
1990年代のハリウッドを代表するスター、サンドラ・ブロック。代表作は数多いが、その中でも多くの人が思う彼女の魅力といえば、明るく親しみやすいイメージと、極限状況で見せるタフな生命力を持った役柄にあるだろう。その両面が鮮烈な印象として刻まれたのが、「スピード」(1994)と「ザ・インターネット」(1995)の2作である。“動”の「スピード」、“静”の「ザ・インターネット」――ジャンルもテンポも異なる作品だが、どちらもサンドラの存在が観る者を捉えて離さない。BS12 トゥエルビ(BS222ch※全国無料)の「土曜洋画劇場」(夜7:00~)では、1月10日(土)に「スピード」、1月17日(土)に「ザ・インターネット」を放送。サンドラの姿を追いながら、両作の魅力を紹介する。
■ノンストップの緊迫、「スピード」はとにかく息をつかせない
「スピード」の物語は極めて明快だ。ロサンゼルス市内を走る路線バスに爆弾が仕掛けられ、時速80キロ以下になると爆発する。つまり、このバスは決して止まることが許されない。ロス市警のジャック(キアヌ・リーブス)が外から事態の収拾に奔走する一方で、バスの中で期せずしてハンドルを握ることになるのが、サンドラ演じるアニーだ。事件とは無縁だったはずの一般市民が、突然、十数人の命を預かる重責を担うことになる。
この映画の醍醐味は、一切の緊張が途切れない点にある。ハイウェイでの暴走、途切れる道路、急カーブ、ガソリン漏れ、そして犯人の次なる一手。観客が安堵する隙を一秒たりとも与えない。超人的な活躍を見せるキアヌに対し、サンドラは観客の代表としてそこにいる。彼女が漏らす溜息や、ハンドルを握る手の震えが、荒唐無稽なアクション設定に、リアリティーという名の血を通わせていくのだ。彼女の表情や声の揺れを見ているだけで、観る側の肩にも自然と力が入る。難しい説明を排してもなお、「今、相当まずい状況だ」という危機が直感的に伝わってくるのは彼女の演技の賜物だろう。
■派手な動きを超えた、切羽詰まった空気感
「スピード」は爆発やジャンプといった派手な場面が注目されがちだが、劇中の大部分でサンドラは運転席に座り、ハンドルを握り続けている。それでも観客を退屈させないのは、彼女が終始切羽詰まった空気を維持しているからに他ならない。余裕綽々のヒーロー然とした振る舞いではなく、「今これを間違えたら、全てが終わる」という緊張が画面越しに絶え間なく押し寄せてくる。
キアヌが外の世界を動かすアクション担当だとすれば、サンドラは、映画の中の緊張を観客の心に直接届ける役割を担っていると言える。だからこそ本作は、鑑賞後に心地よい疲労感を覚えるほどスリリングな体験となる。

■「ザ・インターネット」は静かに追い詰められるスリラー
一方、「ザ・インターネット」は、「スピード」とは正反対のベクトルから緊張感を積み上げていく。サンドラが演じる主人公アンジェラは、在宅で働くコンピュータープログラマーだ。人との接触を避け、ネットワークの中で仕事も生活も完結させていた彼女の日常は、ある日を境に一変する。
ウィルス解析を依頼されたフロッピーディスクを手にしてから、身分証明の記録が別人へと書き換えられ、アンジェラは本来の名を失う。自宅はいつの間にか他人の手に渡り、勤務先には自分ではないアンジェラがいる。やがて彼女は、自分が誰なのかを証明する術すら失ってしまう。
この映画のスリルは、目に見える敵がすぐには現れない点にある。謎の男に狙われてはいても、その正体は掴めず、証拠も残さない。そして、唯一の味方も殺される。必死の訴えも周囲からは疑念の目で見られ、彼女は社会から徐々に消去されていく。
派手な追跡シーンこそ多くないが、主人公は常に逃げ場のない場所へと追い詰められる。パソコンを開けば情報が奪われ、外に出れば居場所を失う。どこにいても安全ではないという絶望感。
ここでサンドラは孤独に慣れすぎた現代人の危うさを静かに演じている。彼女の大きな瞳に宿る不安は、画面越しに観客の胸を締め付けるだろう。派手な叫び声よりも、恐怖に硬直していく彼女の表情こそが、デジタル社会の底知れぬ闇を何よりも雄弁に物語る。次第に追い込まれていくその繊細な変化が、観客にじわじわと、かつ確かな恐怖を伝播させていくのだ。
■デジタル社会の恐怖、時代が映画に追いついたという戦慄
特に、ネット上の情報が事実として扱われ、本人の言葉が無力化されていく過程は、虚偽のネット情報に踊らされる人々も多い今の時代には、一層のリアリティーを伴って響く。
本作が公開された1995年は、インターネットが一般家庭にようやく浸透し始めた黎明期であった。そうした年代において、この映画が描いた世界は驚くほど先進的だ。個人情報がデータ管理される危うさ、改竄やなりすましによって人生が崩壊するデジタル社会の恐怖をこれほど具体的に描いていた点は驚くべきことだ。
「ザ・インターネット」は、公開当時は荒唐無稽なスリラーと受け取られる面もあった。しかし今や、明日は我が身と言えるほど現実的な脅威となっている。現実が映画に追いついたことで、「ザ・インターネット」は一本のサスペンスとして、むしろ公開当時以上の鮮度と説得力を増している。

■二つの作品が見せる、別々の緊張と普遍の信頼感
「スピード」の疾走感と「ザ・インターネット」の閉塞感。この対照的な二つの極限状況を繋ぎ止めているのは、サンドラの演技が感じさせる、どこかに実在していそうな生々しいリアリティーだ。彼女がハンドルを握る力強さと、マウスを操作する手の震え。その一挙手一投足にこちら側も不安を重ね、物語に深く引き込まれていく。
今改めてこの2作品を観ることは、彼女が90年代のトップスターへと駆け上がった理由を再発見する格好の機会となるだろう。
BS12 トゥエルビの「土曜洋画劇場」では、1月10日(土)夜7時からサンドラ出演の「スピード」、「スピード2」、「ザ・インターネット」、「ゼロ・グラビティ」の4作を4週連続で放送する。1月の週末、彼女と共に危機を乗り越えるスリルを体感してほしい。
◆文=鈴木康道

