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生成AIの台頭、減少する志望者…激変するアニメ制作現場でサンライズスタジオが描く「AIに代替されない」人材育成

生成AIの台頭、減少する志望者…激変するアニメ制作現場でサンライズスタジオが描く「AIに代替されない」人材育成

サンライズスタジオを取材
サンライズスタジオを取材 / 撮影=鈴木康道

「アニメ制作で一番楽しいのは、絵を描く部分。そこをAIに譲る必要はない」――こう語るのはサンライズ美術塾の塾長・梅崎淳志氏だ。この言葉には、技術革新が進む現代におけるアニメスタジオの矜持が詰まっている。右肩下がりのアニメーター志望者、韓国・中国アニメの勢い、生成AIの台頭…激変する環境下で、バンダイナムコフィルムワークスの自社制作スタジオSunrise Studios(サンライズスタジオ)はいかにして次世代の匠を育てようとしているのか。サンライズ作画塾塾長の塚本樹佳氏と前述の梅崎氏にインタビューを実施。話題は入塾倍率十数倍という狭き門の実態から、手描きの技術伝承、そして生成AIに対する冷静かつ熱いスタンスまで多岐にわたる。

※SUNRISE Studios(サンライズスタジオ)…1976年設立の日本サンライズ(現バンダイナムコフィルムワークス)の制作スタジオとして設立され、日本のアニメ制作会社の中でも特に古い歴史を持つ。代表作にガンダムシリーズ、ラブライブ!シリーズなどがある。

■サンライズ作画塾と美術塾、生え抜き育成の入口と正社員採用への出口

――作画塾、美術塾がどういうところなのか、まずそこから教えてください。

塚本:作画塾ですが、2005年に開講した若木塾というものがありました。当時から「アニメーターはきつい仕事」というイメージが世間に浸透し、そうした側面があったのは否めません。これは会社としても、業界としても改善していくべき問題と捉えていました。そのために若木塾を開講し、会社としてしっかりした入口を作り、将来の制作の柱になる人を育てていくことを目標に運営を始めました。作画塾はその思想を受け継いで、若木塾を前身に2018年に開講しました。若木塾と大きく違うのは、契約社員を経由してですが、卒業生の正社員化を前提としている点です。

梅崎:美術塾は2021年の設立です。目的はやはり人手不足の解消です。開講当時、制作現場で一番不足していたのが美術スタッフでした。アニメの画面制作で美術が占める割合は約七割。美術設定が上がらないとレイアウト(第1原画とも言われる原画制作の軸)を描けず、制作工程全体に支障が生じます。そこで美術を担う人材をゼロから育成するために、作画塾に倣って立ち上げました。卒業試験に合格した方は、当社の美術制作スタジオ「SUNRISE arte」(サンライズアルテ)のスタッフとして活躍しています。

――他のアニメ制作会社でもこうした育成機関を持っているところは多いのですか?

塚本:結構あります。東映アニメーションさん、CloverWorksさん、WIT STUDIOさんなども行っていて、やはりアニメーター不足により、各社が自分たちで人材を作らなければならないという意識になっているのだと思います。
サンライズ美術塾の塾長・梅崎淳志氏、サンライズ作画塾の塾長・塚本樹佳氏(写真左より)
サンライズ美術塾の塾長・梅崎淳志氏、サンライズ作画塾の塾長・塚本樹佳氏(写真左より) / 撮影=鈴木康道


■3分の1は海外の人材、年々減る日本人のアニメーター志望者

――アニメーター不足、争奪戦という話がよくニュースで取り上げられます。実際にアニメーターは減っているのでしょうか?

塚本:年々右肩下がりです。それに対して制作本数は増えていっているんですよね。

――WEBザテレビジョンでも毎期50作以上の新作タイトルから取り上げる作品を決めています。

塚本:多いですよね(苦笑)。分母が大きいものだから、各社人材の確保に奔走する状況になるわけです。加えて、日本人のアニメーター志望者が減っている状況もあります。専門学校のリクルートイベントに行くと分かるのですが、生徒の半分は海外の方である印象ですね。中国、韓国、北欧、アメリカなど、非常に優秀な人材が多いです。ただ、ジャンルとしては3DCGやイラストレーターの人気が高くて、アニメーター志望は少ない印象です。

梅崎:美術志望はもっと少ないです。アニメを見て「アニメーターになりたい」となる人は多いと思いますが、「この背景すごい、アニメの美術を描きたい」と繋がっていく人は稀だと思います。どちらかというと美大などで学び、「絵で食べていくにはどうすればいいか」と考えた結果、アニメの美術という選択肢を選んで入ってくるケースも多いですね。

■「学ぶ場所」ではなく「仕事をする場所」への入口

――入塾条件はどのようなものですか。やる気があれば入れますか?

