
不朽の名作ガンアクション「トライガン」。そのオリジナル新作アニメとして2023年に放送され、圧倒的な映像美と熱量で世界中を熱狂させた「TRIGUN STAMPEDE」から約2年半。ついにシリーズ完結編となる「TRIGUN STARGAZE」の放送が2026年1月10日(土)夜11時よりスタートする。物語は、街ひとつを消滅させた事件<ロスト・ジュライ>から2年半後の世界を描く。記憶に蓋をし「エリクス」という名でひっそりと暮らすヴァッシュ・ザ・スタンピードと、彼を追い続けるニコラス・D・ウルフウッド。第1話から衝撃的な幕開けを見せ、完結へ向けて動き出した本作について、ヴァッシュ役の松岡禎丞と、ニコラス役の細谷佳正に直撃。空白の期間を経ての再会、変化した世界観への想いなどたっぷりと語ってもらった。
■「いい意味で頭がバグる」第1話の衝撃
――ついに「TRIGUN STARGAZE」の放送が始まりますね。前作「STAMPEDE」が非常に気になるところで幕を閉じ、ファンも待ち望んでいた完結編ですが、第1話の脚本を読まれた際の印象はいかがでしたか?
松岡 第1話については、原作を知っている方であれば「あれ? なんかおかしくない?」となる展開で、頭がバグること間違いなしです。なぜヴァッシュが「エリクス」と呼ばれているのかだったり、ホッパードとの絡みであったりとか……。僕自身もいい意味で戸惑いましたし、やっぱり「トライガン」は一筋縄ではいかないなと改めて感じました。
細谷 前回の「STAMPEDE」は、武藤健司監督の言葉を借りると「魅力ある欠陥商品」という様に、一筆書きの荒々しさに美学を感じる作品だったと思います。対して今回の「STARGAZE」は、視聴者に対して幅広く裾野を広げてストーリーの完結を分かりやすく、丁寧に描いている印象を受けました。

――作中時間も2年半、収録としても同じくらいの期間が空いたと思います。時間を経て再び役に戻る難しさはありましたか?
松岡 僕はてっきり「STAMPEDE」で終わったものだと思っていたので、「STARGAZE」の話を聞いた時には「ああ、またあの日々が戻ってくるのか」と(笑)。正直、ヴァッシュという人物を演じる機会もしばらくなかったので、最初はものすごく不安でしたね。特に第1話のヴァッシュは、精神的に核が抜け落ちてしまっている状態なので、最初の一言をどう発するかというのはとても怖かった記憶があります。
――以前までのヴァッシュとは違う状態からのスタートですからね。
松岡 そうなんです。それもこれも現場で作り上げていくものだと割り切ってはいましたけど、仲間たちと出会うまでは手探り状態でした。特に序盤は新しい方々と触れ合うことが多かったので、いつもとは違う場所にポンと置かれた寂しさもあって、「誰か早くヴァッシュのもとに来てくれないかな」って思っていました(笑)。第3話トリでみんなが集まった時、ようやく「やっと戻ってきたな」という感覚になれました。
細谷 僕は「STAMPEDE」の後、イベント出演のために南米のチリに行くことがあったんですけど、そこでニコラスのコスプレをしている人たちが沢山いて驚きました。その時に改めて「トライガン」が海外でも人気なのだと思いましたし、「ニコラスを好きな人が沢山いるんだ」ということもわかりました。内藤泰弘先生自身もニコラスのことが好きなんだとイベントレポートを読んで感じていましたし、それがお客さんにも伝わっているんだなと。
それもあって自分がやりたいことよりも、視聴者に「求められているであろうニコラス像」を作っていくのがいいだろう、と思いました。
――俯瞰で作品を見ているような感覚ですね。
細谷 そうかもしれませんね。

■「ないものねだり」の二人
――お二人から見て、ヴァッシュとニコラスというキャラクターはどう映っていますか?
細谷 ニコラスは、孤児院の子たちを守るという目的がはっきりしていています。現実主義ですし自分の目的が思うように果たせていないところもあって、ヴァッシュといると常にイライラしているように見えます。「現実はそんなに甘くないんだ」と自分の考えをヴァッシュに押し付けようとしても、ヴァッシュには全く響かない関係がいいなと思います(笑)。
――現実主義のニコラスとは真逆ですよね。
細谷 ヴァッシュは超然としているというか。理想主義過ぎて、一見愚かにも見えるんですけど、物事を達観しているようにも感じます。2人でいるとニコラスがとても幼く見えてきます。ニコラスは、現実を突きつけれることで相手の行動をコントロールしようとしますが、、ヴァッシュは命懸けの戦いの最中でも、「相手の命を奪いたくない」みたいな感じで本当にそれをやってしまうんですね(笑)。精神的な次元が全く違うので、ニコラスは噛み合わなくてイライラしてるんだと思います。
松岡 でも逆に言えば、それはヴァッシュにはできないことなんですよね。ニコラスは本当に割り切っていて、目的のためには手段を選ばないし、現実的に物事を考えて動いていて。なので、ヴァッシュとしては、ニコラスのことを「ないものねだり」で見ていると思います。
――自分にはない強さを持っていると。
松岡 そうですね。「STAMPEDE」でリヴィオと対峙した時だって、弟のように接していた人間に銃を撃てるかと言ったら、ヴァッシュだったら絶対に撃てない。でもニコラスは割り切った上で、ここで絶対に止めなきゃいけないと考えて引き金を引ける。それがすごいなと。
――お互いに「ないものねだり」をしている関係なんですね。
松岡 そう思います。あと、ニコラスって結構痛いところを突いてくるんですよね。「STAMPEDE」第5話「祝福の子供」のラストで、ヴァッシュはロロを撃ったニコラスに食い下がるんですけど、そこで「おどれのそれは偽善や」と言われた時、言い返したいけど何も言えなかったです。あそこは僕も一瞬だけヴァッシュの気持ちになって、逃げ出したい気持ちになりました。痛い現実を突きつけてくれるという意味でも、ヴァッシュにとってニコラスは必要な存在なんじゃないかなと思います。

