
戦場に響き渡る、不気味で荒々しい音。
その正体が、約2000年の時を超えて現代に姿を現しました。
イングランド東部ノーフォークで、戦場で使われたラッパが発見されたのです。
この楽器は、ローマ帝国に立ち向かった伝説の女王・ブーディカと関係している可能性があり、考古学界でも大きな注目を集めています。
目次
- 戦場の楽器「カルニクス」とは
- 女王ブーディカと反ローマ蜂起との接点
戦場の楽器「カルニクス」とは
【実際に発見されたラッパの画像がこちら】
今回発見されたのは、青銅製の戦場用ラッパ「カルニクス」と呼ばれる楽器です。
かつてのヨーロッパで、主にケルト系の戦士たちが用いていました。
カルニクスの最大の特徴は、その異様な形状です。
細長い管の先端には、イノシシなど口を大きく開けた動物の頭部が取り付けられており、戦士の頭上高く掲げて演奏されていました。
単なる合図用ではなく、敵を威圧し、恐怖を煽る心理戦の道具だったと考えられています。
今回の発見は、ノーフォーク西部で住宅開発に先立つ調査中に行われました。
カルニクスのほかにも、イノシシの頭をかたどった軍旗、盾の中央を飾る盾5点など、明らかに軍事目的と考えられる遺物がまとまって見つかりました。
このような一式がほぼ完全な形で見つかる例は極めて珍しく、イギリス国内ではカルニクス自体がわずか3例目、しかも世界で最も保存状態の良い個体とされています。
女王ブーディカと反ローマ蜂起との接点
【実際に発見されたラッパの画像がこちら】
注目すべきなのは、発見地点の場所です。
この地域は、紀元60年にローマ帝国へ大規模な反乱を起こしたイケニ族の勢力圏に含まれています。
イケニ族を率いたのが、女王ブーディカでした。
考古学者たちは、今回の遺物群が紀元1世紀に埋められた可能性が高いと見ています。年代と場所の両方が、ブーディカの反乱と重なるのです。
ただし、実際にブーディカやイケニ族自身が埋めたのかどうかは、現時点では断定できません。
遺物は非常に脆いため、土ごと一塊で回収され、X線やCTスキャンによる非破壊調査が行われました。
この作業には病院の設備も使われており、考古学としては異例の慎重さです。
古代の文献によれば、カルニクスの音は「戦の混乱にふさわしい、耳障りで荒々しい音」だったとされています。
ギリシアの歴史家ディオドロス・シクルスも、こうした楽器が敵を恐怖に陥れていた様子を書き残しています。
今回の発見は、単に珍しい楽器が見つかったという話ではありません。
当時のヨーロッパの人々が、どのように戦い、何を恐れ、どんな音に力を託していたのかを考える手がかりです。
保存処理と研究が進めば、カルニクスの構造や修理痕から、使われた期間や扱われ方も明らかになるかもしれません。
2000年前の戦場に響いた「音」が、今、歴史の空白を少しずつ埋めようとしています。
参考文献
Rare 2,000-year-old war trumpet, possibly linked to Celtic queen Boudica, discovered in England
https://www.livescience.com/archaeology/rare-2-000-year-old-war-trumpet-possibly-linked-to-celtic-queen-boudica-discovered-in-england
Internationally Significant Iron Age Hoard Discovered in Norfolk
https://www.pre-construct.com/news/internationally-significant-iron-age-hoard-discovered-in-norfolk/
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部