塚本:いえ、かなり厳しいです。技能習得に専念してもらうため弊社から奨励金をお支払いしていて、入塾試験と言っても実質的にはその後の入社を見据えた試験です。ポートフォリオと履歴書を送っていただき、書類審査通過者が実技試験と面談に進めます。定員は年間最大で12名で、倍率は十数倍ですね。合格したら、一年間かけて技能習得をしていただきます。

梅崎:美術塾は半年間のカリキュラムとなります。定員は5名前後。毎年15〜20名ほど応募がある中から、履歴書とポートフォリオ、指定課題で選抜し、面談を行います。面談は人柄を見るのが中心ですが、技術に関してはポートフォリオと課題を講師と審査して、プロとしてやっていけそうかをシビアに判断しています。

――どのような講師がいて、どのようなカリキュラムがあるのでしょうか?

塚本:作画塾では現役の監督や作画監督が曜日替わりで5名。例えば、竹内浩志さん、西村聡さん、麻宮騎亜さんなど第一線の方々です。カリキュラムについては、画力があることが入塾の前提条件なので、授業ではその先…動き、パース、レイアウトなど作画の基礎を学びながら、1年間で原画を描けるところまでを目指します。また、決まりきったカリキュラムではなく、講師方が持つ現場の技術、実践的な技術指導を行います。その上でさらなる画力の向上も必須です。アニメーターは人も動物もメカも、全てが描けないと仕事になりませんから。

梅崎:美術塾も形式は同じです。ただ4年やってきて分かったのは、パース能力やデッサン力といった空間把握能力は、入塾してから伸ばすのはほぼ無理だということです。最初は伸び代があればと思っていましたが、奥行きのある絵を描けない人は、改善しようと思っても難しかったので、今は入塾試験の段階で画力を相当厳しめに見ています。イラストなら止め絵として成立していればいいですが、アニメの美術はキャラクターが存在するための空間を作らなければならないので。

塚本:梅崎さんが言う空間把握能力というのは、普段の生活でどれだけモノや空間に興味を持ち、観察しているかということですね。それは個人の資質や生活習慣に依っている部分なので、そこを我々が変えるのは難しいんです。

――開講して作画塾は7年、美術塾は4年。手応えはどうですか?

塚本:社内で“制作の柱”として貢献できるようになっていくのはこれからですね。作画塾、美術塾ともにもう随分な人数がスタジオに入っていますが、まだ個人戦力です。私たちは卒業生たちがチーム戦力になって、先輩が後輩を教えていくなどして“制作の柱”になることを期待しています。
サンライズ作画塾で学ぶ塾生
サンライズ作画塾で学ぶ塾生 / 撮影=鈴木康道


■紙描きの技術を守るSUNRISE arte(サンライズアルテ)の美術

――今放送されているアニメ作品ではフルCG(CG=3DCG)も珍しくなくなっています。そうした中、サンライズ作品は手描きにこだわるイメージがあります。

塚本:スタジオの特色としてこだわっている部分はありますが、現状では手描きが表現として一番強いという感覚ですね。もし手描きを超える表現が出てくれば、そちらも導入する柔軟性はあります。むしろ効率化を考えたらCGの方が便利だし、SUNRISE Studiosも現場ではCGを積極的に導入しています。

梅崎:手描きかCGかって、主にキャラクターのことを仰っていますよね? それでいうと「機動戦士ガンダムSEED FREEDOM」、ラブライブ!シリーズのキャラクターもCGを使ったハイブリッドアニメです。手描きとCG、いいところを違和感なく混ぜて成立させています。

塚本:伝統を守ることに固執しているわけではなく、アニメファンが喜ぶ最善の方法を模索した結果、今は手描きの表現力を重視しているということですね。

梅崎:手描きの中でも紙描きにこだわっているのはむしろ美術の方です。目的は二つあって、一つは伝統芸能的な側面。筆で描いた絵がそのまま画面に出る表現、その技術は一度失うと二度と取り戻せないので、ベテランの方に教えていただきながら残していこうと考えています。ちなみに我々はニッカー絵具さんのポスターカラーを使っています。

――ポスターカラーを使っているのはSUNRISE arteとスタジオジブリだけと聞きました。

梅崎:ポスターカラーは下地の色味を残しながら塗っていける絵具で、色彩の表現は豊かですが、アクリルや油絵に比べて非常に扱いにくい画材なんです。他に使っているスタジオもあるかもしれませんが、大手制作会社ですと弊社とジブリさんだけかもしれませんね。

――紙描きを覚えるもう一つの目的は?

