六代目山口組と対峙する勢力の動向はどうなるのか。山之内氏はこう語る。
「神戸山口組の井上組長がみずから兜を脱ぐことは当面考えにくい。絆會組員射殺事件の実行犯として逃亡中の菱川辰己組員を見捨てて、組を解散するわけにはいきませんから」
ただし、25年10月に起きた逮捕劇が、井上組長の動向にも影響を与えかねない、とも指摘する。
「07年に井上組長が当代だった四代目山健組傘下組織総長が刺殺された事件で、ヒットマンとして同じく山健組傘下の一勢会・勢昇元会長が組織犯罪処罰法違反(組織的殺人)で逮捕、起訴された一件です。当局は民間人も含め4人を逮捕したことからも、犯人隠避の協力者や資金の出どころを洗い出すのが狙いのはず。すでに指示役として山健組・山本國春元若頭(14年死去)が実刑判決を受けていますが、仮に18年もの間、逃亡資金を提供した責任が組織のトップに及んだ場合、井上組長も安泰とは言えないでしょう」(山之内氏)
分裂以前の事件が今になって降りかかる事態があるかもしれないのだ。絆會や池田組など、他の敵対勢力はどうか。西日本の独立団体幹部によると、
「六代目側が手ぇ出さへんから言うて、じゃあ次はこっちから攻撃しよか、とならへんのは明らかや。抗争終了を認めるわけにもいかず、自分たちから動くわけにもいかん。結局これまで通り、沈黙を続けることになるやろうな」
その沈黙には心理的作用も影響しているだろう、と指摘するのは鈴木氏だ。「個人的な見解」としながら、こう続ける。
「神戸山口組にとって分裂抗争最大の目的は、自身の存在を認めさせることです。六代目山口組は『神戸』側を潰せず抗争を終えたのだから、『神戸』は『ケンカに負けたが勝負に勝った』と強弁できなくもない。何だかんだで潰されなかった、というのは心理的には優位に立っているとも言える。井上組長や池田組長は堂々と沈黙して、これから仇敵の髙山相談役と『長生き比べ』だと考えているはずです」
また、六代目山口組にはもうひとつ、26年以降の懸念材料がある。それは分裂抗争の「負の遺産」とも言うべき法廷闘争だ。今は六代目山口組の執行部の一員でもある、中田浩司若頭補佐(五代目山健組組長)に無罪判決が出た、19年の弘道会組員銃撃事件の控訴審だ。山之内氏による展望をうかがおう。
「一審で中田若頭補佐を犯人と特定するには不十分だとされた防犯カメラ映像が、間接的な証拠として見直されるかどうかが最大の焦点になります。検察側は当然、映像の人物が中田若頭補佐と推認できるとして、証拠の見直しを求めて『控訴事由』を出すわけですが、弁護側が答弁書でそれに対して徹底的に反はん駁ばくしておかないと、『事実審理が尽くされていない』として一審に差し戻される可能性がかなり高いと思います」
山之内氏は同様の例として、拳銃所持の共謀共同正犯として逮捕・起訴され、一審、二審で無罪判決を受けるもその後何度も高裁、最高裁から差し戻しを受けた、六代目山口組で要職を歴任した滝沢孝元顧問(芳菱会総長、18年死去)のケースを挙げる。滝沢元顧問と同容疑で逮捕された司組長や、前出の山本國春元幹部の裁判でも、
「一審無罪の判決を破棄され、高裁でいきなり有罪判決を下されたこともありました」(山之内氏)
ヤクザが被告の場合、証拠よりも「社会正義」を求める世論が、有罪判決を後押しする傾向が顕著だというのだ。ただし、弁護士として多くのヒットマン裁判と向き合ってきた経験からこうも語る。
「『全部カメラに映像が残っとるぞ。往生せいや』と取り調べで迫られたら、実行犯なら黙秘を貫けるものではありません。中田若頭補佐が実行犯でないと私が考えるのはそのため。ただ、よほど腹を据えてかからないと厳しい公判になることは容易に想像できます」(山之内氏)

