
“個性”を持つ人間が当たり前となった世界で、ヒーローを目指す少年・緑谷出久(CV:山下大輝)の成長を描く物語「僕のヒーローアカデミア」。TVアニメ最終章となる「FINAL SEASON」(ABEMA、ディズニープラス・FOD・Lemino・TVer・Huluほかで配信)。12月6日に放送された第10話「笑顔が好きな女の子」をプレイバック。全ての戦いが終わった後の世界で、ヴィラン、ヒーロー、そして生き残った者たちが抱える“痛み”と“再生”を描く、物語の核心に迫るエピソードとなった。(以下、ネタバレを含みます)
■「死柄木弔は俺のヒーローだった」ヴィランたちが抱えた“希望”と“痛み”
戦いは終わり、社会は復興へと動き出していた。テレビでは、「死柄木弔とはなんだったのか?」というニュース特番が組まれ、街頭の人々は口々に「友だちが亡くなった」「人生めちゃくちゃ」など、悲痛な声を上げる。世間にとって、死柄木弔をはじめとする敵<ヴィラン>連合は「絶対悪」であり、忌避すべき対象でしかない。そんななかデクは、死柄木弔(CV:内山昂輝)の最期の言葉を伝えるため、スピナー(CV:岩崎了)と面会する。「何しにのこのこ来やがった、人殺し」と、敵意をむき出しにするスピナーに対し、デクは「否定はしない」と受け止めつつ「死柄木弔は最後まで、壊すために戦った」と、最期の言葉を伝える。その言葉が自分だけに向けられたものだと知ったスピナーは、包帯だらけの顔を歪ませ、「死柄木は希望だったんだ」と大粒の涙を流すのだった。
スピナーとの対話では、「敵<ヴィラン>=絶対悪」という世間の一般的な見方と、ヴィランの内面にある「真実」とのギャップが鮮烈に描かれた。異形ゆえに迫害され、人生を諦めていたスピナーにとって、死柄木こそが唯一の「希望(ヒーロー)」だったというのは紛れもない真実。そしてそんな死柄木が、最後の瞬間までブレることなく世界と戦い抜いたというメッセージは、スピナーにとってはこれ以上ない救いでもあるだろう。またその後に描かれたオーバーホールこと治崎廻(CV:津田健次郎)と組長の会話も印象的で、「安心しろ、てめえがくたばるまで俺がずっと叱ってやるよ」という組長の言葉は、単なる断罪ではなく、罪を背負って生き続けさせるという組長なりの「親心」を感じさせてくれる。これら敵<ヴィラン>の顛末についてSNSでは、「世間と個人の評価のギャップがリアルで辛い」「ヴィラン側にもそれぞれの救済があってよかった」など、複雑な感情を吐露する感想が相次いだ。

■「くよくよしてらんねえ」ヒーローが灯した勇気と、自立する市民たち
2年A組の生徒たちは、今日も復興支援活動に汗を流していた。倒壊した建物や残骸をテキパキと綺麗にしていく生徒たち。するとそこに近隣住民たちが炊き出しを持ってやってくる。「君たちの頑張っている姿を見たら、俺たちもくよくよしてらんねえって」と前を向く市民たち。さらには、現場に駆けつけた新入生たちも「やれることやらせてください」とやる気満々。多くの人たちが徐々に前向きになり、日常を取り戻していく姿はとても頼もしい風景ではあるものの、デクと麗日お茶子(CV:佐倉綾音)だけは、どこか浮かない表情を浮かべているのだった。
ここでは、ヒーローたちが先の戦いを通じて一般市民や新入生たちに与えた影響の大きさを改めて感じることができる。これまで「ヒーローが守ってくれるのが当たり前」だった市民たちが、今は自分たちの手で立ち上がり、ヒーロー活動を支えようとしている。新入生たちの多くも、テレビ中継を観て雄英高校を目指したのだと言う。デクたちの頑張りが多くの人に伝播していったことはたしかで、まさに「頑張りが数珠つなぎになっていく」と言うことなのだろう。それは皮肉にも、敵<ヴィラン>連合という社会の根幹を揺るがす未曾有の大事件を経たからこそ生まれた産物ではあるが、ようやくたどり着いた理想の社会の姿なのかもしれない。SNSでは、「市民の人たちが逞しくなってる」「デクたちの戦いが次の世代にちゃんと繋がってるのがエモい」など、復興への希望を感じさせるシーンに感動の声が多く見られた。

■「僕のヒーローだ」お茶子とデク、二人だけの“傷”と“救済”
その夜、復興の灯りがともる街を見下ろす丘の上に、一人佇むお茶子の姿があった。生徒たちの前では気丈に振る舞っていた彼女だが、実際には一人では抱えきれないほどの葛藤を背負っており、それが決壊しかかった時、そこにデクがやってくる。「ここにいると思った」と心配し、これまでずっとお茶子に助けられてきたと語るデクは、「僕のヒーローだ」と告げ手を握る。お茶子は、大粒の涙をボロボロと流しながら、「ヒミコちゃん、私のせいで死んじゃった」と、一人で抱え込んでいた想いを爆発させる。その言葉を受けたデクが、自分も死柄木弔に対して同じ想いを引きずっていると伝えると、ようやくお茶子の表情に明るさが戻るのだった。
このシーンは、単純な「勧善懲悪」では語りきれない本作のテーマが集約されている。敵を倒して終わりではなく、その敵が抱えていた想いや、救えなかった命の重さを背負って生きていくこと。共感性が極めて高く、優しすぎる性格がゆえに抱えてしまう負の感情だが、それを受け止めてくれる誰かさえいれば、それすらも乗り越えることができると信じる二人の姿はとても尊い。SNSでは「お茶子ちゃんの慟哭がつらすぎる」「1話からの関係性がここで回収されるの反則」「A組のみんなが駆けつけるところで号泣した」など、涙なしには見られないラストシーンに称賛の声が殺到した。
今回のエピソードで描かれたのは、単なる“戦後処理”や“前向きな復興”というだけではない。「敵<ヴィラン>にも守りたかったものがあった」「ヒーローもけして万能ではない」「善悪では割り切れない感情がある」という、ヒロアカという作品が長年に渡って問いかけ続けてきたテーマの、一つの総決算とも言えるだろう。さて次回、いよいよ最終回となる第11話「僕のヒーローアカデミア」は12月13日に放送済み。次回のレビューもお楽しみに!
◆文/岡本大介

