2026年、世界中がスペイン・バルセロナを注視している。天才建築家アントニ・ガウディの没後100年。この記念すべき年に、140年以上の歳月をかけた人類の至宝、サグラダ・ファミリアがついに「完成」を迎えると報じられているからだ。
しかし、その祝祭ムードの裏側で、地元バルセロナの空気は冷え切っている。我々が取材を進めると、世界を熱狂させる「2026年完成」という言葉が、不都合な真実を覆い隠すための「巧妙な意図」を持って使われていることが浮き彫りになった。そこにあるのは、聖なる祈りの場ではなく、暴走する観光マネーと、切り捨てられる住民の叫びだったのだ。
「完成」は言葉遊びか? 識者が指摘する2026年の実態
まず、冷静に事実を整理すると、建設委員会が謳う「2026年完成」とは、バシリカ(聖堂)を構成する「18本の塔」がすべて揃うことを指しており、建物全体の装飾や周辺整備を含めた「完全なる竣工」ではない。
「2026年にクレーンが消えると思っているなら、それは大きな誤解です」
そう語るのは、現地で長年、日本人観光客を案内してきたベテラン公認ガイドだ。
「2026年に終わるのは、最も高い『イエス・キリストの塔』を含む主要な建築構造だけ。聖堂のメインエントランスとなる『栄光のファサード』の膨大な彫刻群や、礼拝堂などの細部、そして最大の争点である外部の階段建設は、早くても2034年までかかると委員会自身が公式に認めています。つまり、2026年はあくまで『塔が揃う』という象徴的なマイルストーンに過ぎないのです」
世論は「没後100年」という物語に酔いしれているが、現場では依然として工事が続く。この「完成」という言葉の使い方は、世界中の注目を集め続け、寄付金と入場料を最大化するためのプロパガンダに近い。
【関連】オーバーツーリズムも限界!? 京都や東京・浅草周辺で“日本人離れ”が急激に加速
年間200億円超の観光客の財布に支えられた「脆い聖域」
なぜ、これほどまでに「2026年」という数字が独り歩きしたのか。そこには、サグラダ・ファミリア特有の「生々しい資金事情」が深く関わっている。
この聖堂は、カトリック教会や国からの公的資金を一切受け取っていない。「贖罪聖堂」という名の通り、すべては「信者の寄付」と「観光客の入場料」で賄われている。バルセロナの都市計画に詳しい専門家はこう分析する。
「2023年の入場料収入は約210億円(1億3390万ユーロ)と、過去最高を記録しました。しかし、パンデミックで観光客が途絶えた際、工事が9カ月間も完全停止した事実は、委員会のトラウマになっています。『未完』であることが最大の魅力だったこの場所が、今や観光マネーなしでは1ミリも進めない『巨大ビジネスモデル』に成り果ててしまったのです」
「2026年完成」という看板を掲げることで、コロナ禍で冷え込んだ関心を再び呼び戻し、資金流入の勢いを止めないようにする。その戦略は成功したと言えるが、それは純粋な信仰心による建築とは程遠い、経済的合理性に支配された姿とも言えるのである。
