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地球でいちばん「詰んだ魚」、DNAの変異速度まで限界仕様だった

地球でいちばん「詰んだ魚」、DNAの変異速度まで限界仕様だった

地球でいちばん「詰んだ魚」、DNAの変異速度まで限界仕様だった
地球でいちばん「詰んだ魚」、DNAの変異速度まで限界仕様だった / Credit:Canva

アメリカのカリフォルニア大学バークレー校(UCB)で行われた研究によって、ネバダ砂漠の岩の割れ目に開いた小さな水たまりだけに棲む絶滅危惧魚デビルズホール・ププフィッシュが、見た目のかわいさに反して“遺伝的にはほぼ詰んでいる”ことが改めて数字で示されました。

世界でもトップクラスに生息域が狭く、個体数は多くて数百匹、少ない年には30匹台まで落ちたこともあるこの魚は、ゲノム(全遺伝情報)の約6割がほぼコピペ状態という極端な近親交配集団で、そのうえDNAの「コピーミス」(突然変異)の起こる速さが普通の魚より約3〜4割も速いペースで進んでいたことがわかったのです。

変異を起こしているものの中には、DNA修復にかかわるとみられる遺伝子の変化も含まれています。

生息環境、遺伝的多様性、DNA修復能力、個体数、あらゆる部分で詰んでいるというわけです。

それでも不思議なことに、この魚は完全には絶滅していません。

なぜこんなに“ボロボロの設計図”を抱えたまま、集団として存続できているのでしょうか?

研究内容の詳細は2026年1月11日に『bioRxiv』にて発表されました。

目次

  • 砂漠の小さな水たまりで始まる「地獄モード」生活
  • 世界で一番「詰んだ魚」の意外なしぶとさ
  • 「アウトな遺伝子を足切りしながら」続く進化の綱渡り

砂漠の小さな水たまりで始まる「地獄モード」生活

砂漠の小さな水たまりで始まる“地獄モード”生活
砂漠の小さな水たまりで始まる“地獄モード”生活 / Photo: Olin Feuerbacher / USFWS

「この状況、どこかで見たことある」と感じる人もいるかもしれません。

ゲームで、なぜか最初から難易度が地獄モードに固定されているキャラ。

そもそも最初の街から行ける場所がなく、レベルアップもほぼ不可能。

デビルズホール・ププフィッシュの暮らしぶりは、まさにそれに近いものがあります。

住んでいるのは、砂漠の岩の割れ目の下にある小さな水たまりだけ。

暗い水底では、オスの青い体色が小さな宝石のようにきらめいて見えることもあります。

水温は一年中32度前後、酸素は薄く、エサとなる藻もほかの泉に比べてずっと少ないと見積もられています。

コラム:32℃は普通の魚にとって地獄

魚にとっての32℃という水温はどれくらい「熱い」のでしょうか。多くの淡水魚や温帯の魚は、10〜20℃くらいの比較的冷たい水を好み、30℃を超えると長時間の生存が難しくなる種も少なくありません。温帯の淡水魚では、上限に近い「もうこれ以上上がると危ない」温度がだいたい30〜32℃あたりにあることが多いとされます。熱帯のサンゴ礁の魚などはもっと暖かい海で暮らしていて、ふだん24〜30℃くらいの範囲で生活していますが、それでも31〜32度を超えるような高水温が続くと、動きが鈍くなったり、食欲や体のパフォーマンスが落ちてくるという研究が増えています。

しかし環境以上に極限なのが、この魚たちの「数」です。

デビルズホール・ププフィッシュは数十匹程度しかおらず、これまでの調査でも個体数は数百匹から上下をくり返し、2007年春には38匹、2013年春には35匹、近年では春の調査で約190匹まで回復した年もある一方で、2025年春には38匹まで落ち込んだこともあります。

