今季最初のテニス四大大会である全豪オープンの予選が、真夏のメルボルンで1月12日に開幕した。初日に、男子日本勢では西岡良仁(世界ランキング114位)と坂本怜(同202位)が登場。両選手ともにそれぞれの持ち味を充分に発揮し、ストレートの快勝で2回戦へと駒を進めた。
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11年ぶりに参戦する全豪オープンの予選は、自己最高世界24位の西岡にとって、どこか慣れない空間だった。
「昨日、試合の準備をしている時に、着替え用のシャツを5枚用意していたんですよ。5セットマッチのつもりでいたんですが、『そういえば予選って3セットマッチだった、こんなにいらないや』って思って」
試合後に西岡が、恥ずかしそうに打ち明ける。四大大会の会場に来たら、5セットマッチモードに自然と身体も心も切り替わる。それは本戦を主戦場とするテニスプレーヤーの習性であり、 170cmの小柄な身体で長くトップを張ってきた者の矜持でもあるだろう。
昨季は西岡にとって、葛藤と苦闘の11カ月だった。昨今押し寄せるパワーテニスに対抗するため、自らも攻撃テニスを標榜し、グリップや打ち方も試行錯誤した。結果、確実に攻撃力は上がった。ただ代償として、身体のいたるところに痛みが出始める。シーズン後半は、プレーは悪くないものの、勝負どころでポイントを取り切れず黒星が続いた。 9月下旬の時点でランキングは173位に。
「テニスは悪くないのに勝てない。正直、どうしたらいいのかわからない」
理論派で言語化能力の高い彼には珍しく、そんな困惑の言葉すら漏らしていた。
転機は、その直後に訪れる。予選から出場した「ロレックス上海マスターズ」(ATP1000)で久々に勝利を手にすると、勝ち方を思い出したかのように白紙を連ね始めた。 ATPチャレンジャーでは、3大会に出場して2度優勝。
「チャレンジャーレベルなら、やはり自分は勝てることが確認できた」
自信と手応えを携えて、昨季を終えることができた。
年が明け、久々に挑んだ全豪オープン予選でも西岡は、その思いが確固たる事実であることを証明する。対戦相手のネルマン・ファティッチ(ボスニア・ヘルツェゴビナ)のランキングは223位。初対戦のベテラン相手に最初のゲームこそブレークを許すが、このゲームで相手を分析できたとばかりに、以降は試合を支配した。相手がポジションを上げカウンターを狙えば、深いボールで差し込ませる。相手がポジションを下げ始めたら、浅いボールも織り交ぜコートを広く活用した。
「試合途中からは、無理に打たなくても勝てると思った、自分のテニスをやりたいというよりも、勝つための最短ルートを選んだ」
本戦出場までの3試合を見据え、体力を温存してなお6-1、6-2のスコアの快勝だった。 今大会ではこの西岡以外にも、錦織圭も久々に四大大会の予選に参戦。そのような珍しい状況もあってだろうか、数日前には日本人の予選参戦選手たちで食事に行ったという。話題はテニスのことから世間話と多岐にわたる。
「なぜレイは坊主頭になったのか」
そんな話題でも盛り上がったという。
その話題の「レイ」とは、19歳の坂本怜。2年前にはここ全豪オープンのジュニア部門で優勝した、日本テニス界期待の新鋭だ。
坂本が予選の初戦で対戦したのは、イギリスのダニエル・エバンス(187位)。現在35歳、2年前には世界ランキング21位に達した実力者にして経験豊富なベテランだ。
経験豊富な選手ということは、他者が知り得る情報が多いことでもある。坂本自身はエバンスの試合をあまり見たことがなかったが、彼のコーチは多くの情報を持っていた。
エバンスはバックハンドのスライスを多用する、トリッキーな選手でもある。そして坂本が、プレー以上に警戒すべきだとコーチに言われたのが、エバンスの「しゃべり」という、いわば盤外戦術。現にこの試合でも、坂本がサービス間に時間を空けると、「遅くないか」の声を飛ばして来たという。曲者エバンスらしい、心理戦。だが備えのあった坂本には、効果がない。自分の間で、時速200キロ超えの高速サービスを、正確に決めてゆく。ファーストサービスの確率は、79%のハイアベレージ。
坂本は試合後、「相手の調子が良くなかった」とやや首をひねったが、坂本の安定感が相手を崩した側面もあるだろう。スコアは6-1、6-2。「10点満点中11点」と自己採点する、会心の勝利だった。
なお、坂本が髪をばっさりと切り落とした理由は、とある選手と「昨シーズン終了時点でランキングが低かった方が坊主頭にする」という勝負をしており、自分が負けたからだと打ち明ける。
「せっかく伸ばしていたのに……」と本人は口惜しそうではあるが、思えば2年前に全豪オープンジュニアを制した時も、今と同じく坊主頭。良き既視感と重なる出で立ちで、初の四大大会本戦を目指す。
現地取材・文●内田暁
【動画】西岡と坂本が好スタート!「全豪オープン」予選1回戦ハイライト
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