
暑さと寒さはどちらが苦手でしょうか。
その理由は人それぞれですが、新しい研究によって、暑さのデメリットがもう一つ追加されました。
米国のコロンビア大学(Columbia University)の研究チームは、気温の上昇と「他人への暴力」や「自分への自傷」に関係する病院受診の増加が結びついていることを示しました。
この研究は、大規模な医療データを用い、暑さと暴力行動の関係を精密に分析したものです。
本研究の成果は2026年1月8日付の『Communications Sustainability』に掲載されました。
目次
- 暑さ指標の高まりは、「暴力」「自傷」と関連している
- なぜ暑いと自傷や暴力が増えるのか
暑さ指標の高まりは、「暴力」「自傷」と関連している
これまで、気温の上昇が熱中症や心臓・呼吸器疾患を増やすことはよく知られてきました。
一方で近年は、暑さが人の心理や行動にどのような影響を与えるのかにも注目が集まっています。
過去の研究では、暖かい時期に暴力による死亡や自殺が増える傾向が報告されてきましたが、多くは月単位や年単位での分析にとどまっていました。
そこで今回の研究では、気温が上がった直後に、暴力や自傷に関連する医療受診が本当に増えやすくなっているのかを、日単位で検証することが目的とされました。
研究チームが用いたのは、1999年から2012年までの14年間にわたる、米国の公的医療保険であるメディケイドの請求データです。
分析対象となったのは、対人暴力および自傷行為に関連して病院を受診した33万2293件でした。
気温については単なる最高気温ではなく、湿度を含めた人体への熱ストレスを表す暑さ指標湿球黒球温度(WBGT)」が用いられています。
さらに、同じ人物の中で「暑い日」と「そうでない日」を比較するケースクロスオーバー研究という手法が使われ、個人差の影響をできる限り取り除く工夫がなされました。
その結果、気温が上昇した日ほど、暴力に関連する病院受診が多くなる傾向があることが分かりました。
具体的には、気温が5℃上昇した場合、対人暴力に関する受診は約1.5%多くなり、自傷行為に関する受診は約3.7%多くなると推定されています。
特に影響が強く現れたのは、暑くなった当日から翌日あたりのタイミングでした。
では、この影響はどのような人や地域でより顕著だったのでしょうか。 より詳しい結果とその背景について次項で見てみましょう。
なぜ暑いと自傷や暴力が増えるのか
分析を詳しく見ると、気温上昇の影響はすべての人に同じように現れたわけではありませんでした。
統計的なばらつきはあるものの、若年層や、貧困率が高い地域、教育水準が低い地域、非白人住民の割合が高い地域では、影響が比較的大きい傾向が見られました。
ただし、グループ間の違いは決定的と言えるほど明確ではないことも、研究の中で注意されています。
これらの条件は、暑さへの対処手段が限られやすい社会的背景と重なっています。
では、なぜ暑さが暴力や自傷の増加につながるのでしょうか。
行動面では、暑い日は屋外で過ごす時間が増え、人と人が直接顔を合わせる機会が多くなります。
その結果、口論や衝突が起きやすくなり、暴力に発展する確率も高まると考えられます。
心理や生理の面では、強い暑さが苛立ちや怒りっぽさを高め、感情をコントロールする力を弱めることが知られています。
さらに、暑さによる睡眠の質や睡眠時間の低下は、翌日の判断力や忍耐力を低下させる要因になります。
冷房が十分に使えない住宅環境では、これらの影響がより深刻になりやすいと考えられます。
加えて、暑い時期に増えがちなアルコールや薬物の使用も、暴力や自傷のリスクを高める可能性があります。
この研究は、暑いから必ず暴力が起きると主張するものではありません。
示されているのは、社会全体として見たときに、暑さが暴力や自傷のリスクを統計的に押し上げる可能性があるという事実です。
今後は、死亡データとの統合や、より細かな社会環境を考慮した研究が進むことで、暑さと暴力・自傷の関係がさらに詳しく分かってくると考えられます。
気候変動への備えは、熱中症対策にとどまらず、メンタルヘルスや社会的安全まで含めて考える必要がありそうです。
参考文献
Interpersonal and Self-Inflicted Violence Linked to Temperature Spikes
https://www.publichealth.columbia.edu/news/interpersonal-self-inflicted-violence-linked-temperature-spikes
元論文
Higher temperatures are associated with increased interpersonal and self-inflicted violence-related Medicaid hospital visits in the United States
https://doi.org/10.1038/s44458-025-00001-x
ライター
矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。
編集者
ナゾロジー 編集部

