
もし現代の海に、バスほどの長さをもつウミヘビが泳いでいたらどうでしょうか。
しかも、その獲物がサメだったかもしれないとしたら、想像するだけで背筋が凍ります。
実は、はるか太古の海には、そうした存在が現実にいた可能性が指摘されています。
その名は「パレオフィス・コロッサエウス」。
始新世前期の海を支配していたと考えられる史上最大級のウミヘビです。
目次
- スクールバス級の体をもつ太古のウミヘビ
- 本当にサメを飲み込めたのか
スクールバス級の体をもつ太古のウミヘビ
パレオフィス・コロッサエウスが生きていたのは、約5600万〜3400万年前の始新世です。
この時代は、哺乳類や鳥類、海洋生物が急速に多様化していった時期でもあります。
その中で、このウミヘビは異様なまでの巨大さを誇っていました。
発見されている化石は主に椎骨ですが、その大きさは現生するどのヘビとも比較にならないほどです。
研究者による推定では、全長は約8.1〜12.3メートルに達した可能性があります。
短めの推定でも大型バスに匹敵し、最大級の個体であれば、もはや小型のクジラと同じスケールです。
この巨大なウミヘビが生息していたと考えられているのは、古代のテチス海周辺です。
現在のサハラ砂漠一帯は、当時、温暖で浅い海に覆われていました。
地球全体の気温が高く、海面も現在より高かった始新世は、巨大な海生爬虫類が繁栄する条件がそろっていたのです。
本当にサメを飲み込めたのか
では、このウミヘビは本当に「サメを食べられる存在」だったのでしょうか。
直接的な証拠はありませんが、いくつかの状況証拠がこの可能性を示唆しています。
まず注目されるのが、その圧倒的な体サイズです。
現代の生態系でも、大型捕食者は自分よりやや小さい高栄養の獲物を狙います。
始新世の海には、現在よりも小型だった初期のサメや、ワニに似たディロサウルス類などが生息していました。
これらは、巨大なウミヘビにとって捕食対象になり得る存在でした。
また、研究者は頭骨の構造にも注目しています。
パレオフィス・コロッサエウス自身の頭骨は見つかっていませんが、近縁種の中には、顎の可動域が広い「運動性の高い頭骨」をもつものがいます。
もしこの巨大種も同様の特徴を備えていたなら、非常に大きな獲物を丸呑みできた可能性があります。
その場合、サメのような大型魚類が食卓に上っていても不思議ではありません。
もっとも、この種は椎骨が幅広く、完全に流線型とは言いにくい体形だったことも分かっています。
そのため、現代のウミヘビのように素早く泳ぐというより、待ち伏せ型の捕食者だった可能性も考えられます。
巨大な体で獲物に近づき、一気に飲み込む戦略をとっていたのかもしれません。
化石が語る「海の頂点捕食者」のロマン
パレオフィス・コロッサエウスは、史上最大のヘビとして知られる陸生のティタノボアと並び、ヘビという生き物が到達し得た極限を示す存在です。
サメを本当に捕食していたかどうかは断定できませんが、その可能性が真剣に議論されるほどのサイズと存在感をもっていたことは確かです。
私たちが目にしているのは、巨大な生物が跋扈していた太古の世界の、ほんの断片にすぎません。
わずかな椎骨の化石から、かつて海の頂点に君臨していたかもしれないウミヘビの姿を思い描くこと自体が、古生物学の醍醐味と言えるでしょう。
参考文献
The World’s Largest Ever Sea Snake Was Over 12 Meters Long And Might Have Eaten Sharks
https://www.iflscience.com/the-worlds-largest-ever-sea-snake-was-over-12-meters-long-and-might-have-eaten-sharks-82187
Meet Palaeophis Colossaeus, the Largest Sea Snake of All Time
https://animals.howstuffworks.com/extinct-animals/palaeophis-colossaeus.htm
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部

