店頭に端数の価格の商品が並ぶ理由、限定商品が世の中に存在する理由、そしてギャンブルがやめられない理由も、すべて人間の元来持つ「性質」にあると言われている。いま、そんな人間の性質を読み解く「行動経済学」という学問が世界のビジネスエリートや大学、そして名だたる企業から注目されている。
書籍『なぜ人はそれを買うのか? 新 行動経済学入門』より一部を抜粋・再構成し、丁寧に解説する。
キリのよい価格より端数が好まれる!?
行動経済学を活用した工夫や仕掛けは、私たちの身近なところでたくさん見つけることができます。
たとえばスーパーの店頭で300円、500円といったキリのよい値段がつけられた商品はあまり見かけません。多くの商品の値段は198円とか399円とかのような端数が出ています。
食料品や日用品ばかりでなく、衣料品も同じです。ユニクロに行くと、1990円や2990円の商品がズラリと並んでいます。
このようにキリのよい数字から少し下げて設定した値を「端数価格」といいます。
なぜわざわざこうしたことをするかは、もうおわかりでしょう。たとえば1000円と980円ではわずか20円の差しかありませんが、その数字以上に消費者は980円の表示を見たときに「安いな」と感じてしまうからです。
4桁の1000円と3桁の980円。ひと桁少ない価格表示は、消費者の財布のヒモを緩めるのに充分な効力を発揮するのです。
限定商品が世の中に多く存在する理由
消費者の購買欲を高めるためにはいろいろな方法があります。「限定」をアピールするのもそのひとつ。「3日間に限り3割引き」とか「100名様限定」とかのやり方です。
消費者が「限定」に弱いのは、それによって急かされるからです。これをもう一歩踏み込んで考えると、消費者側に「損したくない」という意識が働いていることがわかります。
「3日間に限り3割引き」とは、言い換えれば、この3日間を逃すと割り引きにならずに損をしますよ、という呼びかけです。
「100名様限定」は、100名のなかに入らないと高い買い物になってしまいますよ、という意味になります。
こうした、このチャンスを逃すと損をしてしまうという呼びかけに人間は弱い。それは、私たちに「損失回避性」があるためです。
これは、人は得をしたときの喜びよりも損をしたときのショックのほうが大きく、そのためなるべく損失を回避しようとする傾向が強いということです。
つまり「こうすると得ですよ」と訴えるよりも、「こうしないと損ですよ」と訴えたほうが消費者には有効であることがわかります。

