を作ることはつながっていそうで(また実際につながることもあるかもしれないが)、本来的には全く違う。そしていま、「売れるモノ」ばかりを過度に追求した結果、「伝統工藝的ブランディングをまぶしただけの『工藝品っぽい』商品」、長年の積み重ねによる文化を雑に濾したような、絞りかすのような商品が少なからず市場に出回っている。

自然の素材を、不自然な流通システムに乗せてものづくりをしても、不健康なモノができるに決まっている。そこでは工藝において大切な、職人さんのこだわりや情熱、ものづくりにおける喜びが失われてしまっている。

さらに、こうして世に出た品々が工藝品のうち多数を占めていくほど、使う側が本当に美しいモノにふれる機会も減ってしまう。結果、工藝を愛でる「眼」は育まれず、負のスパイラルに突き進んでいくだろう。

こうした悪循環は、本来なら素晴らしい才能や可能性を宿した多くの作り手を「ゾンビ職人」(失礼を承知であえてこう呼ばせていただく)ともいうべき、哀しい姿に追い込んでしまう。

さらに、ものづくりが好きで職人の扉をたたいた若手も定着せず、後進の育成が一層困難になっていくだろう。これらに共通する大きな問題は、経済的なこともさることながら、「しごとがつまらない」ものになってしまうことだと思う。職人さんとお酒を酌み交わしながら話していると、「俺の子にはもう継がせたくない」という方は少なくない。以前はお金がそんなに稼げなくとも、自分の目指したいものづくりができていた。

しかしいまは、お金も稼げず、好きなこともできない(ものづくりの喜びも味わえない)のだという。業界構造の変化に対応するために不得意なことを始めるか、割り切って売れるモノづくりの道を歩むか─。ものづくりのことだけを考え、その探究に邁進できる環境が失われていくなかで、職人さんたちはそんな選択肢を迫られている。

また、最近は「地方創生」のかけ声に疲弊させられている職人さんが多いとも感じている。

こうした動きを推進する人々の多くは、伝統工藝に従事する職人さんたちを「助けたい」「救いたい」といって現場へ視察にやってくる。しかし、助ける・助けられるという一方向的な関係になると(実際にはそうした支援の要素があるにしても)、職人さんのしごとや彼らがつくるものの価値に正面から向き合わずに自分たちの施策や提案を進めてしまい、最後は「支援している自分たち」に矢印が向いたような動きになりかねない。もちろんそうでない誠実な方々もいるのは承知の上だが、「地方創生」の仮面を被ったマネー至上主義に振り回された職人さんも実際に見てきた。

現代の社会において日本の工藝の真の魅力を届けるためには、その良さをいかに伝えていけるかと同時に、こうした構造的な課題をいかに改善していけるかが大切だと思っている。

そして、僕自身の目指すことでいえば、それは「社会にインパクトを与えるしごとをしたい」という目標と、「お世話になった職人さんたちに恩返しをしたい」という思い、それぞれともリンクしている。

なぜ日本の手しごとが世界を変えるのか 経年美化の思想

塚原 龍雲なぜ日本の手しごとが世界を変えるのか 経年美化の思想2025年11月17日発売990円(税込)新書判/208ページISBN: 978-4-08-721388-1

隈研吾氏(建築家)推薦!
「職人の手が紡ぐ時間と若い起業家のまなざしが交差する。
伝統と革新が響き合う、手しごと再生の書」

◆内容紹介◆
柳宗悦が民藝運動を提唱して百年。いま、その精神にZ世代の起業家が共鳴し、新たな光を当てる。
「経年美化」──時の流れが育む美しさに惹かれ、日本各地の工房を旅し、職人と火や木や土の声を聴くうちに、その意味は生きた実感となった。
伝統工藝は過去の遺産ではなく、持続可能な社会を築く知恵。モノを愛する心が人を結び、手しごとは世界を変える。そのメッセージは海外でも静かな共感を呼んでいる。工藝から未来を紡ぐ挑戦の書。

◆目次◆
第一章 Z世代、工藝に出合う
第二章 工藝から学んだ、これからの生き方・働き方
第三章 知られざる工藝の世界
第四章 これからの日本の工藝をつくる職人たち
第五章 日本の手しごとの「いま・これから」

提供元

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