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米価格の高騰を経験した子供は将来『低身長の肥満』になりやすい

米価格の高騰を経験した子供は将来『低身長の肥満』になりやすい

Credit:canva

私たちの生活は、気候変動、パンデミック、地域紛争といった世界的な出来事によって、常に予期せぬ影響を受けています。

特に近年は、これらの危機が複雑に重なり合い、食料の供給網が乱れ、食料価格が急騰するという問題が、世界中の家庭に重くのしかかっています。

最近の日本でも、主食である米価格の急騰が大きな問題となっていますが、食料品、特に主食の値段が上がると、日々の食卓から何を減らし、何を諦めるべきか、誰もが頭を悩ませます。

こうした経済危機に伴う食料価格の高騰は、特に成長期の子供たちの健康に大きな影響を与える可能性があります。

そこで、ドイツのボン大学(University of Bonn)開発研究センター(ZEF)の研究チームが、過去の大規模な経済危機を事例として、それが子供に与えた影響について分析を行いました。

彼らが着目したのは、1990年代後半に東南アジア諸国を襲った「アジア通貨危機」です。

当時、特にインドネシアでは通貨が急落し、主食であるコメの価格が地域によっては一時的に2倍以上に高騰するという事態が発生しました。

研究チームは、この危機によって幼少期に食料価格高騰の打撃を受けた子供たちが、成人後にどのような健康状態にあるかを約17年間にわたって追跡調査しました。

その結果、コメ価格の高騰という経済的ショックに晒された子供たちは、成人後も身長が伸びにくくなり、さらに大人になってから肥満リスクが有意に高まっていたのです。

またこの影響は家庭の貧困度よりも、住んでいる場所が都市部であることや、母親の学歴と関連が高かったという。

この研究の詳細は、2026年1月付けで科学雑誌『Global Food Security』に掲載されています。

目次

  • 経済危機の影響は短期で終わるのか?
  • 家庭の貧困状態よりも、都市部と母親の低学歴の影響が大きかった

経済危機の影響は短期で終わるのか?

過去に食料不足や飢饉といった深刻な食料危機が起きた際、子供の栄養状態が悪化し、短期間で年齢の割に身長が低い状態(専門用語:発育阻害/Stunting)が増加することはよく知られています。

しかし、金融危機のようなマクロ経済的なショックが、長期的にどのような影響を与えるかについては、まだ十分には解明されていませんでした。

ボン大学の研究チームは、1997年後半に始まり、インドネシアに大きな打撃を与えたアジア通貨危機に着目しました。

この危機によって、インドネシアの通貨は大幅に価値が下がり、米(コメ)の価格が1997年から2000年の間に地域により最大2倍近くまで高騰しました。

米はインドネシアの主要な主食であり、家計支出の大部分を占めています。

「この米価格の急激な上昇は、危機が去った後も、当時幼かった子供たちの健康に影響を与え続けているのだろうか?」

研究者たちの疑問は、この長期的な影響の有無にありました。

地域の米の価格差を利用した20年にわたる追跡調査

過去にも、アジア通貨危機が子供の栄養に与えた影響については、いくつかの研究が行われています。しかし、それらの先行研究では一貫した傾向は示されておらず、経済危機が子供の成長に長期的な悪影響を与えるという明確な確証は得られていませんでした。

ボン大学の研究チームは、以前の分析の主な問題点は、危機による食料価格の上昇が地域によって深刻度が異なっていたという重要な点を考慮していなかったためではないかと考えました。すべての地域やすべての子供が経済危機によって同程度の影響を受けたわけではないため、そのばらつきを無視すると、危機の影響を正確に捉えられない可能性があります。

