
キング作品の映画化は『IT/イット "それ"が見えたら、終わり。』(17)の大ヒットを機に加速しており、2019年以降オズ・パーキンス監督作『THE MONKEY/ザ・モンキー』(25)や、マイク・フラナガン監督の『The Life of Chuck(原題)』(24)、そして日本でも1月30日(金)に公開されるエドガー・ライト監督の『ランニング・マン』(25)など、なんと12本の映画が製作されている。『The Long Walk』はそのなかでも、興行・批評の両面で成功した作品といえる。

深刻な不況に苦しむアメリカで、選ばれた若者たちはそれぞれの事情で、一獲千金を狙い死のレースに参加している。主人公レイやピートたちは、長いロードを見据えほかの競技者と親しくなり、絆を深めながら歩を進める。しかし、大半は孤独に歩き続けライバルたちの脱落を待つ。そしてある者は、ライバルを意図的に脱落させようと試みる...。
序盤は若者たちのキャラクター紹介も兼ねてやや牧歌的な空気で進むが、最初の脱落者が出るといっきにトーンが変わる。足がつって痙攣して動けなくなった若者が、3回目の警告を受けたあと、監視している軍の兵士に射殺されるのだ。次第に緊迫感が高まっていく。睡眠が取れず空腹な状況で、孤独なロードをとにかく歩き続けるしかない。健康な若者といえど、何日間もぶっ通しで歩き続けていると、いろいろと問題が生じてくる。ある若者は腹をくだし、我慢できなくて排泄している時に最後の警告を受け、殺される。
逆に、もの凄いテクニックで限られた時間で排泄をしながらうまくこれを回避する強者も現れる。この万国共通のチャイルディッシュな下ネタの設定はいかにもキング作品らしい(『ドリーム・キャッチャー』(03)しかり)。ひたすら歩き続けるためには水分補給や食事も必要だが、そうすると必然的にもよおしてしまうという残酷な事実がリアルに描かれている。自然な整理現象に人間は抗うことができないのだ。

マラソンのように明確なゴールがあるわけではなく、しかも死の危険に常にさらされている異常な状況下で、フィジカルもそうだが、精神状態を保つのももちろん容易ではない。次第に脱落者が増えていくが、もし歩けなくなったら、自分も死が待っているのだ。そして終盤、ある者は途中で気が触れて、発狂する。そして予測不可能なトリッキーな行動に出て、ほかの競技者の脅威となる。ここにサイコロジカル・ホラーという恐怖の側面が浮き上がってくる。さらに、最後の勝者はたった1人。ともに励まし合いながら、長時間歩き続けてきた同志(戦友)との別れも待っている。クライマックスでは残酷で切なくも胸を打つドラマティックなシーンが繰り広げられる。この感情の揺さぶりの連打はキング作品の真骨頂。例えるなら『バトルランナー』(87)ミーツ『スタンド・バイ・ミー』(86)といえる作品だ。
当初、1980年代にはジョージ・A・ロメロが監督を務める予定だったが、その後、フランク・ダラボンやアンドレ・ウーヴレダルが候補に上がりつつ、最終的にメガホンを取ったのはフランシス・ローレンス(『コンスタンティン』(95)、『アイ・アム・レジェド』(07)、『ハンガー・ゲーム2』(13))。主演を務めたのは、クーパー・ホフマン(『リコリス・ピザ』(21))、デヴィッド・ジョンソン(『エイリアン:ロムルス』(24)、『ライ・レーン』(23))、ベン・ワン(『ベスト・キッド:レジェンズ』(25))。そしてウォーカーたちを監視している、サングラスで表情を隠したミステリアスな憎き少佐を演じたのが、マーク・ハミル。

この作品は2月に授賞式が開催される、インディー映画のアカデミー賞、インディペンデント・スピリット賞でアンサンブル・キャストや監督らに贈られる、ロバート・アルトマン賞の受賞が決定している。日本での公開は2026年の予定。今から公開が楽しみだ。
文/小林真里
