
「しっかり寝れば、認知症は防げる」そんなイメージを持っている人は少なくないかもしれません。
ところが近年の研究から、重要なのは睡眠時間の長さそのものではなく、体内時計がどれだけ規則正しく刻まれているかである可能性が浮かび上がってきました。
実際、高齢者を対象とした最新の大規模研究では、体内時計が安定している人ほど、認知症を発症するリスクが大きく低下していたのです。
では、体内時計とは何で、なぜ脳の老化と関係するのでしょうか。
研究の詳細は2025年12月29日付で学術誌『Neurology』に掲載されています。
目次
- 「体内時計」が脳と全身を同時に整えている
- 乱れた体内時計は「原因」か「結果」か
「体内時計」が脳と全身を同時に整えている
私たちの体には、約24時間周期で働く「概日リズム」と呼ばれる体内時計があります。
この仕組みは、睡眠と覚醒だけでなく、ホルモン分泌、心拍数、体温、免疫の働きまで幅広く調整しています。
2025年に発表された研究では、平均年齢79歳の高齢者2000人以上を対象に、心拍データから体内時計の安定性を評価しました。
その結果、体内リズムが乱れている人は、そうでない人に比べて認知症を発症する割合が明らかに高かったのです。
興味深いのは、睡眠時間の長短だけでは、この差を十分に説明できなかった点です。
睡眠の質が悪い人ほど体内時計も乱れやすい傾向はありますが、解析では高血圧や心臓の健康状態といった要因も考慮されていました。
つまり、単なる「寝不足」以上に、日々の生活リズム全体が脳の健康に影響している可能性が示されたのです。
乱れた体内時計は「原因」か「結果」か
ただし、ここで注意すべき点があります。
体内時計の乱れは、認知症の原因なのでしょうか。それとも、すでに始まっている脳の変化の「初期サイン」なのでしょうか。
専門家の間では後者の可能性も重視されています。
認知症では、記憶障害が現れるより前から、睡眠や覚醒を制御する脳の領域に異変が生じることが知られています。
その結果として、夜中に目が覚めやすくなったり、昼夜の区別が曖昧になったりするのです。
一方で、体内時計の乱れが身体活動の低下を招き、肥満や心血管リスクを高め、それが間接的に認知症リスクを押し上げる可能性も指摘されています。
実際、日中に適度に体を動かす人ほど、睡眠の質が改善し、脳の健康も保たれやすいことが分かっています。
特に注目されているのが、日光を浴びながら行う日中の運動です。
これは体内時計をリセットし、睡眠と覚醒のリズムを整えるうえで非常に効果的とされています。
「よく眠る」だけでなく「規則正しく生活する」
現時点では、睡眠を改善すれば認知症を確実に防げると断言できる証拠はありません。
しかし、体内時計を整える生活習慣が、脳の健康を支える重要な土台であることは、ほぼ間違いないと言えます。
決まった時間に起き、朝の光を浴び、日中に体を動かし、夜は自然に眠くなる。
こうした当たり前のリズムこそが、将来の認知症リスクを静かに下げてくれるかもしれません。
防災訓練のように派手ではありませんが、毎日の「生活リズム」を整えることは、脳への最も身近な投資なのです。
参考文献
There’s One Critical Thing You Can Do to Cut Your Risk of Dementia
https://www.sciencealert.com/theres-one-critical-thing-you-can-do-to-cut-your-risk-of-dementia
元論文
Association Between Circadian Rest-Activity Rhythms and Incident Dementia in Older Adults
https://doi.org/10.1212/WNL.0000000000214513
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部

