「もうね、カンカンカーンと競り値が上昇していった。気付いたら5億円を超えていた。もうちょっと手前でもよかったね」
1月5日早朝、豊洲市場で行われた新年恒例の「マグロ初競り」。青森県大間産の「一番マグロ」を最高値の5億1030万円(243キロ)で競り落とした、すしチェーン「すしざんまい」を展開する「喜代村」の木村清社長は舌をぺろりと出すと、そう語った。
かつて「一番マグロといえば、すしざんまい」が定番だった。しかし2020年を最後にその勢力図に変化が訪れ、2021年から2025年まで、初競りの主役は「銀座おのでら・やま幸」のタッグチームに奪われた。全国紙経済部記者が語る。
「今回も日本だけでなく、海外メディアが大々的に報じたことで、世界中へのPR効果を考えれば、5億円を出したとしても、その広告価値が数百億円規模であることは間違いない。ただ、木村社長にしてもライバルの仲卸『やま幸』の山口幸隆社長率いるタッグチームにしても、彼らにとっての一番マグロは、単なる宣伝材料ではないんです。日本一の目利きが選び抜いた最高の一本を、最高の技術を持つ職人が握るという、クオリティーの証明そのもの。つまり両者にとっては、どちらがマグロの頂点にふさわしいかを決める、意地と意地とのぶつかり合い。それが毎年恒例の『マグロの初競り』なんです」
結果として今回は木村社長が、1999年以降の最高値を更新する巨額を投じて競り落としたわけだが、当然のことながら、価格が1億、2億と跳ね上がるたび、競り場には張り詰めた異様な沈黙が流れたという。
「通常なら降りるはずのラインを超えてもなお、両者の指は止まりませんでした。1キロ単価が100万円、150万円、そして200万円を突破した時、それはもはや商売の域を超えていた。結局、5連覇を狙った『おのでら』側が最後に首を振ったのは、木村社長の目に宿る、破滅をも厭わないぞ、という覚悟に圧倒されたからかもしれません」(前出・経済部記者)
市場関係者によれば、落札された243キロは歩留まり(可食部)を約6割と仮定し、1貫(シャリ抜き15グラム想定)に換算すると、1匹から取れるのはおおよそ1万貫。単純計算で1貫あたりの仕入れ原価は「約5万円」となる。
さらに赤身、中トロ、大トロに分かれるが、希少な大トロだけで計算すれば、原価10万円超えの「黄金の握り」になるというから、驚くばかりだ。それを「すしざんまい」は大トロ598円、赤身398円(税別)という「いつもの価格」で提供するため、数字の上では客が1貫食べるごとに、店側は4万9000円以上の赤字なのだとか。
「これからの資金繰りが大変だ」と豪快に笑い飛ばす木村社長だが、正月早々、令和の「マグロ戦国時代」を象徴する歴史的一幕となったのである。
(灯倫太郎)

