
監督自ら野菜や肉をカット。“利他の精神”が選手たちに伝播。誰かのために行動できるマインドで神村学園が日本一に輝く【選手権】
[選手権・決勝]神村学園(鹿児島)3-0 鹿島学園(茨城)/1月12日/MUFGスタジアム(国立競技場)
「監督という立ち位置にいますが、自分が前に出たいとは思いません。出たいスタッフがいるなら、取材を受けてくれてもいい。できるだけメディアにも出ず、誰が監督をやっているの? と思われるぐらいが一番良い」。以前、神村学園の有村圭一郎監督が発した言葉が印象に残っている。
選手が主役のチームを作り、スタッフがやり甲斐を感じられるチームマネジメントを行なうのが自らの役割だと考えているため、積極的に前に出ようとしない。監督に就任した当初は今のように顔が知られておらず、監督の定位置であるベンチの端に座っていなかったため、テレビ中継でコーチが監督として紹介されたという笑い話もあるほどだ。
そうした心構えは現役時代から変わらない。鹿児島実業高時代はFW平瀬智行、MF久永辰徳といったチームメイトとともに選手権優勝を経験しているが、「高校時代はポジションを任されたからには自分がやるしかないと思っていた。足が折れようが、やってやろうって。その結果、自分が試合に出られなくなってもチームが一番上にいれば良い。そんな心持ちでした」。卒業後に進んだ福岡教育大でもスタンスは変わらない。初めて試合に出たチームメイトがいれば、シュートを打てる場面でもアシストを選択していたという。
指導者になってから、そうした思考はより強くなっているように感じる。「指導者は利己ではなく利他の精神でなければいけない。自分の私利私欲の方が先に出てしまうといろいろと不具合が出てくる。人のためにやれるかどうかが大事で、子どものため、選手のため、学校のために動けるか。広く言えば鹿児島のため、日本のため。そうした姿勢が見え、時間を削ってサッカーと向き合っていれば、文句を言う人はいないと思う」。
有村監督の“利他の精神”が感じられる一例は寮の食事だ。昨年からフィジカル強化の一環として食事トレーニングを行なうため、学校が提供する夕食に加え、おかずを一品増やすことになった。
業者に頼んで食事を提供してもらうことも可能だが、選手や父兄の金銭的な負担が増える。なるべく選手に安く美味しい食事を摂ってもらうため、有村監督自ら野菜や豚肉や鶏肉といった食材を用意し、鍋など選手が調理しやすい状態にカットしている。
作業を手伝ってくれている人には謝礼を払っているが、有村監督自身は一銭もお金を受け取っていない。「ただ純粋にご飯をたくさん食べて身体を大きくしてもらいたいだけ。それを手伝えるのは誰かを考えた時に、僕だと思ったからやっているだけ」。
初優勝で終わった今回の選手権は、指揮官が大事にしてきたそうした利他の精神が、選手たちに伝播していった結果だろう。ボールを大事にしながら積極的にゴールを目ざす攻撃的なチームだが、今年のチームでそれ以上に目をひいたのは守備意識の高さ。
2回戦からの5試合で失点はわずか2つ。ボールを失ったら5秒間は全力で守備をするのがチームとしての決め事で、瞬時に失ったボールを奪い返せていたから、自陣に持ち込まれる場面を最小限に抑えることができていた。
ただ、初めからそうしたプレーができる選手が揃っていたわけではない。春先の勝てない時期は有村監督に「チームのために戦う選手が少ない」と指摘されることも多かった。当時について主将のDF中野陽斗(3年)はこう振り返る。「“自分が、自分が”となって自分のプレーが優先になっていて、チームのために戦うことが一番先にきていなかった」。
守備の練習は他のチームと比べても少ない。「守備をしなさいと強制してきたわけではない。勝ちたいなら守備もしなければいけない。それでもしないと言うなら、それも子どもたちのスタイルかなと思っていた」と口にするように、有村監督も勝つために守備について口酸っぱく指摘するタイプの指導者ではない。
ただ、時間が経つにつれ、選手の意識が“利己”から“利他”に変化していった。
「戻りの速さ、守備の切り替えの部分が成長している部分。誰かが奪われても、周りにいる違う選手が奪い返す。そうした姿を見ていると、チームのためにプレーしていると思うし、攻撃に関しても自分が目立つのではなく、周りを使って仲間が目立つことを優先にしている選手がいる。攻撃でも守備でも、チームのためにプレーできる選手が春よりも増えている」(中野)。
まず自分ではなく、仲間のためを思い行動に移すことができるマインドはそう簡単に身に付くものではない。選手権優勝という目標を達成するために、選手たち自身が必要だと感じ、身に付けていった“利他の精神”は日本一の称号以上に価値のあるものだ。
取材・文●森田将義
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