
新年からおめでたい研究報告です。
日本の沿岸で「最も身近なエイ」と言われてきたアカエイ。
長崎大学の研究で、私たちがアカエイだと思ってきた存在において、実は複数の種が同じ名前で混同され続けてきたことが突き止められました。
しかも、これは160年越しの解決だとのことです。
研究の詳細は2025年12月19日付で科学雑誌『Ichthyological Research』に掲載されています。
目次
- なぜ「160年」も気づけなかったのか
- 複数の種が混在していた
なぜ「160年」も気づけなかったのか

アカエイは1841年、江戸時代にシーボルトらが日本各地で採集し、オランダ王立博物館(現在のNaturalis自然史博物館)に送られた標本に基づいて、ヨハネス・ミュラーとヤーコプ・ヘンレによって新種として記載されました。
当時の標本は、いずれも非常によく似ており、疑いもなく同じ種として扱われてきました。
ここに、長い混乱の出発点がありました。
その後、時代が進み、長崎大学の研究によって、有明海には見分けが難しいほど姿形が似た複数種のアカエイ属魚類がいることが分かってきます。
さらに、ミュラーとヘンレの原記載の図を精査すると、私たちがイメージする「アカエイ」と異なる外観にも見え、「本当にHemitrygon akajei(アカエイ)なのか」という疑問が浮上しました。
問題はここからが厄介でした。
Naturalis自然史博物館には、1841年の記載に関わる模式標本が6個体あると考えられてきましたが、20世紀半ばにオランダの研究者ボーセマンの調査で、実際には別の標本1個体が加わった計7個体が存在すると判明し、これらが暫定的にHemitrygon akajeiとみなされました。
しかも、その中で学名の基準として後から指定された標本は、形態的特徴が十分に現れていない幼魚でした。
似ている上に、決め手が出にくい年齢の個体が「基準」になっていたわけです。
そこで研究チームは、アカエイ類(アカエイ、シロエイ、イズヒメエイなど)の幼魚を多数採集し、成長段階や雌雄差による変異も含めて比較検討を積み重ねました。
時間がかかったのは、単に標本を見比べただけではなく、「変化する体のどこが種の違いで、どこが成長や性差による揺らぎなのか」を丁寧にほどいていく必要があったからです。
複数の種が混在していた
研究チームが7個体の標本を実際に調べたところ、そこには複数の種が混在しており、原記載では複数種の特徴が混同されていたことが明らかになりました。
こうして研究チームは、Hemitrygon akajeiの特徴を改めて明確にするため、成長段階や雌雄差も踏まえて再記載を行いました。
そして同時に、もう1つの大きな成果が確定します。
有明海を中心に、アカエイと見分けがつかないほどそっくりな別のエイがいることが研究の過程で明らかになり、2010年には「アリアケアカエイ」という和名が付けられていました。
しかし、学名は未決定のままでした。
本研究ではさらなる検討の末、このアリアケアカエイが新種であることを確定し、新種「Hemitrygon ariakensis」として正式に記載しました。

さらに面白いのは、過去の資料が新種の存在を“うっかり”示していた点です。
長崎大学附属図書館が所蔵する明治末期から作成された「日本南部・西部魚類図譜(通称:グラバー図譜)」を精査すると、アカエイとして描かれていた唯一の図は、実際にはアリアケアカエイだったといいます。
つまり私たちは、昔の絵の中ですでに新種を見ていたのに、長い間それと気づけなかったのです。
身近すぎて見落としてきた違いに、160年越しでようやく光が当たり、新年からおめでたいニュースとなりました。
参考文献
160年越しの新発見 日本で最も身近なエイ『アカエイ』が複数種であることを解明し、新種を記載
https://www.nagasaki-u.ac.jp/ja/science/science428.html
元論文
Redescription of Hemitrygon akajei with description of the cryptic stingray species Hemitrygon ariakensis sp. nov. from the Northwest Pacific (Myliobatoidei: Dasyatidae)
https://doi.org/10.1007/s10228-025-01048-5
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部

