世界中でヒットした映画『F1』は、テクノロジーを徹底的に活用し、観客をこれまで以上にフォーミュラ1の世界へと引き込んだことが特筆に値する。Apple TVが公開した最新の映像では、こうした技術的な舞台裏が詳しく紹介されている。
「F1の歴史には、物語が数多く存在する。どこからともなく現れたチームが、革新を生み出したり、奇跡のような勝利を成し遂げたりする。これは、今回の映画制作プロセスとも重なる部分がある」
そう語るのは、監督のジョセフ・コシンスキー。制作チームは前例のない試みとして、映画の大部分を実際のグランプリウィークエンドが開催されているサーキットで撮影した。これにはレースウィーク特有の苦労がいくつもあったようだ。
音響監督のギャレス・ジョンは、次のように説明する。
「この仕事は本当に唯一無二だ」
「F1サーキットの現地という、非常に過酷な環境でセリフを録音することになるとは思ってもみなかった。周囲には絶え間ない騒音があり、マシンや他の撮影クルーから発せられる無線も飛び交っている」
そのため、撮影クルーはモータースポーツ仕様の伝送機材を採用したという。
「シーメンスのRF(無線通信)機器や、コブハムの映像トランスミッターを使って、マシンの音を私のところまで送っている」
「電気、小道具、衣装といったあらゆる部門のスタッフが、このプロジェクトでの音声収録を実現するために協力してくれた」
音声収録だけでも大きな挑戦だったが、主演俳優のブラッド・ピットとダムソン・イドリスが実際に運転するF1を模したマシンで撮影するという点は、さらに新たな壁を生み出した。
「この作品では、ほとんど収納スペースのないマシンに録音ユニットを設置しなければならなかった。文字通り、そこはドライバーが座るだけで精一杯なんだ」とコシンスキー。プロデューサーのジェリー・ブラッカイマーも「1台のクルマに16種類ものカメラアングルを搭載している。リモート操作で回転・可動できるカメラを使ったのは初めてだ」と付け加えた。
これらのカメラは、4K映像を撮影すると同時に、サーキット各所に設置された受信拠点へデータを無線で送信する必要があった。そのため制作チームは、特注ハードウェアだけでなく、すべてを同期させて動かすための独自ソフトウェアまで開発。複数のサーキットで、レーススピードという過酷な環境に耐えられるシステムを構築した。
「我々はソフトウェアを開発し、カメラやレンズコントロールと通信できるようにした。車載の無線機器は、ほぼすべてこのマシンのために自分たちで設計・製作したものだ」
映画界の数々の賞にノミネートされた本作。この“エンジニア主導”とも言える制作スタイルは業界から高く評価されており、それに伴いF1自体にも注目が集まっている。