しかも一度の産卵で産まれる卵は1個程度と考えられていて、そもそも“ハイリスク・ローリターン”な繁殖スタイルです。

当然ながら近親交配(血縁同士の交配)が避けられず、ゲノム(全遺伝情報)の約6割がほとんどコピー&ペースト状態と言われるほど遺伝的多様性が失われているのです。

これは4〜5世代連続で兄弟同士をかけ合わせたようなレベルの近親交配に相当するとされています。

さらに少なくとも15個の遺伝子が完全に失われ、そのうちいくつかは絶対に必要に思える「低酸素環境への適応に関わる遺伝子」だと報告されています。

それでも、この魚は半世紀以上、数十〜数百匹という“人口”で生き延びてきました。

彼らがいつからこの穴に閉じ込められているのかについては、数百年前という説もあれば、数千年スケールだという説、さらには6万年に達するという報告もあり、はっきりしていません。

ただ博物館に保存されていた1980年の標本からDNAを調べた研究では、その頃からすでに高い近親交配と遺伝子の劣化が進んでいたことも示されています。

そこで今回、研究チームはこの魚のDNAにどれくらい“コピーミス”が発生しているのかを直接測定し、小さすぎる集団に進化の限界が訪れていないか確かめることにしました。

本当にそんな「突然変異だらけ」の状態が現実に起きているのでしょうか?

そして、それでも魚が意外と絶滅せずにいられるのはなぜなのでしょうか?

世界で一番「詰んだ魚」の意外なしぶとさ

世界で一番「詰んだ魚」の意外なしぶとさ
世界で一番「詰んだ魚」の意外なしぶとさ / Photo: Ken Lund / CC BY-SA 2.0

研究チームはデビルズホール・ププフィッシュ約60匹(野生個体と保護下個体、さらに発生中に死亡した胚)からDNAサンプルを集め、最新のゲノム解析によって新たに生じた突然変異(親には無かったゲノム上の変化)を検出しました。

この魚は近親交配の結果、ゲノムの大部分が個体間でほぼコピー&ペースト状態になっているため、新しい変異が「ゲノムの中のぽつんと違う部分」として浮かび上がるのです。

言い換えれば、真っ白な紙に突然現れたインクの染みを探すように、ゲノム中の微細な違いからごく最近起こったDNAのミスを割り出せるわけです。

この手法により、通常なら膨大な家系図を追わないと推定が難しい世代あたりの突然変異率を、小さな絶滅危惧種であっても精度よく求めることに成功しました。

結果、デビルズホール・ププフィッシュのゲノム突然変異率は、一般的な硬骨魚類の平均値の約1.4倍(140%)の速度で変異が積み重なっている可能性が示されました。

(※デビルズホール・ププフィッシュのゲノム突然変異率1世代あたり塩基対あたり約8.1×10^-9(0.0000000081)と推定され、これは一般的な硬骨魚類の平均値約5.97×10^-9の約1.4倍です)

さらに興味深いことに、発生の途中で死亡した胚のDNAを調べると、成魚として生存できた個体群よりもさらに高い変異率を示しました。

胚で推定された突然変異率は1世代あたり約1.77×10^-8にも達し、成魚の値の約2倍近くに上りました。

一方で、突然変異の「中身」も調べられています。

すると、特定の種類の変異だけが暴走しているわけではないようでした。

ただし、DNA修復の不調を反映しやすいシグネチャがやや強く出ており、DNA修復に関わるRAD23Aという遺伝子に部分的な欠失があることも見つかっています。

この結果は何を意味しているのでしょうか。

まず第一に、デビルズホール・ププフィッシュという極小集団が遺伝子のエラー蓄積を減らす方向には進化しにくい状況にある可能性が示唆されたと言えます。

集団の小ささゆえに「突然変異率を下げる進化」が働かず、むしろ有害な変異も放置されて高いまま固定されてしまう状況です。

デビルズホール・ププフィッシュのゲノムは「自然が許容できるギリギリのレベル」で損傷を抱え続けているのです。

端的に言えば「詰んでいる」と言えるでしょう。

しかしにもかかわらず、なぜ未だにこの魚たちは生きながらえているのでしょうか?

配信元: ナゾロジー

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