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「まだどこからもオファーが来ていません」焦りは募るが、悲観すべきではない。興國10番がプロの兄からかけられた言葉

「まだどこからもオファーが来ていません」焦りは募るが、悲観すべきではない。興國10番がプロの兄からかけられた言葉


 9月24日の下旬から10月1日にかけて大阪で行なわれるU-17日本代表候補の国内トレーニングキャンプ。発表されたメンバーに、興國高の3年生MF樺山文代志の名前はなかった。

 この発表の前日の23日、樺山はプリンスリーグ関西1部・第14節の東山戦に臨んでいた。前節の近江戦から中2日の連戦だったこともあり、樺山ら主軸数人はベンチスタートとなった。が、1-1で迎えた後半のスタートから一気に彼を含む4人が投入されると、押され気味だった前半と状況は一変した。

 一緒に途中出場した菅井琥白と共にダブルボランチを組んだ樺山は、スペースに巧みに入り込んでボールを引き出し、菅井とのパス交換やサイドへの展開、前線と両サイドへのサポートや追い越しで攻撃を活性化。リズムメーカーとして存在感を放った。

 そして2-2で迎えた87分にはルーズボールをヘッドで前に繋ぎ、そこから始まった左サイドのポゼッションのサポートに入ってバックパスを受けると、すぐに右足で前に持ち出してゴール前にインカーブのクロスを送り込む。

 このクロスに対して、ニアサイドに飛び込んだFW芋縄叶翔が頭で合わせてネットを揺らす。樺山のアシストによって決勝点がもたらされた。

「(近江戦と)メンバーは変わったんですけど、出た選手は責任を持ってやってくれたからこその前半は1-1のドローで折り返すことができたと思います。後半は途中から入った僕らが勝利まで流れを持ってこようと話して入りました」
 
 苦しい試合だった。後半に逆転するも追いつかれ、その直後にはPKを与えてしまった。GK岩瀬颯がビッグセーブを見せたことで、もう一度、興國に流れが戻り、そのチャンスを逃さなかった。あのアシストのシーン、樺山はこう振り返る。

「サイドからボールを受ける直前に中を確認したら、ペナルティボックス内に2人の選手が入ろうとしていたので、そこにゴールに向かうボールを蹴り込めば何かが起きると思った。芋縄がきちんと走り込んでくれていたし、自分的にもそれなりに良いボールが蹴ることができました」

 アシスト以外にも樺山は積極的にボールを受け、前半から鋭かった東山のハイプレスに対して、一歩も引くことなく、パスやドリブルで剥がして攻撃のリズムを作り続けた。

「もちろん奪われるリスクはありますが、そのリスクに対して怖がらずにプレーしろと六車(拓也)監督からは常に言われているので、積極的に前を向いて、奪われるギリギリぐらいのところを突くパスやドリブルを意識してやりました」

 こう語る樺山の表情はどこか堅かった。劇的な勝利を収め、かつ決勝点をアシストした選手とは思えないほどのものだった。その理由は明らかだった。

「もしかすると今が高校に入ってから一番苦しい時期だと思っています。高卒でプロになるという考えは一切変わっていませんが、まだどこからもオファーが来ていません。それにU-17日本代表でもU-17アジアカップ(4月)に出場できて、その直後のスペイン遠征(6月)はメンバーに入れたんですけど、前回のフランス遠征(8月)には入れずに、おそらく今回の国内合宿も正直厳しいのではないかと感じています」

 高校3年生の9月になって、入学時に思い描いていたプランとは異なる現実を突きつけられている。同年代の選手がJリーグで活躍したり、内定を得たニュースを見たりするたびに焦りが募り、さらにターゲットにしていたU-17W杯(11月)の出場も黄色信号が灯り始めている。

 この状況に苦しむのは理解できる。だが、それでもリーグ戦は来るし、来月からは高校最後の選手権予選が始まる。立ち止まっている暇は1秒もないし、それは本人も理解している。

「正直、この夏の期間は思い通りにいかないことばかりで、『何でやろ?』と思うことが多くて...。めちゃくちゃ辛くて、逃げ出したくなったこともありました。でも、それだけ自分の実力がまだまだなので、日々の練習で100%を出して成長していくしかない。一番はプリンス関西で活躍して、選手権予選で優勝に貢献していかないと、プロからオファーが来ることも、U-17日本代表の最終メンバーに入ることもないと思うので、ここで全試合、勝たせにいくつもりでやろうと思っています」
 
 これだけは言い切れるのは、今の樺山は決して悲観すべき状況ではないということだ。正式オファーこそ来ていないが、すでにJ1、J2クラブの練習に参加しており、プロクラブからはリストアップの対象選手であることは間違いない。8月にはスペインに渡り、スペイン4部リーグに所属するUEサン・アンドレウの練習に参加。高い評価を得たという。

 さらに今は落選しているとはいえ、今年はU-17アジアカップ(U-17W杯アジア最終予選)に出場しているし、コンスタントにU-17日本代表に呼ばれている実績があるだけに、今後の活躍次第では最終メンバーに滑り込む可能性だって十分にある。

 樺山の周りには可能性という言葉がたくさん転がっている。あとはそれを今後のプレーで拾い上げていくのみ。それを伝えると、彼は少しだけ表情を緩ませた。

「それはお兄ちゃん(樺山諒乃介/ギラヴァンツ北九州)にも言われました。『変に迷わずに、自分が決めた目標に向かってやり切れ』と。やっぱりそこしかないですし、むしろ今は前向きな状況ですよね。正直、今の僕は勝った試合の終わりとは思えない暗さと歯切れの悪さが出てしまっていますよね。でも、このまま飲み込まれていくのは嫌です」
 
 悩めば悩むほど、「何でやろ?」と思えば思うほど、過去ばかりを気にして立ち止まってしまう自分がいる。だが、変えられるのは過去ではなく、未来しかない。そのためには前に進み続けるしかない。

「もう、1試合1試合に気持ちを込めてプレーする。プリンス、選手権予選を全力で走り抜けて、その先にあるプレミア昇格、選手権優勝を目ざすために、今はピッチの上で集中あるのみですね」

 自分に強く言い聞かせながら、必死で前を向こうとしている。その姿勢、経験こそがこれから先、樺山をより強くする財産となるだろう。

 チームは兄・諒乃介が2年生だった時に初出場して以来、選手権には一度も出ていない。あの時の兄と同じ背番号10を託されているだけに、いつもアドバイスをくれる兄の思いも背負って戦うという使命もある。

 可能性と想いを両手に抱えて。樺山文代志は高校ラストイヤーをなりふり構わずに走り抜く。

取材・文●安藤隆人(サッカージャーナリスト)

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配信元: SOCCER DIGEST Web

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