
「年齢を重ねると、物忘れが増えるのは仕方がない」
そう思っている人は多いかもしれません。
しかし米テキサス大学オースティン校(UT Austin)の最新研究から、日常的に人を助けているかどうかが、脳の老化スピードに大きく関わっている可能性が示されました。
特別なトレーニングや高価な治療ではなく、身近な人助けが脳の健康を支える。そんな意外な事実が注目を集めています。
研究の詳細は2025年8月8日付で学術誌『Social Science & Medicine』に掲載されました。
目次
- 人助けをする人ほど、脳の衰えが遅い
- 週2〜4時間が「ちょうどいい」理由
人助けをする人ほど、脳の衰えが遅い
研究チームは今回、50歳以上の米国人3万1303人を対象に、約20年にわたる追跡データを分析しました。
用いられたのは電話調査による認知機能テストと、「どの程度、他者を助けているか」という行動データです。
その結果、定期的に人助けをしている人は、加齢に伴う認知機能の低下が約15〜20%抑えられていることが分かりました。
ここでいう人助けには、団体に所属して行う正式なボランティア活動だけでなく、近所の人を通院に連れて行く、親族の子どもの世話をする、友人の手続きを手伝うといった、いわば「非公式な助け」も含まれます。
特に興味深いのは、効果が一時的なものではなかった点です。
他者を助ける行動を続けている人ほど、年を追うごとに認知機能の低下が緩やかになっていました。
研究を主導したサエ・ファン・ハン氏は、短期間の気分転換のような効果ではなく、継続によって積み重なる恩恵であることを強調しています。
週2〜4時間が「ちょうどいい」理由
分析の結果、認知機能への効果が最も安定して見られたのは、週に2〜4時間程度人助けをしている人たちでした。
毎日何時間も活動する必要はなく、無理のない範囲で関わることがポイントだったのです。
研究は観察研究であり、「人助けが直接脳を若返らせる」と断定できるわけではありません。
ただし、背景にはいくつかの合理的な説明が考えられます。
他者を助ける行為には、予定を調整する、相手の状況を理解する、会話をするなど、脳を幅広く使う要素が含まれます。
また、社会的なつながりが保たれることで、孤独感や慢性的ストレスが和らぐ可能性もあります。
これらはいずれも、過去の研究で認知機能低下と関係が指摘されてきた要因です。
一方でチームは、人助けを完全にやめてしまった人では、認知機能スコアが低く、低下のスピードも速い傾向があったことも報告しています。
年齢や健康状態、教育水準、経済状況などを考慮しても、この傾向は変わりませんでした。
つまり、「何もしない」状態が続くこと自体が、脳にとって不利に働く可能性が示唆されたのです。
この研究は、認知症患者が増え続ける高齢社会において、重要な示唆を与えています。
脳の老化対策というと、運動や食事、知的トレーニングが注目されがちですが、誰かの役に立つことを日常に取り入れるという選択肢も、同じくらい価値があるのかもしれません。
体調が万全でなくても、短時間でも、できる形で人を助ける。
その行為は、周囲を支えるだけでなく、長い目で見れば自分自身の脳を守ることにもつながります。
人助けは、社会にとって優しい行為であると同時に、未来の自分への投資でもある。そんな見方を、この研究は静かに示しているようです。
参考文献
Helping Others Shown To Slow Cognitive Decline
https://cns.utexas.edu/news/research/helping-others-shown-slow-cognitive-decline
Helping Others May Be an Easy Way to Keep Your Brain Young, Study Finds
https://www.sciencealert.com/helping-others-may-be-an-easy-way-to-keep-your-brain-young-study-finds
元論文
Helping behaviors and cognitive function in later life: The impact of dynamic role transitions and dose changes
https://doi.org/10.1016/j.socscimed.2025.118465
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部

