
私たち人類を象徴する「直立二足歩行」。
地面にしっかりと足をつけて歩くという当たり前の動作は、いつどのように手に入れられたのでしょうか。
その答えに大きく迫る研究が、米ニューヨーク大学(NYU)により発表されました。
分析対象になったのは、アフリカ中部チャドで発見された700万年前の化石「サヘラントロプス・チャデンシス」。
調査の結果、このヒト族はすでに直立二足歩行の能力を備えていたことが示されました。
研究の詳細は2026年1月2日付で科学雑誌『Science Advances』に掲載されています。
目次
- 700万年前の化石に隠れていた「歩行の痕跡」
- 脳はチンパンジーサイズ、歩き方はヒト
700万年前の化石に隠れていた「歩行の痕跡」
サヘラントロプス・チャデンシスについて長く議論の的になっていたのは、大腿骨(太ももの骨)と尺骨(前腕の骨)でした。
これらの骨が示す姿勢や動きの特徴が、直立二足歩行できるか否かの決め手になるからです。
しかし研究者たちの見解は20年もの間、この大腿骨の解釈で真っ二つに分かれていました。
・二足歩行の特徴があるという説
・これは類人猿型で二足歩行ではないという反論
そこで本研究チームが最新調査を実施。
大腿骨と尺骨をデジタル処理し、現代のチンパンジー、ボノボ、ヒト、そして化石のアウストラロピテクス(「ルーシー」など)と細かく比較しました。
その結果、決定的な特徴が見つかりました。
■ 決定的証拠①:大腿骨結節の存在
これは腸骨大腿靭帯という人体最大の靱帯が付着する場所です。
腸骨大腿靭帯は直立姿勢を支える要であり、ヒト族にしか存在しない構造とされています。
サヘラントロプスにも、この付着部がはっきりと確認されました。
■ 決定的証拠②:大腿骨の「前捻」
前捻は脚がまっすぐ前を向いて進むためのねじれ角度であり、サヘラントロプスはヒト族特有の範囲に収まっていました。
■ 決定的証拠③:臀筋群(でんきんぐん)の形態
初期ヒト族に見られる特徴的な臀筋の付着部が確認され、骨盤を安定させて歩くための筋肉構造が備わっていたことが明らかになりました。
これらの特徴はいずれも、直立二足歩行に適応したヒト族に特有のものです。
チームは「サヘラントロプスは地上で二足歩行が可能だった」と結論づけています。
脳はチンパンジーサイズ、歩き方はヒト
興味深いのは、サヘラントロプスの姿が完全にヒトに近いわけではなかった点です。
むしろ脳の大きさはチンパンジー並みで、生活の多くを樹上で過ごしていたと考えられています。
それでも地上では直立二足歩行を行っていた、つまり「木の上ではサル、地上ではヒト」というハイブリッドな生活スタイルだった可能性があります。
さらに研究は、サヘラントロプスの大腿骨が尺骨に比べて相対的に長いことも指摘します。
現代の類人猿は腕が非常に長く、脚は短いのが普通です。
一方、ヒト族は逆に脚が長い傾向があります。
サヘラントロプスはその中間で、アウストラロピテクスに近い脚の比率を持っていたとされます。
これもまた、直立歩行への適応を示す追加の証拠です。
研究を率いたスコット・ウィリアムズ氏は次のように語ります。
「サヘラントロプスは、今日のチンパンジーやボノボのような姿をしていても、地上では明確に“ヒト族型”の歩き方をしていた可能性が高い」
今回の研究により、直立二足歩行の起源は700万年前にまでさかのぼる可能性が出てきました。
もしサヘラントロプスが本当に二足歩行を獲得していたのだとしたら、ヒトの歩行は、私たちが想像していたよりもずっと早く進化していたのかもしれません。
参考文献
Anthropologists Offer New Evidence of Bipedalism in Long-Debated Fossil Discovery
https://www.nyu.edu/about/news-publications/news/2026/january/anthropologists-offer-new-evidence-of-bipedalism-in-long-debated.html
元論文
Earliest evidence of hominin bipedalism in Sahelanthropus tchadensis
https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.adv0130
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部

