
TVアニメ「薫る花は凛と咲く」(毎週土曜夜0:30〜TOKYO MXほかにて放送/Netflix・ABEMA・FOD・Hulu・Leminoほかで配信)が大好評放送中。高校生の初恋や青春群像劇を美麗な映像と繊細な演出で描き、人気が急上昇中している。本作で、ヒロイン・和栗薫子を演じるのは井上ほの花。キャラクターの真っ直ぐな性格を繊細に表現したと語る彼女が、本作の魅力と収録の舞台裏を語ってくれた。
■薫子ちゃんは心に強い芯を持っている
――本作のご出演が決まった際は、どんなお気持ちでしたか。
私で大丈夫かなっていうのは、放送が始まった後もずっと思っていました(笑)。当初は、自分だけの力では押し潰されてしまうくらいのプレッシャーがありまして⋯。でもいまは、アフレコも終わって、キャストの皆さんやスタッフさんたちと力を合わせて作った作品として、皆さんに支えて頂いた日々が少し自信になっています。
――原作の魅力は、どのような点に感じていますか。
登場人物の繊細な心の動きが丁寧に描かれているのが素敵ですよね。しかも、恋愛だけではない、10代なら誰しもが通るような悩みが描かれているのですごく感情移入してしまいます。しかも、三香見サカ先生の描く漫画のタッチって静止画のはずなのに動いているように見えませんか? お洋服のシワや髪の毛の揺れまで、本当に綺麗で細かいので読んでいると、すっとその世界に入っていく感覚があるんです。
――確かに瞳の輝きも相まって、エモーショナルですよね。その中で、和栗薫子という役についてはどんな印象ですか。
薫子ちゃんはあんなに可愛いのに、ちゃんと自分の心を持ってるところが素敵だなと思うんです。ふわふわして見えるかもしれませんが、どんな怖い人が相手でも立ち向かっていける強さや人に流されない強さが彼女の魅力だなと。自分の足で、自分の決めた道を諦めないで進んでいく彼女を見ていると、いつも背筋が伸びるというか。人生のお手本のような存在です。
なので、共通点は甘いものが好きなことぐらいです(笑)。私はとくに和栗のモンブランが好きなので、勝手に縁を感じています。ちなみに私の家では近くのケーキ屋さんに毎年祝い事があると家族で行って、自分たちで好きなケーキを何種類か選ぶのが小さい頃からの恒例でした。そういえば、今回のアフレコ現場では三香見先生やスタッフさんが差し入れをくださったり、キャストやキャラのお誕生日にはケーキを頂いたり、毎週のようにケーキを食べてお話をしたりする中でスタッフさん、キャストさんと絆が深まっていきました。
――アフレコ現場では監督陣からどういった演出がありましたか。
最初は、自分の中の薫子ちゃん像が凝り固まっていたんだと思うんです。それでアフレコ初期の頃は『落ち着き過ぎている』という指摘を頂きました。そこは、凛太郎くんとお話する時は声がひっくり返るくらい緊張していたり、あわあわして上ずっちゃうようなお芝居に修正していきました。一方で『薫子ちゃんがあざとい』という言葉も頂きました(笑)。私の中では、シーンによっては彼女の可愛さが先立ってしまっていたんですけれど、わかりやすく演出を頂く中で、彼女の真っ直ぐさ、目の前の人の気持ちをちゃんと掬い上げて言葉を発するところを一つひとつ考えて、お芝居にしていきました。ただ、そのバランスは非常に難しかったです。