そこで、今回の研究チームはインドネシア家族生活調査(IFLS/Indonesia Family Life Survey)のデータセットに着目しました。これは、インドネシアのさまざまな大学と協力してRAND研究所が実施した大規模な縦断的世帯調査で、1993年の初回調査から2014年まで、同じ世帯を長期間にわたって追跡し、個人や世帯の人口統計、健康、栄養状態が調査されていますが、今回の研究において重要なのは、それが地域ごとに詳細に分けて集計されていた点です。

特にこのデータには、米価格の上昇率が地域ごとに異なっていたという情報が含まれていました。

これによって経済危機の深刻度を分けて分析することが可能になったのです。

調査の対象となったのは、危機発生前の1997年時点で0歳から5歳だった約2,100人の子供たちです。

この時期の栄養不足は通常、発育阻害(低身長)やその他の発達障害につながる可能性が指摘されています。

彼らは、これらの子供たちをアジア通貨危機直後の2000年と、さらに成長して若き成人(17歳〜23歳)となった2014年の時点で追跡し、身体測定の結果を比較しました。

米価格が2倍になると「低身長」リスクが3.5%増加した

解析の結果、経済危機時に米価格の上昇率が高かった地域に住んでいた子供たちほど、栄養状況が悪化していたことが明確に示されました。

特に、慢性の栄養不良を示す最も一般的な指標である「年齢別身長Zスコア(HAZ/Height-for-Age Z-scores)」(その年齢の標準的な身長と比べて高いか低いかを示す指標)は、危機後に平均で0.135ポイント減少していました。

特に米の価格が100%(2倍)上昇した地域では、子供が低身長(発育阻害)になるリスクがそれ以外の地域より3.5%増加していました。

これらの結果は、米価格高騰と子供の成長不良に強い関連があることを示しています。

そしてさらに衝撃的だったのが、その影響が長期的に続くことが示されたことです。

成人しても残った「低身長」と「肥満」リスク

危機時に幼少期を過ごした子供たちを2014年に追跡したところ、彼らは成人しても、危機の影響をそれほど受けなかった子供たちと比較して、平均で0.65cm身長が低いという関連性が確認されました。

これは、幼少期に受けた栄養の剥奪によって、本来到達し得るはずだった身長の可能性が奪われてしまったことを示唆しています。

さらに興味深いのは、成人期の「肥満」リスクです。

危機時に3歳から5歳だった子供たちのグループでは、成人後の体格指数(BMI/Body Mass Index)が高くなり、肥満になる傾向が有意に高まっていました

ここで疑問が湧きます。

危機による栄養不足は「低身長」につながったはずなのに、なぜ成長した後に「肥満」になるリスクが高まってしまったのでしょうか? これは一見、矛盾しているように見えます。

そしてさらに興味深いのが、この影響を受けた子供は、貧困家庭だけではなかったという点です。米価格上昇の影響を受けたのが、貧困家庭ではないというのはどういうことなのでしょうか?

家庭の貧困状態よりも、都市部と母親の低学歴の影響が大きかった

「低身長なのに肥満」の謎:危機が変える家庭の食料戦略

この「低身長と成人後の肥満リスクの同時増加」という現象こそが、今回の研究の核心であり、経済危機の複雑さを示しています。

研究チームは、この現象の背景には、経済危機下での「家庭の食料選択の変化」があると考察しています。

家計が苦しくなると、各家庭は食料の支出を見直す必要に迫られます。

しかし、米はインドネシアの主要な主食です。そのため、米の価格が上がっても、米の消費量自体を大きく減らすのは難しく、多くの家庭では米価格上昇分の支出増加を、他の栄養価の高い食品の買い控えで補った可能性が高いのです。

その際、多くの家庭は肉、魚、野菜、果物といったタンパク質やビタミン、ミネラルなどの重要な微量栄養素を多く含む食品の購入を減らし、安価でカロリーの高い食品(カップラーメンやハンバーガーなど)に頼る傾向が出てきたと考えられます。

その結果、子供たちは、生きるために必要なカロリーは十分足りているにも関わらず、成長に不可欠な微量栄養素が不足する、「新型栄養失調」のような状態(隠れた欠乏状態)が引き起こされたと考えられます

