名画は「絵の具+DNA」のアーカイブになりうるか

今回の研究により、「名画は絵の具だけでできているわけではない」ことを裏づけるデータが得られたと言えるでしょう。
綿棒一本でルネサンス期の芸術作品から微量DNAを回収し、その中に作品ごとの異なる“生物学的指紋”と、作者の家系につながるかもしれない手がかりが潜んでいることが示唆されました。
名画を、DNAが詰め込まれたタイムカプセルのように読む最初の試みのひとつと言ってもよさそうです。
もちろん、検出されたDNA片が本当にレオナルド・ダ・ヴィンチ本人のものかどうか断言はできません。
研究者たちも、さらなるレオナルド関連資料(ノートやスケッチ、絵画)の分析や、レオナルド家の現存する子孫とのY染色体比較を経て初めて、今回のDNAがダ・ヴィンチ家のものと結論づけられる可能性があると述べています。
加えて、超微量DNAの解析では現代の汚染や分析上の錯誤を除去することが難しく、系統や出所の議論には慎重さが求められます。
それでも研究者たちは、今回得られたデータセットは今後の保存科学研究における有用なベースライン(基盤)になると評価しています。
名画や古文書からDNAを読み解くことで、これまで年代記や美術史だけではわからなかった“物質的な旅路”が浮かび上がる可能性があります。
例えばDNA分析により、「この絵は過去にどの地域に所蔵されていたのか」「この手紙に触れたのは誰か」といった謎に答える道が開けるかもしれません。
こうした手法は将来的に美術品の真贋判定や、歴史的遺物の由来解明への応用が検討されています。
もしかすると未来には、美術館で名画の裏側をそっと綿棒でこすり、付着したDNAから作品が歩んだ環境や作者の痕跡を読み解くことが当たり前になっているかもしれません。
それはまさに、本物の「ダ・ヴィンチ・コード」を科学が解き明かす瞬間と言えるかもしれません。
元論文
Biological signatures of history: Examination of composite biomes and Y chromosome analysis from da Vinci-associated cultural artifacts
https://doi.org/10.64898/2026.01.06.697880
ライター
川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。
編集者
ナゾロジー 編集部

