法廷を包む悲しみをよそに居眠りをしているように見えた被告
被告の敵意は、通報によって臨場した警察官にも向けられた。
被告は竹内さんと村上さんを殺害した後、逮捕を免れるために散弾銃などで武装して、自宅周辺を徘徊していたという。
その時、通報によって現場に駆けつけた、池内警部と玉井警視の乗ったパトカーを見つけ、被告はそのあと追って銃を構えて近づいた。
「警察官から撃たれるかもしれない」そう思った被告は二人の警察官に対して発砲するなどして殺害した。
玉井警視の弟は法廷で、被告に向かって落ち着いた口調で問いかけた。
「兄には、子どもがいます。まだまだ父親の存在が大切な時期に奪われた悲しみを被告人は想像したことがあったでしょうか。ないでしょうね」
また池内警部は、同僚からも慕われる職人気質の人物だったという。事件の前年に定年を迎え、一度退職したものの県警に再任用されていた。
池内警部の妻によると、日ごろから「遅いことは誰でもできる。誰よりも早くできることが大事だ」と言っていたといい、今回の事件でも一番に駆けつけていた。
池内警部は家庭では孫を溺愛しており、「じいじ」と呼ばれていたという。事件後、孫はショックから学校に登校できなくなってしまった。そんな孫が、小学校の宿題で「生」という漢字を取り上げて、家族に向けてこうメッセージを送ったという。
「家族のみんなへ。家族のみんな、おじいちゃんが中野の事件で青木政憲に殺されたけど、みんなで頑張って生きていこう」
つづけて、池内警部の妻は「もう一度話したくて、手に触れたくて…。『帰るよ』『今日メシはなに』『風呂入るよ』……いつもの声が聞きたい」と言葉をつまらせた。
傍聴席からはむせび泣く声が聞こえた。そんな法廷を包む悲しみをよそに、被告は目を閉じたまま徐々に身体が前かがみになっていき、まさに居眠りをしているような状態だった。
目を開けたかと思いきや、身体を掻いたり座りなおす動作をするなど、暇をつぶしているようにも見えた。
「人を殺して死刑になるために来た」
午後2時44分、検察側の論告・求刑がはじまった。死刑求刑が予想されていただけあって、傍聴席の人々は求刑を聞き逃すまいと傾聴していた。
検察側は論告で、被告は被害者4名のみを攻撃対象としていて、「自己の動機によって合理的な行動がとれており、著しく善悪の判断能力が減退している事案ではない」と指摘。
さらに、立てこもりをしていた際に、母親へ絞首刑を示唆する言葉を述べていたことなどから「(被告は)自身の行動が違法であると認識していた」として、「妄想症はあったが、犯行中やその前後に判断能力には問題はなかった」と結論づけた。
そして、検察側は「非常に残虐な態様で、冷酷な犯行を繰り返し、生命軽視の姿勢は顕著」と被告の犯行を非難。
「犯行は誠に重大で、死刑を選択をすることが誠にやむを得ない事案」だとして「死刑」を求刑した。
一方の弁護側は9月26日の裁判で、被告の犯行は計画性がないとしたうえで、「被告人の犯行は妄想の強い影響下によるもので、何の躊躇もなく次々に殺害した」と説明。
被告が、最も重度な妄想症と診断されたことや成育環境、両親からの病気に対する支援がなかったことなどの事情を挙げ、犯行時は「心神耗弱」の状態にあったと結論づけ、「死刑は回避されるべき」と訴えた。
そして最終陳述で、被告は裁判で初めて「黙秘」以外の言葉を発した。
「私は異次元存在から迫害を受けて人を殺して死刑になるために来た。もう二度とプレイしない。被害を受けた人たちには埋め合わせがある。中の人たちを傷つけて申し訳ない。ここは私にとって仮想空間なのでプレイという表現になった」
被告は約40秒をかけて、前を向きながらも身体をかき落ち着きがない様子で、ボソボソと小さな声で話していた。今回の残忍な犯行を「ゲーム」だったとでも言いたかったのだろうか。
次回、10月14日午後1時30分から判決が予定されている。
取材・文/学生傍聴人