■人との差や違いを恐れない勇気

――いま放送済みの話数で、印象に残っているシーンは?
私は6話の薫子ちゃんと、親友の昴のシーンがすごい好きでした。漫画を読んでいても、アフレコ中も、さらに出来上がったものを観ても、すごく胸に込み上げてくるものがあって…。殻の中に閉じこもってしまう昴に、『私が好きな昴を、昴が否定しないでよ』という薫子ちゃんの言葉にグッときてしまうんです。学生時代っていろんな意味で依存したり、逆に頭ごなしに言葉を使ってしまいそうなときがあると思うんです。そんなとき、薫子ちゃんはいつも優しさで相手を包み込むんです。彼女自身に芯があるから、そういうことができると思うのですが、その強さだけではない柔らかさは人として尊敬します。あと、6話ではピンク色と水色のお花が並んで描かれるシーンがあって。水色のお花に雫が落ちているんですよね。あれは昴の涙なのかなと、想像してしまって感動しました。
――その薫子役を演じるうえで、どんなことを大切にされましたか。
“繊細さ”ですね。薫子ちゃんの気持ちが動いた時に、心の中から出た言葉として、聞こえたらいいなということはずっと思っていました。その意味では凛太郎くん役の中山さんのお芝居をきちんと受けて、そのときの感情を感覚的に出していくということを大切にしました。
――それが本作の薫子と凛太郎のお芝居のリアリティにも繋がっているんですね。ところで本作は二人の関係を描くだけではなく、友情や家族といろんなテーマを内包していますが、井上さんは作品からどんなことを受け取っていますか。
おっしゃるとおり、たくさんのテーマが描かれていると思うのですが、私が感じているのは育ってきた環境や立場の差をどう超えていくかという部分ですね。キャラクターたちがその差や違いを理解しあえたり、支えあって関係が築かれていくのがすごく素敵だなと感じます。その違いや差がむしろ『出会い』になったり、お互いを深く知るきっかけになるし、関係が進んでくこともある。『薫る花』のそうしたところに希望を感じます。私自身も人との違いや差に悩んできました。でも、それを怖がったり恐れたりしない勇気や、自分らしくいることが大切というメッセージを作品から受け取っています。薫子ちゃんと凛太郎くんが未来を怖がらなくていいよって、作品を通していつも言ってくれている気がしますね。
■役や作品を応援してくれる方の存在が原動力
――いま声優という仕事を続ける中で、どういったことが原動力になっていますか。
私、声優としてデビューしてから、ずっと目の前のことにいっぱいいっぱいなんです(笑)。そもそも、自分自身あまりアニメを多く観るほうではなかったですし、多分、母(井上喜久子)がいなかったら、この声優というお仕事にすらたどりついていなかったと思うんです。だから、私には皆さんのように『この先輩の方に憧れて』とか『こういう作品がやりたい!』という想いがないところからのスタートでした。そのために苦しい思いをしたこともありましたし、苦しい思いを言葉にしちゃいけないんじゃないか…と考えたこともありました。ただ、そうしたこととは別に作品や役を応援してくれる方、それを通して私を応援してくださる方もいてくれる。その方たちの声やエネルギーこそが今、何よりの原動力になっています。
――いつか、ご自身が演じる役と作品が、より若い声優の方の「憧れ」になったら素敵ですね。
ありがとうございます! そんなことが叶うなら嬉しいですが、私自身の自分の力を実感することがなかなかないんです。でもだからこそ、周りの方の支えや縁に日々感謝しながら、もっと努力を続けていきたいです。
――『薫る花』は井上さんのお仕事の中でも大きなターニングポイントになったのでは?
そう思います。今回最終話の収録のあと、原作の三香見先生から『本当に薫子と凛太郎が2人でよかったです』とおっしゃって頂いて感無量でした。実は第1話の収録の際も、同じ言葉を頂いてもちろん嬉しかったんです。でも、同じ言葉をあらためて頂けた時は本当の意味で認めて頂けたようで、この作品に携わらせて頂くことができて良かったと心から思いました。
――その最終回の見どころも教えてください。
原作を読んでいる方にも驚いて頂けるものになっていると思いますし、台本を頂いた時、私も正直驚きました。今までの話数とはひと味違う、素敵なラストシーンになっていると思いますので楽しみにしてほしいです!

■取材・文=河内文博(アンチェイン)

