前知事が、自身が関わる施設で2度の補助金を受領
この事業が始まったのは2006年度。当初の予算は1億円だった。これが19年度、大澤氏が知事を退任する直前に1億3000万円に増額。前述のとおり、大澤氏は退任後、法人の理事長となり、自身が関わる施設で2度の補助金を得ている。
そこに、恣意はなかったのか。
この修繕事業を担当するのは、県介護高齢課・福祉施設係。現在は女性職員1名が主担当としてその任に当たっている。
この職員の説明によれば、毎年8月頃、事業の対象となる特養など「100~200施設」にメールで申請書類を一斉送付。申請のあった施設に対して現地調査を実施し、修繕の切迫性を評価して採否を決めるという。
例年、申請は10件程度。そのうち年度によって増減はあるが、「5~7施設」が採択される。調査は外注せず、担当職員1人で現地に赴き、施設長らの説明を聞きながら、屋上の防水や外壁の劣化状況、雨漏りの有無、空調機器の使用年数などを確認するという。
「どの施設も切羽詰まっている状況のなか、優先順位をつけて採否を決めるのが非常に心苦しい」と、この職員は率直に明かす。
最終的に、現場職員の判断をもとに課長・部長が決裁し、交付先が正式に決まる。しかし、事業要綱には気になる一文がある。
『知事は、補助金の適正な交付を行うため必要があるときは、補助金等の交付の申請にかかる事項について修正を加えて交付することができる』
では、地元政治家が運営する施設に補助金が優先的に回されたり、課の判断が知事や幹部によって覆るようなことはなかったか。この問いに、福祉施設係の職員はこう答えた。
「ご説明したとおり、担当職員が現地調査をして、それに基づいて、課長や部長から決裁する流れですので、そういったことはないかなとは思うのですが……」
受け答えに歯切れの悪さがにじんだのは、この職員が今年度に着任したばかりで、過去の経緯や制度の運用実態をつかみ切れていないからかもしれない。
では、当事者のひとりである大澤前知事はどう答えるのか。
「そんなのやるわけないじゃない!」
大澤氏が理事長を務める社会福祉法人・明光会に電話をかけ、職員に趣旨を伝えると、「少々お待ちください」と保留音に。数分後、電話口に現れたのは、大澤氏本人だった。
––––19年度、知事を退任される直前に大規模修繕事業の予算を増額されています。
「覚えていませんよ。現場の仕事に、私はタッチしてなかったですから」
––––ご自身の運営施設に補助金が優先的に回るよう働きかけたことはありますか?
「そんなのやるわけないじゃない! 福祉施設なんて、群馬県にいっぱいあるんだよ。それを特別に、私のところに補助金をつけるなんてこと……部長連中も職員連中もみんないるわけですよ。それを上からトップダウンで下ろすなんてこと、間違ってもできるわけないじゃない。
常識で考えてくださいよ。そんなことには、いっさい携わっていません。信念をもって、そう言えますよ」
大澤氏は強い口調ですべてを否定した。
だが、冒頭で取材に応じた施設長は、「補助金が一部の人に私物化されているのではないかと正直思ってしまいます」と複雑な胸の内を明かし、最後にこう言った。
「入居者さんには、雨漏りのない、冬はもっと暖かい部屋で過ごしてほしい。だから、今年も補助金の申請を出すつもりです」
疑念の入り込む余地のない、公平で開かれた補助金事業の運用が望まれている。
文/集英社オンライン編集部

