
中国の北京大学(PKU)で行われた研究によって、地球から約1万光年離れた距離に恒星の周りを回らず、孤独に宇宙を旅している土星と同じくらいの重さの浮遊惑星が存在することが発見されました。
これまで浮遊惑星の存在は知られていたものの、距離と質量については正確に観測することは困難だったこともあり、両者の正確な観測に成功した今回の研究成果は画期的なものと言えます。
過去の研究によれば、このような恒星系から飛び出した浮遊惑星は恒星の数と同等かそれ以上存在すると推定する研究もあります。
もしこうした「星なき惑星」が天の川銀河に数十億から数兆も存在するとしたら、私たちがこれまで思い描いてきた「惑星」のイメージは大きく塗り替えられることになるかもしれません。
研究内容の詳細は2026年1月1日に『Science』にて発表されました。
目次
- 浮遊惑星の重さは誰も知らなかった
- 1万光年のかなたを彷徨う浮遊惑星は土星くらいの重さがあった
浮遊惑星の重さは誰も知らなかった

「惑星にも孤独な放浪者がいるのかもしれない」──そんな空想をしたことがある人は多いと思います。
私たちが教科書で習う惑星は、太陽のような恒星の周りをぐるぐる回る「付き人」のような存在です。
ところが宇宙には、その恒星から切り離されて、暗闇の中をひとりで旅している“はぐれ惑星”がいると考えられています。
コラム:実は浮遊惑星の数はめちゃめちゃ多い
天の川銀河(銀河系)には、だいたい1000億〜4000億個くらいの恒星があると言われています。一方で浮遊惑星は「数十億個~数兆個」レベルに達すると推測されています。数に大きな幅がある(特に上限が凄い)のは、数兆個という試算には月サイズの準惑星レベルのものも含めて考えているという要因もあるからです。ただ人類が拠点にするには準惑星レベルでも十分そうにも思えます。何光年も離れた隣の恒星との間には十個以上の浮遊惑星が中継地点として存在する場合もあるでしょう。これら浮遊惑星の多くは星系内の重力の押し合いなどによって星系から放り出されたものが多くを占めると考えられています。
このような放浪惑星は、自分ではほとんど光らない「真っ暗な物体」です。
そのため、どこにどれだけあるのかを直接見ることはとても難しくなります。
たまたま見つかったとしても、どのくらい遠くにいるのか、重さ(質量)がどれくらいなのかを測るのは簡単ではありません。
では、天文学者たちはこれまでどうやって「見えない惑星」を追いかけてきたのでしょうか。
そこで使われてきたカギが「重力マイクロレンズ現象」です。
重力マイクロレンズ現象とは、手前にある天体の重力によって、その奥に見えている星の光が曲がり、一時的に明るく見える現象のことです。
放浪惑星のように暗い天体でも、ちょうど背景の恒星と一直線に重なるとき、その重力がレンズのように働きます。
すると奥の星の光が少しだけ増幅され、なにもないはずの場所で星がふっと明るくなったように見えます。
言い換えると、浮遊惑星そのものが「一瞬だけ光を強める虫メガネ役」になってくれるのです。
この「一瞬の明るさの変化」をたくさんモニターすることで、天文学者たちは「ここを何かが横切った」という事実だけはつかむことができます。
しかし、明るさが上がって下がるという光のカーブだけでは、レンズになった天体がどれくらい遠くにいるのか、どれくらい重いのかを別々に決めることはできません。
その結果、過去10年ほどの観測から10個前後の放浪惑星候補が報告されてきましたが、「候補」にとどまり、直接の重さはわかっていませんでした。
そこで今回の研究チームは、ここに新しい“ひと手間”を加えました。
「見えない惑星」に、きちんとした体重計を当てられるようにしようとしたのです。
そのために使われたのが「視差(パララックス)」という仕組みでした。
視差とは、見る位置が変わることで、同じものが背景に対して少しずれて見える現象です。
私たちの両目も、右目と左目が少し離れた位置にあることで、世界を微妙に違う角度から見ています。
脳はこの左右の差を利用して、ものまでの奥行きや距離を感じ取っています。
今回の研究では、この「両目」を地球と宇宙空間に置き換えました。
地上の望遠鏡を片方の目、欧州宇宙機関(ESA)のガイア衛星をもう片方の目に見立てたのです。
ガイア衛星は地球から約150万〜200万キロメートルほど離れた場所を回っていて、人間の目の間隔とは比べものにならないほど遠くにある“二つ目”になります。
この二つの地点から同じマイクロレンズ現象を同時に観測すると、背景の星が一番明るくなる「ピークの時刻」が、地上と宇宙とでわずかにずれて見えます。
この時間のズレこそが、視差から距離を割り出すためのスケールの目盛りになります。
そして距離がわかれば、明るさの変化のしかたと組み合わせることで、「宇宙のどこを」「どれくらい重い放浪惑星候補」が通り過ぎたのかを、体重計で測るように求めることができるのです。
そしてついに2024年5月、チャンスが訪れました。
1万光年のかなたを彷徨う浮遊惑星は土星くらいの重さがあった

