スタジオパーソルでは「はたらくを、もっと自分らしく。」をモットーに、さまざまなコンテンツをお届けしています。今回特集するのは『レンタル家族』という一風変わったサービスです。
カウンセラー資格を活かして始めた小さな相談業から発展し、今では家族や恋人、友人や上司の代役まで、多様な“人の代わり”を請け負う『レンタル家族』。合同会社ハートプロジェクト代表の市ノ川竜一さんに、現代社会の孤独と向き合う仕事の実態、そして“普通の自分”を活かしたはたらき方について聞きました。
結婚式の代理出席、謝罪の同行、不妊検査の病院付き添い――“誰にも言えない”を支える『レンタル家族』って何?

――『レンタル家族』とはどのようなサービスなのでしょうか。
一言で言うと、ご家族や恋人、友人の代役をするサービスです。結婚式に友人として出席したり、両親の代わりに婚約者にごあいさつに伺ったりしています。
具体的には、さまざまなご事情で親と疎遠になっていて、結婚式に親を呼べない方が、代わりの親役を依頼されるケースがあります。ご本人としては、結婚相手やそのご家族には「親がいる」という体裁を保ちたいという想いがあるようです。
中でも最近特に増えているご依頼は、“不妊検査の病院付き添い””です。麻酔を使用する処置の場合、病院から「誰でもいいので迎えに来てください」と同伴者を求められることがあります。ただし、私たちはサインや捺印は絶対に行いません。一緒に説明を聞くだけの付き添いです。
というのも、パートナーに内緒で通院されている方が結構いらっしゃるんですよね。子どもがなかなかできず、「もしかして自分に原因があるのでは」という不安をパートナーに共有するのがつらい。周りからの期待やプレッシャーが大きいほど、かえって誰にも相談しづらくなってしまう。そういった方からのご依頼が多くなっています。

――利用される背景にはそれぞれの深刻な悩みがあるんですね。ほかにはどのような依頼が?
会社員からの“謝罪代行”も多いですね。依頼されるのは、部長や役員といった役職のある方が中心です。契約直前で顧客を怒らせてしまったとか、対応がルーズで信頼を失ったとか、ある程度の立場にある方でも失敗することはあります。ただ、立場上、社内で相談しづらいという方もいらっしゃるようで。
そんなときに、スタッフが上司役として謝罪の場に同行するんです。ただし、名刺を渡したり、契約書にサインしたりはしません。あくまで依頼者本人に同席する形で、「上司として一緒に謝罪する」というご依頼のみ引き受けています。上司が同席することで、怒りをぶつける対象ができて、顧客の気持ちも少し落ち着くんです。
――後日、謝罪した顧客から依頼者の会社に連絡が入って、代行だとバレてしまう心配はないのでしょうか?
これまでの経験上、上司役のスタッフが同行して謝罪するとその場で話が収まり、後日、依頼者を飛び越えて直接会社に連絡が来ることはありませんでした。万が一、数年後に「あのときの上司の方は?」と問い合わせがあった場合は、「異動した」「退職した」と説明することをあらかじめ依頼者と取り決めています。
今までトラブルになったことはありませんが、その会社のビジネスを大きく左右するようなシビアすぎる案件や、リスクが高いと判断した場合はお断りしています。
ほかにも、演歌歌手を長年応援してきた高齢のファンの方から、「体調を崩して会場に足を運べなくなってしまったので、私の代わりに会場に行って応援してきてほしい」と依頼されるケースもありました。ご本人は会場に行けないけれど推しを応援したいという想いを、私たちが代わりに届けるんです。
サービス開始当初は、家族・恋人・上司など身近な人間関係の代役を一括りにして『レンタル家族』と総称していましたが、今では代役依頼の幅もかなり広がっています。
「初対面」の人の結婚式で“友人代表スピーチ”を務めた日

――そもそも市ノ川さんはなぜこのサービスを始めたのでしょうか。
2000年代初頭、ある痛ましい事件をきっかけに、世間では「小学校にスクールカウンセラーを配置しよう」という議論が高まったことがありました。当時私の子どもも小学生で、私自身もそのニュースにとてもインパクトを受けたので、会社員としてはたらきながらカウンセラーの資格を取得したんです。
ただ、本格的にスクールカウンセラーになるには大学で6年ほど学ぶ必要があり、当時は小さい子どもが2人いたのでお金もかかる時期。会社勤めとの両立も難しく、最低限のコースだけ受講して断念しました。「この資格を何かほかのことに活用できないだろうか」と考え、簡単なホームページを作って、まずはメールでのお悩み相談の副業を始めました。
――メール相談ではどのような相談がありましたか?
障害や病気を周囲に打ち明けるかどうかの悩みや、友達には相談しづらい恋愛の悩みなど、「人には言えないこと」の相談が中心でした。相談者の方は本名を書く必要はなく、ニックネームでやりとりしていました。
そんなある日、突然「結婚式の友人役をやってほしい」というメールが来たんです。地元が遠方で友人を呼ぶのは難しくて困っている、という新郎さんからのご相談でした。しかも、友人代表のスピーチのご依頼まで。さすがに難しいと思い一度はお断りしたんですが、新郎さんが文章を作った上で「どうしても」ということで、新幹線で現地に向かいました。
当日は何を食べたか覚えてないくらい緊張していましたが、なんとか役目を終えました。そのときにはじめて「こういうニーズがあるんだ」と実感したんです。これが『レンタル家族』の原点でした。
そのあと、手作りのホームページを少しずつ改良していたら、「イギリスの朝のワイドショーであなたたちが紹介されている」というメールが届いたんです。“日本の変わったビジネス”として紹介されていたらしくて。あとで分かったんですが、イギリスのBBC契約特派員が私のホームページを和訳して本国に送っていたそうです。
その影響でテレビや雑誌など日本のメディアからの取材も増えて、『レンタル家族』という言葉が独り歩きするように。依頼もどんどん増えてきて、本業にも支障が出るようになってきたので独立することを決めました。独立当時は20〜30代の方からの、結婚式や披露宴の代理出席、両親代行の依頼が多かったですね。