梅崎:育成です。デジタル作画は見栄えがいいし作業も速いですが、ゆくゆく美術監督として人を感動させる絵を作れるようになるかというと、デジタルから入った人は壁にぶつかりやすい傾向にあります。色彩の作り方とか、エビデンスがあるわけではありませんが(笑)。紙描きの工程を経た人の方が結果的に伸びる確率が高いと分かってきたこともあり、あえて紙描きの指導をメインで取り入れています。もちろん、実務では九割以上がデジタル作業ですが。

■オリジナルを作れない生成AIに脅かされる気はしない

――今年のカンヌ映画祭のイベントでは生成AIの長編アニメーションが発表され話題を呼びました。この先CG、AIが進化していったとき、手描きと遜色ないアニメは生まれると思いますか?

塚本:その話は各所で話題になってますよね。

――私個人としては、CGアニメは動きに違和感があって好きではありません。絵にウソがあるのがアニメのいいところなのに、正確すぎるというのも。

塚本:「うまいCGクリエイターもいますよ」としか答えられないですね(苦笑)。CGも作画と同じで、技術なんですよ。あえて2D作画のように作られていて「これ、CGなんだ」という作品もたくさんあると思いますよ。「SEED FREEDOM」でも実証できたと思います。

梅崎:動きのタイミング的なものも含めて、動画の気持ちいい形というのはCGでもかなり追求されていますね。もう気にするレベルではないところまで来ていますし、CGだから見ないというのはもったいないですよ。めちゃくちゃ刺さる作品だったら損じゃないですか。ディズニー作品だってそうですし。

――生成AIの活用についてはどうお考えですか?

塚本:現時点ではAIは絵作りより、制作工程のサポートや雑務で活用したいですね。実際に当社でもサポート実務での活用が始まっています。

梅崎:それに、アニメ制作で一番楽しいのは、絵を描く部分じゃないですか。絵を作りたくて、みんなアニメをやっているんです。そこをAIに譲る必要はないんじゃないかなと思います。グループとしても、「我々の作品権利を侵害されないこと」「他社の作品権利を侵害しないこと」が絶対条件ですので、慎重に検証研究を進めています。

塚本:ある作画監督さんと話しているときに言われた印象的な言葉があって、「AIは学習する側、我々は学習されるもの(オリジナル)を生み出す側。だから脅かされる気はしない」と。アニメに限った話でなく、どのジャンルのクリエイターもその気概が必要だと私は思いますね。

■業界の未来と海外の動向

――中国や韓国の作品の勢いもすごいです。アニメ技術の向上や、人材の流出で危機感はありますか?

塚本:よく聞かれますが、国単位での危機感はないですね。制作会社単位でいいものを作れるかどうかだと思っています。

――日本のベテランがごっそり引き抜かれているという記事も見かけます。

塚本:向こうに活躍の場を移しているアニメーターは確かにいます。でも、ごっそり引き抜かれているとか、私の周りでそういう話が来たというフリーランスの方の話は聞かないんですよ。もしあっても、条件のよい仕事を選ぶのは当然の権利ですし、我々としては選んでもらえる会社であるための環境を整えるだけですね。

――最後に、今後の業界の理想像や、塾生への期待をお聞かせください。

塚本:まずはアニメーターについて回る昔のイメージを払拭したいですね。今は環境もかなり改善されています。「アニメ業界はブラック」という先入観をなくして、親御さんにも安心して送り出してもらえる社会的地位のある職業にしていきたいです。たまに「徹夜して寝袋で寝るのが夢でした!」という志望者もいますが、「ごめん、そういう会社じゃないから」と伝えています(笑)。

梅崎: 美術塾卒業生は現在16名が現場に在籍しており、来期には塾生出身の美術監督が誕生する予定です。社内生え抜きでチームを作り、作品の世界観を自分たちの絵で染め上げることができる。それがスタッフのモチベーションになればいいなと思っています。

塚本:1月6日から放送がスタートする「鎧真伝サムライトルーパー」には作画塾出身のスタッフも多数参加しており、今着々と成果は実ってきています。本作は完全新規で復活する人気作で気合いも入っています。ぜひそのクオリティーに注目していただきたいですね。

梅崎:「鎧真伝サムライトルーパー」のオープニング美術にも美術塾の卒業生が参加しています。こちらにも注目して、アニメの美術に興味を持っていただけたら嬉しいです。

◆取材・文=鈴木康道
「鎧真伝サムライトルーパー」でサンライズ美術塾の卒業生が手掛けた背景
「鎧真伝サムライトルーパー」でサンライズ美術塾の卒業生が手掛けた背景 / (C)創通・サンライズ

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