
アメリカの弾道ミサイル原子力潜水艦オハイオ級「USSルイジアナ」。水中排水量1万8000トンで乗員156名、現役で西側最大の潜水艦 (パブリックドメイン)
【画像9枚】メチャ美味そう! 海自の潜水艦メシほか潜水艦内のプール&サウナなど
メシのウマさは万国共通! 潜水艦生活のリアル
「昼食代458円を集金します。お釣りのないようにお願いします」
自衛隊で給食を受けると実費を支払います。ある潜水艦の研修に参加した際、海幕(海上幕僚監部)広報担当からの通知で、きっちりと封筒に用意して出かけました。
ところが当日になって「すいません! 514円でした(汗)」といわれ、準備の甲斐なく現場で小銭入れをまさぐったことがあります。潜水艦の食事は増加食と呼ばれ、費用が高いことを広報担当が失念していたのでした。
1食ぶんではわずかな金額の差ですが、潜水艦の「給養」には特別な配慮がされています。そしてとても美味しいのです。
海上自衛隊の潜水艦乗員は、高級車に乗っている人が多いといわれます。給料がよいからです。基本俸給に対し55.5%の乗組手当や航海手当が加算され、航空自衛隊の戦闘機パイロットを上回ることもあります。また「結婚するなら潜水艦乗り」とも。理由は高収入だけではありません。狭い閉鎖空間で任務に就くため、温厚で感情をコントロールでき、協調性が高いとされるからです。
潜水艦とは謎の多い乗り物です。それだけに虚実織り交ぜた様々なメディア作品のネタにもなってきました。謎多き潜水艦生活とはどんなものなのでしょうか。
潜水艦を舞台にした、実写映画最新作も話題のメディアミックス作品『沈黙の艦隊』(作:かわぐちかいじ)では、原子力潜水艦が「独立戦闘国家」として描かれます。背景には、基本的に燃料補給が不要で、単艦で行動するという原子力潜水艦の特性があります。
住環境という面では、原潜内は地球上でもっとも清浄とさえいわれます。豊富な電力で空気清浄、淡水確保が十分であり、食事の質も水上艦より良いとされます。旧ソ連のタイフーン級潜水艦には、プールやサウナまで設けられていました。
潜水艦生活の楽しみは「食事」「睡眠」「シャワー」だといわれます。食事が艦内でもっとも重要な日課であることは万国共通です。前述のように手厚い配慮がなされ、潜水艦食がいわゆる「ミリ飯」のなかでもっとも美味しいのも万国共通のようです。
しかし狭い艦内のこと、貯蔵から調理まで制約が多すぎ、食事を提供するには厳しい環境でもあります。給養員の工夫と研究努力にはそれだけで物語ができるほどで、たとえば給養員は自炊しない人も多いといい、これは外食して人の作ったものを食べて研究するからだそうです。

海上自衛隊呉資料館(てつのくじら館)の、「あきしお」のベッド (月刊PANZER編集部撮影)
どれくらい潜っていられるの? リアルと符号する「作中時間」
魚雷発射管室の、魚雷の横にベッドが設置されるというのは本当です。それでも寒いやら暑いやら虫が出るやらの陸上自衛隊の野営より数倍マシという潜水艦乗員もいます。むしろひんやりしていて寝やすいと、意外と好評な場所なのだとか。そうしたこともあってか、定員ではない添乗者に供されることのほうが多いようです。
ただ、(魚雷発射管室に限らず)艦内のベッドはかなり狭くて、寝返りができる程度の高さしかなく、潜り込むにはコツが要ります。古い艦では、ふたりが交代で同じベッドを共有することもあるそうです。
例外的に個室をあてがわれているのが艦長です。艦長より高位の隊司令などが添乗しても個室は明け渡しません。艦長のストレス軽減の配慮なのですが、安全性最優先で単艦行動する責任の大きさの裏返しであり、水上艦にはないことです。
また近年、海上自衛隊では女性が潜水艦に乗り組むようになって様々な変化があったといい、たとえばどの艦でも水の使用量が増えたとか。シャワーは、通常は各員が交代で3日に1回程度、数分間で、多くの隊員が「ファブリーズ」のような消臭剤を持ち込んでいます。そうしたなかで水使用量の増加、これは男性が身だしなみに輪をかけて気を使うようになったから、というオチだったそうです。
このように潜水艦での生活は、可能な限り快適な環境に努められているとはいえ、やはり特殊なものであり、恒常的な生活の場にはなりえません。原潜に燃料補給は基本的に不要ながら、行動できる期間は限定されてしまいます。
各国は潜水艦の機能面から乗員個々の生理面まで、最高のパフォーマンスを発揮させる方策の研究を尽くしており、作戦行動は2か月が限界という、ほぼ同じ結果が出ています。高品質な給養と生活環境を整えても、人間には地面と日光が必須のようです。
『沈黙の艦隊』において、作中での経過時間は2か月間でした。これは、現実の潜水艦の行動期間とも符合しますが、劇中のようにストレスにさらされ続ければもっと短くなるでしょう。主人公「海江田四郎」たちが掲げた「独立戦闘国家」も、三日天下ならぬ二か月天下が限界、といったところではないでしょうか。
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「この航海から帰ってきたら、今度こそ退職願いを出そう」と、高級車ではなく自転車で埠頭に乗り付けるたびに思う……と打ち明ける潜水艦乗り組みの海曹に会ったことがあります。このひと言にどんな意味があったのか、深入りできませんでした。
『沈黙の艦隊』という題名は奥が深いです。海中生活はまさに「沈黙」。敵に探知されぬための沈黙、過酷な環境に耐える沈黙、身内にも秘密を守る沈黙です。潜水艦内で清算した昼食代514円は、その代償を垣間見た一瞬だったのもしれません。