2024年5月、銀河系の中心方向にある遠い星が、わずか2日間ほどだけ少しだけ明るく輝く現象が地上の望遠鏡群で観測されました。
さらに幸運にも、その同じ現象を宇宙望遠鏡のガイア衛星も観測していました。
研究チームはこのデータを急いで解析しました。
すると、地上の望遠鏡が記録した明るさのピークと比べて、ガイア衛星が記録したピークのタイミングが約1.9時間も遅れていることを発見したのです。
これはまさに、待ち望んでいた「視差」によるピークのズレでした。
この時間差を使った三角測量によって、初めて放浪惑星までの距離と質量を正確に測定することが可能になったわけです。
分析の結果、この惑星候補までの距離は約3.05キロパーセク(およそ1万光年)だと判明しました。
また惑星の質量は木星の約0.22倍、地球にすると約70個分の質量で、土星よりわずかに軽いものでした。
こうして放浪惑星候補は、初めて明確な数値を持った惑星として私たちの前に姿を現したのです。
ワルシャワ大学によると、この放浪惑星の近く、約20天文単位(地球と太陽の距離の20倍以内)には恒星が見つからなかったため、この天体は本当に宇宙空間を孤独に漂っている可能性が高いとされています。

今回の研究により、星に縛られず漂う放浪惑星候補の距離と質量を直接に測定できることが示されました。
質量の直接測定は放浪惑星研究における「ゲームチェンジャー」です。
「初めて、放浪惑星候補の質量を直接測ることができました。もう“だいたい”ではなく、本当に惑星だと確信できます」と董氏は述べています。
こうしたデータが増えることで、惑星の起源や歴史についての理解を深める道が広がっていくと期待されています。
事実、本成果は長年謎に包まれていた放浪惑星の正体に迫ったという点で、「1990年代の最初の系外惑星発見に匹敵する発見だ」とウダルスキ氏は述べています。
この画期的な測定手法は、今後の天文学にも大きな追い風となるでしょう。
これまで行われた研究では、理論上は、星なき惑星が銀河系に数十億から数兆ほど存在する可能性が指摘されています。
今回明らかになった放浪惑星は、そうした無数の“宇宙の浮浪児”の氷山の一角にすぎないのかもしれません。
もしかしたら未来の小学生に「そもそも惑星とは恒星をまわっていているものであり・・・」といった調子で解説をすると、クスクスと笑い声が聞こえてきてしまうようになるかもしれません。
参考文献
Joint ground- and space-based observations reveal Saturn-mass rogue planet
https://www.eurekalert.org/news-releases/1111054
元論文
A free-floating-planet microlensing event caused by a Saturn-mass object
https://doi.org/10.1126/science.adv9266
ライター
川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。
編集者
ナゾロジー 編集部

