DNA鑑定の限界と、キメラ体質が突きつける教訓

なぜ女性の体はキメラになっていたのか?
論文では、卵子が受精する前に自分で分裂を始め、母親由来の染色体を持つ配偶子(精子や卵子のように、遺伝子を半分だけ持つ細胞)を二つ作り、それぞれが遺伝的に異なる二つの精子に受精される、というモデルが提案されています。
イメージでたとえるなら、一つの卵子が二つに分かれてから、それぞれに別々の精子が入って受精し、それら2系統が喧嘩することなく一人の体の中で一緒に育ったようなものです。
その結果が、今回の「部位ごとに混ざり方が違う体」だというわけです。
また今回の研究は「DNA鑑定で二人分が混ざったように見えるパターンが出たからといって、必ずしも“二人の人間”がいるとは限らない」という、法医学に影響を与える結果も示しました。
法医学の現場にとっては、「混合に見えるパターン=必ず複数人」と決めつけず、必要に応じて体のさまざまな臓器のDNAを追加で調べることも求められるかもしれません。
もしかしたら未来の世界では、DNA鑑定の報告書の片隅に「ごくまれにキメラ体の可能性があります」と一行添えられるのが当たり前になるかもしれません。
その一文は、誰か一人の人生や、ある事件の真相を、静かに守る役割を果たすのだろうと思います。
元論文
Forensic analysis of a parthenogenetic 46, XX/46, XY congenital chimera: A case report
https://doi.org/10.1016/j.fsigen.2025.103394
ライター
川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。
編集者
ナゾロジー 編集部

