
『もののけ姫』ビジュアル (C)1997 Hayao Miyazaki/Studio Ghibli, ND
【画像】え…っ!「トトロ感強い」「一緒すぎん?」 『もののけ姫』のもののけを知る(4枚)
意外な初期設定に「え、そうだったの!?」
宮崎駿監督のジブリ作品は完成に至るまでに、驚くほどの紆余曲折を経て生み出されます。知ると作品がさらに味わい深くなる、「企画段階の初期設定」を振り返りましょう。
宮崎監督の映画作りで欠かせないのが、監督自らが描くイメージボードです。ときには複数の企画が同時進行し、それらが融合してひとつの作品になることも珍しくありません。
本来のタイトルは『もののけ姫』じゃなかった!
例えば、映画『もののけ姫』(1997)の初期タイトル案は「アシタカせっ記」でした。同時期に、かつて宮崎監督が描き、のちに絵本として出版された『もののけ姫』(1993)の企画も浮上していたのです。絵本版『もののけ姫』のストーリーは「大きな山猫のようなもののけに『三の姫』が無理矢理嫁がされる」というものでした。
最終的に鈴木敏夫プロデューサーが「アシタカせっ記」よりもインパクトがあると判断し、タイトルだけ『もののけ姫』に変更されました。もののけの元に残った三の姫の「三(サン)」だけが残り、ヒロインの名前がサンと名付けられたのです。

『千と千尋の神隠し』ビジュアル (C)2001 Hayao Miyazaki/Studio Ghibli, NDDTM
元々の主人公はリンだった『千と千尋の神隠し』
『もののけ姫』の完成後、当初次回作として検討されたのは柏葉幸子さんの児童文学『霧のむこうのふしぎな町』でした。少女「リナ」が不思議な町のへんてこりんな人びとと交流する物語で、「ゴチャガチャ通りのリナ」として企画されましたが、事情があって断念します。
次に考案されたのがオリジナル企画『煙突描きのリン』です。大震災後の東京を舞台に、風呂屋さんの煙突に絵を描く20歳の女の子「リン」が主人公です。リンは敵対する組織の60歳のボスと年齢を超えた恋に落ちる、という展開に待ったをかけたのは鈴木プロデューサーでした。
鈴木さんは当時大ヒットしていた『踊る大捜査線 THE MOVIE』の現代の若者が解像度高く描かれていたことに感心し、「時代の若者を描くべき」と提案します。鈴木さんの意見を受け入れた宮崎監督は1年間描きためていたイメージボードを捨て、当時の日本テレビのプロデューサー奥田誠治さんの娘である千晶さんやその友人たち(10歳前後の少女)をモデルにした物語に切り替えます。こうして、『千と千尋の神隠し』(2001)が誕生したのです。

初期設定だったらかわいい?それとも… 『崖の上のポニョ』ビジュアル (C)2008 Hayao Miyazaki/Studio Ghibli, NDHDMT
当初は魚の子じゃなかったポニョ
2008年に公開された『崖の上のポニョ』も当初のタイトルは『崖の上の宗介』でした。かつてスタジオジブリの社員旅行で宿泊した、瀬戸内海のとある古本屋で宮崎監督は、夏目漱石氏の『門』を読み、影響を受けます。『門』の主人公「崖の下の家に住む野中宗助」にちなんで考案されたようです。
当初は子供向けの作品を目指しており、中川李枝子さんの名作『いやいやえん』をモチーフに『崖の上のいやいやえん』が考案されていました。並行してカエルのキャラクターを登場させようとしますが、カエルには先行キャラクターがいくつもあり、描いてもあまり面白くないので断念します。
最終的に、お風呂で使う金魚のじょうろのおもちゃから着想を得て、「魚の子ポニョ」が誕生しました。もしポニョがもしカエルのままだったら、いまとはまったく別の印象の作品になっていたことでしょう。
制作の裏側を知ったうえで作品を見直すと、また新たな発見があるかもしれません。
参考書籍:『ジブリの教科書』(文藝春秋)、『天才の思考 高畑勲と宮崎駿』著:鈴木敏夫(文藝春秋)
※『アシタカせっ記』の「せっ」は草冠に耳をふたつ書く創作漢字です。