■「松岡さんはヴァッシュそのもの」
――お二人はさまざまな作品で共演歴がありますが、お互いに「キャラクターと似ているな」と感じる部分はありますか?
細谷 松岡さんは、ヴァッシュに似ていると思います。
松岡 即答?(笑)。
細谷 はい。例えば、客観的にみて生理的に無理があると感じるディレクションがあったとしても、一心不乱にそれを遂げようとされているなと。それがヴァッシュに似ているなって。
先ほど「一瞬ヴァッシュの気持ちになった」とおっしゃっていましたけど、松岡さんは、キャラクターである時と、ご本人である時の感覚がシームレスで、壁があまりないんだろうなと、話を聞いて思いました。
――役と一体化するタイプなんですね。
細谷 それって仕事に対してすごく誠実ですし、違う観点から見れば愚直にも見えると思うんです。ヴァッシュって、どれだけ絶望的な状況にあっても最後まで優しさで寄り添おうとするじゃないですか。自分にもダメージがあるかもしれないけど、それをやってしまう。そのピュアさや誠実さ、実直さみたいなものが、松岡さんとすごく重なるなと思って。なので、ヴァッシュ・ザ・スタンピードは松岡さんだなって思います。
松岡 いや、恐縮です……。僕は自己分析は苦手なんですけど、やれることと言ったら、真っ直ぐにその人物であろうとする姿であったり、現場で生まれる空気感を最大限に活かすことではないでしょうか。掛け合いの中で生まれたものが一番ですし、そこに対しては悔いを残したくないというのはいつも思っています。
――逆に、松岡さんから見た細谷さんは?
松岡 そうですね。僕も、細谷さんには結構ニコラス感があると思っていました。
細谷 本当ですか? あります(笑)?
松岡 ニコラスって人を客観的に見ることができるじゃないですか。だからその人の気持ちも分かるし、助言や注意もできる。そういう部分は細谷さんにも感じるので、ニコラスっぽいなと思っています。あ、彼のように口は悪くないですけど(笑)。
細谷 ありがとうございます。客観的に見てしまうところはあると思います。没入するタイプでは自分はないだろうなと。ただ、「STAMPEDE」第7話「WOLFWOOD」のエピソードでは客観的ではなかった瞬間もあったので、その辺はいい加減なのかもしれません(笑)。


■カッコ悪くて、カッコいい二人
――「STAMPEDE」第7話「WOLFWOOD」のお話が出ましたが、お二人の掛け合いで特に印象に残っているシーンはありますか?
細谷 やっぱり第7話の「WOLFWOOD」です。リヴィオの暴走を食い止めながら、巨大なイオン砲の砲台を二人で支えるシーン。二人ともいっぱいいっぱいで、超シリアスな状況なのに、突然ヴァッシュが「悪かった」って話しかけてきて(笑)。「やかましいわ! 今する話か!」ってキレ散らかしながらピンチを切り抜ける2人の感じがすごく面白くて、好きなんですよね。
松岡 僕もあの回は大好きです。あのタイミングでのヴァッシュの突然の謝罪には、思わず僕も「こんな時に謝ることじゃないだろう!」って(笑)。
細谷 「今に集中してくれ!」っていう(笑)。
――でもあのデコボコなコンビ感が最高でしたね。
細谷 決してクールでスタイリッシュではないんですよね。どこか滑稽にも見えるんだけど、それが何だかカッコよくも見えてしまう。「カッコ悪いんだけどカッコいい」、というのが二人のコンビの魅力なのかなと思います。
松岡 デコボコだからこそハマるんです。「STAMPEDE」での2人の別れのシーン(第10話「人間」)も印象的で、「行ってしまうのかい?」とかではなくて「今までありがとう」になるんです。それぞれの信念だったり目的というものを、特に何も言わなくてもお互いに分かっている気がして、その関係性もすごくいいなと思います。
――では最後に、これから物語の結末を見届けるファンへメッセージをお願いします。
細谷 すごく野心的な作品だと感じています。一度アニメ化された名作を、3DCGで、しかも新解釈で再構築して完結まで描く。そこにスタッフの皆さんの原作への深い愛情と、「普通では終わらせない」という強い意志を感じました。視聴者の方が予想しているような展開には、いい意味でいかないだろうと思うので、ぜひ期待していてください。
松岡 原作を知っている方も知らない方も、どちらにも満足していただける作品になっていると思います。あっと驚く仕掛けが所々に散りばめられていて、「こういう展開になるの?」と驚きつつも、最後には納得できるものになっていますので、ぜひ最後まで楽しんでいただけたらなという思いでいっぱいです。
――ありがとうございました。
◆取材・文=岡本大介


