庶民の味方「日高屋」はちょい飲み需要獲得が奏功
まだ値上げ余地がありそうなのが「日高屋」だ。
日高屋の2025年11月の価格は2021年同月比で18%の増加だった。総務省によるラーメン価格の調査は19%増で、それを下回っている。
日高屋は2024年12月に「中華そば」を390円から420円に引き上げた。いよいよ看板メニューにも手をつけたわけだが、それでも競合よりは値上げペースが緩やかなのだ。
10円から20円のわずかな値上げに着手しつつ、ちょい飲み需要を獲得して客単価の向上を図ってきた。生ビールとハイボールがそれぞれ20円安くなる「生ビールvsハイボール祭」を実施した、2025年7月~9月は客単価は3%以上アップ。
キャンペーン効果で客数は10%近く上昇した。手頃な価格で顧客にドリンクを出してちょい飲み需要を獲得。結果として客単価も客数も上がった。正に「損して得取れ」戦略である。
運営するハイデイ日高屋の営業利益率は回復しているが、コロナの影響を受ける前の2019年2月期の水準までは達していない。今年はいかなる方針を示すのか、注目すべき企業の一つだ。
いっぽうで、客単価が20%増加しているのが「餃子の王将」だ。強気の値上げでも客離れを起こさない稀有な会社だが、その背景にあるのが脱合理化とも言える人材力の強化だ。2023年に「王将アカデミー」を立ち上げ、店舗運営能力や接客スキル、調理技術などを統合した人材育成システムを構築した。
しかも、王将は餃子のレシピを毎年改めて味の向上を図り、調理研修を徹底していることもあって品質管理が行き届いている。それがリピーターを中心とした顧客を引きつけているわけだ。
飲食店のあるべき姿を体現する会社だが、この戦略は優秀な人材あってのものだ。飲食業界全体で人材不足が深刻化し、同時に店舗網を拡大するという難しいかじ取りが迫られる。今後は従業員のモチベーション維持が一つのテーマになりそうだ。
なお、餃子の王将と真逆の戦略を進めるのが大阪王将である。一部店舗で調理ロボットを導入し、店舗運営の合理化を進めている。この2社の行く末も興味深い。
ついで買いで客単価増を図るサイゼリヤ
大企業の中で唯一無二とも言えるのが、値上げしない宣言をした「サイゼリヤ」だ。
ただし、2025年の国内の客単価は844円で、2021年比で13%増加した。1人あたりの皿数が増えたことが要因だが、これこそドンキ・ホーテなどディスカウントストアが得意とする「ついで買い」の飲食店版だ。
サイゼリヤは他のファミリーレストランと比べて価格が安い。ついつい他の料理も食べたいと、衝動的に注文してしまう。インフレが生み出した飲食店の新たな消費動向と言えそうだが、極限までコストカットするサイゼリヤの戦略を真似できる会社はそう多くないだろう。
サイゼリヤの肝は海外店で、多くは上海や広州など中国エリアが中心だ。日中関係の悪化や中国景気の低迷が心配である。海外事業の収益性に影が差すと、戦略転換を迫られる可能性もありそうだ。
競合のすかいらーくの客単価は王将と同じく20%上昇している。ガストを中心にメニュー開発などを進めているが、今後のキーブランドになるのが2025年2月に都内に初出店した「資さんうどん」だ。
資さんうどんへのリブランドを図ることで、店舗の収益改善を図ることができる。同じすかいらーくグループのガストやバーミヤンなどとは全くの別業態なので、顧客の食い合いも解消されるというわけだ。
ココイチやすかいらーくのように、M&Aで別業態を引き入れるというのは、値上げが一服した企業のトレンドの一つとなりそうだ。牛丼の松屋や吉野家がこぞってラーメン店を買収する背景にも、同一ブランドでの成長に限界が見えてきたからだろう。
インフレが飲食業界の新たな方向を示し始めている。
取材・文/不破聡

