脱北者が語るその地での体験は劇的だ。金正日が通るというだけで、家が取り壊され、着の身着のまま追い出された家族がいる。平壌と地方で大きく異なる生存ライン。どんどん厳しさを増す国境の取り締まり……こうした北朝鮮の現実からは、複雑な日本像も立ち上がってくる。
日本各地を旅する韓国人YouTuberによる初書籍『韓国人から見た、ふしぎでやさしいニッポン 僕たちは“ありがとうの国”に、また行きたくなる』より一部抜粋、再編集してお届けする。〈全3回のうち1回目〉
聞くほどに別世界共感を超える脱北者の体験
脱北してきた方々の、脱北するに至る背景や韓国に来るまでのストーリーは、人それぞれ異なっていて、どれも劇的なものばかりなのですが、私が一番記憶に残っているのは、アンニさんとアンニさんのオモニの話です。
ある日、彼女たちが暮らすところに、イベントか何かの目的で金正日が通ることになり、そのために突如、有無も言わさず家が取り壊されることになりました。
当時、家にはアンニさんと弟しかいませんでしたが、着の身着のまま家を離れなくてはならず、金日成と金正日の写真だけを持って家を出たといいます。民主主義の国で暮らす私にとっては、家の取り壊しを国が独断で決めてしまうことに衝撃を覚えました。
韓国にとって北朝鮮は隣国で、元々は同じ民族とはいえ、あまりにもいろいろなことが違いすぎていて、脱北者から聞く話はどれも驚くことばかりでした。
どんなドラマよりもドラマがあるといっても過言ではないほど、すべてが劇的すぎて、私には共感することすらできません。少なからず自分の経験があることならば、人は相手の話に共感することができますが、脱北者の方々の話や経験は、あまりにも次元が異なっていてまるで別世界のことのよう。「それって本当の話なのかな?」と思わず疑ってしまいたくなるほど、衝撃的な話ばかりなのです。
アンニさん家族は中国との国境に近い地域に住んでいたそうですが、平壌出身の脱北者であるソアさんの話と聞き比べると、平壌とそれ以外の地域では、生活環境がかなり異なっているように感じました。
平壌で暮らす人々も食べ物が十分ではないそうですが、それでも生きるか死ぬかほどではないといいます。また、平壌は選ばれし者しか住めないところで、そこで暮らすのは特別な役職や立場の方たちなのだそうです。
また、電気が充分に使えない生活は全国民に共通していますが、平壌はほかの地域に比べると、電気が使える時間が比較的長いそうで、多くの部分で田舎よりも優遇されているそうです。
一方、そのほかの地域で暮らす人々は、まさに生きるか死ぬかの飢えた状態で、中には電気がほとんど使えないという地域もあるそうです。そうした地域で暮らす人たちは、死ぬまで平壌に行くことはできず、移動することすら難しいのだそう。地方から脱北した方々に話を聞くと、「北朝鮮に住んでいた頃はいつか平壌に行くのが夢だった」と語る方がたくさんいました。
年々難しくなる脱北の実情
北朝鮮では、韓国ドラマを隠れて観ている人も多いというのも聞きました。韓国ドラマを観ると国から処罰を受けるそうですが、今となっては規制できないほど多くの方が観ているといいます。
その一方で、脱北者に対する処罰は、以前よりも厳しくなったそうです。以前は脱北するためのルートのほとんどは、中国側のブローカーの手助けで一旦中国に渡り、そこから第三国に向かうというものでしたが、最近では中国側の国境周辺の取り締まりが強化され、脱北者を支援していることが当局にバレるとより厳しい処罰を受けるようになったそうです。
また、北朝鮮側が中国に脱北者の確保を依頼しているようで、脱北者を見つけるとすぐに北朝鮮に強制送還するようになったといいます。
動画の撮影目的だけでなく、脱北者の方々とはプライベートでも会いながらいろいろな話をしていますが、最近は脱北することがとても難しくなったと、みなさん口を揃えて言います。
今でも北朝鮮に連絡をしたいと思えば、韓国からでも北朝鮮に連絡ができるそうなのですが、そこにはやはり中国人のブローカーが存在していて、彼らが録音された家族からのメッセージを届けてくれるそうなのです。もちろん詳しい方法までは教えてもらえませんし、どのように行うのかはわかりません。
おそらく中国人のブローカーにお金を払うと、家族のところまで行き、メッセージを録音して届けてくれるのだと思います。しかし、そうしたメッセージのやり取りですら取り締まりが厳しくなっていて、今では難しくなっているそうです。
私には、脱北者の方々の知り合いや友人がたくさんいますが、私自身、北朝鮮という国に対していいイメージを持っているかと言われれば、決してそうではありません。しかし、脱北した方というのは、北朝鮮という国から命をかけて逃げてきた方々です。だからこそ、そういう経験をされた方々から話を聞くというのはとても貴重なことだと思うのです。
脱北者の方々は、誰も想像できないほどの大変な苦労をされてきているので、少なくともその方々の前では、北朝鮮に対してああだこうだと好き勝手に話をすることができないという気持ちになります。

