「ほんとうの京都 古都をめぐる知られざる58の視点」
SB新書・1100円
京都は世界的観光地だ。しかし最近は“映え”を求める時代になって様変わりしてしまった─。生粋の京都人で、京都に纏わるエッセイを数多く書いてきた作家の柏井壽氏が、本書で「本当の京都」の楽しみ方を教えてくれた。
「京都は今、インバウンドであふれていた中国人観光客が激減し、ホテルも取りやすくなりました。落ち着いて観光もできるので、この冬の京都は狙い目です」
本書では京都の寺社や歴史ゆかりの地、自然、京言葉、京の味などを独自の視点で紹介している。
「京都の人々によって育まれた京都とはどういうものかを伝えたくて、この本を書きました。日本中を歩き回りましたが、この街がすごいと思うのは、70年も住んでいるのに何気なく通りかかったところは、牛若丸が生まれた場所だったなど、常に新しい発見があることです」
そんな京都も“映え”を求める時代になってすっかり変わってしまった、と指摘する。
「コロナ禍で2年間、観光客の姿が途絶えたことで、廃業する飲食店もありました。そこに東京や外国資本などが入ってきて、何年先まで予約が取れなかったり、大行列ができる店が増えました。京都風を装っていますが、これは本物の京都ではありません。老舗であっても、店の主人はお客さんが第一。お客さんが店を育ててくれることで長い歴史を築いてきました。店主が主人公になって自分の都合で料理を作り、店がお客さんを選ぶということはありえないことでした」
京都らしからぬ傾向は寺社にも及んでいる。
「夏に行われる下鴨神社の『御手洗祭』は冷たい池の水に足をつけ、残り半年の無事を願う神事で地元の参拝客がほとんどでしたが、最近は行列ができてイベント化しています。この神事は御灯明料として500円納めます。近年ではこれまで行っていなかった神社も同じような神事を有料でやって人を集めています」
生粋の京都人である柏井氏にオススメのスポットを教えてもらうと─。
「1月は恵美須神社の初ゑびすのお祭り(1月8日から5日間)、2月は吉田神社や壬生寺の節分祭に行くと京都らしい行事が楽しめます。冬は椿の花がキレイなので、銀閣寺の椿の生垣や、椿寺と呼ばれる地蔵院も素晴らしい」
観光のあとは京都グルメも堪能したい。柏井氏が提案するのがランチとディナーの間の空いている時間に楽しむ「黄昏酒」だ。
「僕は店が空いている夕方4時くらいから飲むことを『黄昏酒』と名付けて推奨しています。この時間だと多少の行列も解消でき、ゆっくり楽しめます。最近は3時くらいから夜の営業を始める店も増えてきました」
本書では烏丸線北大路駅近くの手毬寿しの店「花梓侘」を初紹介。ミシュランガイドのビブグルマンを獲得したこの店は、創業40年の柏井氏の妻と娘が営む店だという。この本を片手に冬の京都を楽しみたい。
〈春燈社 小西眞由美〉
柏井壽(かしわい・ひさし)作家・歯科医。1952年京都府生まれ。大阪歯科大学卒。京都で歯科医院を開業する傍ら、京都の魅力を伝えるエッセイや、日本各地の旅行記、小説などを執筆。テレビ・雑誌で京都特集の監修を務めるなど「京都のカリスマ案内人」とも称されている。「極みの京都」など著書多数。