この栄養不足が、身長の伸び(線形成長)を妨げ、最終的な身長を低く抑えてしまいます。

しかし、カロリー摂取自体は維持されるか、または安価なカロリー源で補われるため、体重が増えやすい体質、つまり将来的に肥満になりやすい体質になってしまうと考えられるのです。

危機の影響が特に厳しかったのは、都市部と母親が低学歴の家庭

次に、危機の影響を最も強く受けたのは誰だったのかを見ていきましょう。

分析の結果、危機の影響は全ての層に均一に出ていたわけではありませんでした。

① 都市部の子供たち:

米価格高騰による成長の遅れは、農村部の子供たちよりも都市部の子供たちでより顕著でした。

これは、農村部の家庭が米を自家生産することで価格高騰の影響からある程度守られていたのに対し、都市部の家庭は食料のほとんどをスーパーで購入することに依存していたため、価格変動の打撃を直接的に強く受けたためだと考えられます。

② 低学歴の母親を持つ子供たち:

母親の教育水準が低い子供たちも、より大きな悪影響を受けていました。

これは教育水準の高い母親は、危機的状況下でも、家計の計算や、栄養に関する知識をきちんと集めて献立を考え、子供の最低限の食事の質を維持できた可能性が示唆されます。

都市部の中間層こそが危ない

また、この研究は「誰が一番割を食ったのか」という点についても、私たちの直感とは異なる、しかし納得せざるを得ない事実を提示しています。

一般的に、経済危機で最も苦しむのは農村部の貧困層だと思われがちです。しかしデータが示したのは、農村部よりも「都市部」の子供たちの方が、身長への悪影響を強く受けていたという事実でした

農村部では、自分の畑で米や野菜を作ったり、農家の知り合いから融通してもらうことがある程度可能です。しかし、食料のすべてをスーパーでの購入に頼っている都市部の家庭は、価格高騰の波をまともに被ることになります

さらに注目すべきは、「貧困層ではない家庭(非貧困層)」の子供たちもまた、深刻なダメージを受けていたという点です

通常、政府の支援策は最貧困層をターゲットに行われます。その結果、支援の網から漏れてしまった中間層の家庭が、誰にも助けられないままインフレに飲み込まれ、子供の食卓の質を落とさざるを得なかった可能性があるのです

これは、「働いているけれど生活が苦しい」と感じている現代日本の多くの子育て世帯にとって、決して他人事ではない話でしょう。

カロリー確保だけでなく「栄養の質」を守ることが大切

今回の研究は、子供が幼い時期に栄養の剥奪を受けると、その影響が長期的な健康リスク(低身長や成人期の肥満)として残り、後の人生にまで影響を与える可能性を示しています。

特に、胎児期・新生児期や、3歳から5歳といった特定の発育期に、経済危機の影響を受けた子供たちは長期的な悪影響が強く出ていました。

世界中で経済的、環境的、政治的なショックが増加している現在、ボン大学の研究チームは、「カロリー量」の確保だけにとらわれず、「栄養の質」に配慮した介入策(nutrition-sensitive interventions)を、危機対応の政策に組み込むことの緊急性を強調しています。

子供たちの最も敏感な成長期に、適切な栄養を確実に保護すること。それが、将来の世代の健康と、社会全体の持続可能性を守るための鍵となるのです。

参考文献

Expensive food makes children fat
https://www.uni-bonn.de/en/news/001-2026

元論文

Macroeconomic shocks and long-term nutritional outcomes: Insights from the Asian financial crisis
https://doi.org/10.1016/j.gfs.2025.100900

ライター

相川 葵: 工学出身のライター。歴史やSF作品と絡めた科学の話が好き。イメージしやすい科学の解説をしていくことを目指す。

編集者

ナゾロジー 編集部

配信元: ナゾロジー

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