イギリスのヨークシャー、壮麗な大邸宅ダウントン・アビーに暮らすクローリー家とその使用人たちの人生を、歴史上の出来事を織り交ぜながら描いてきた本シリーズ。今作の舞台は1930年の夏。イギリス社交界の頂点である“ロンドン・シーズン”が幕を開けるなか、離婚したメアリーはその不名誉なスキャンダルによって舞踏会や晩餐会から追放されてしまう。さらにダウントン・アビーに財政破綻の危機も迫ることになる。
物語の中心を担う、クローリー家の長女メアリーを演じたミシェル・ドッカリーは、本作について「メアリーが社会に復帰する物語」だと説明する。「メアリーはここ15年間を通して、本当に大きな変化を遂げてきました。それでもまだ新たなスキャンダルや試練が待ち受けている。今作ではこれをストーリーの核として、ほかのキャラクターたちへと広がっていきます。物語は終わりを迎えつつも、たしかに前進していると感じられるような、喜びと希望に満ちた結末と共に観客は劇場を後にすることでしょう」。

同じように、メアリーに付く侍女であるアンナを演じたジョアン・フロガットも「物語を締めくくりつつ、登場人物たちに希望に満ちた今後の旅路を残せるのは、本当にすばらしいこと。彼らに訪れるかもしれない新たな可能性を感じ取ることができるでしょう」と、激動の時代を生きた登場人物たちに、一筋の希望が射し込むようなフィナーレであることを観客に向けて約束する。「それぞれの方が心のなかで想像することによって、登場人物にとってのハッピーエンドを自ら紡ぎだすのです」。

そんな2人が本作で特にファンに響くと感じるシーンは、やはりクライマックスに訪れる、シリーズの集大成を象徴する10分間のシーンだという。「観た時には涙が止まりませんでした。こんなにも感情的になるなんて…」と語るフロガットに、ドッカリーも「メアリーは感情を抑えるタイプなので、必死に堪えなければならず、涙なくして撮るのは本当に大変でした」と述懐。ドッカリーは「この作品には常に共感できるキャラクターがいる。ただただ大きな安らぎと温もりを感じさせてくれます」と、あらためてシリーズとの別れを惜しんでいた。

長年にわたり多くのファンに愛されてきた「ダウントン・アビー」シリーズ。壮麗な屋敷を舞台に、貴族社会の栄枯盛衰を描きながらも、物語は常にその時代ごとの変化と共に進み、登場人物たちの生き方や価値観の移ろいを丁寧に映しだしてきた。

「1912年が舞台だったころ(ドラマシリーズのシーズン1)、シルエットがあまり魅力的ではなかったと感じていました」と明かすのは、次女イーディスを演じたローラ・カーマイケル。「本作でようやく1930年代を表現できて、時代の変化を存分に見せられたのは本当に楽しかったです」と、物語に彩りを添えるだけでなく、当時の時代背景や登場人物たちの心情などを表現する卓越した衣装の魅力について言及。

「衣装デザイナーのアナ(・メアリー・スコット・ロビンズ)が演出したすばらしい瞬間がいくつもあるのですが、そのなかのひとつ、メアリーがイーディスに助けを求めるシーンでは色調を完全に入れ替えています。普段は柔らかい印象の色を着ているイーディスが、あの時にはミッドナイトブルーの色をまとい、両者の力関係が逆転しているのです。アナはそういう点で思慮深く、衣装をあらゆる方法で活用しています」。衣装やスタイルはもちろん、シリーズ開始当初からの価値観の変化などの注目してみると、この世界をより深く楽しむことができるだろう。

今作でもうひとつ忘れてはならないのは、2024年9月27日にこの世を去った名女優マギー・スミスの存在だ。これまでのシリーズ作でクローリー家の当主であるロバート(ヒュー・ボネヴィル)の母で、先代の伯爵夫人ヴァイオレットを演じていたスミス。今作は、シリーズで初めてスミス不在で製作された作品という側面もある。「撮影中には、たしかに彼女の存在を強く感じていました」と、ドッカリーは振り返る。
「そこにいない人の話をすることは避けられないものです。長いあいだ彼女がこの作品の一部だったことを懐かしむような感覚もあり、また彼女の演じていたヴァイオレットについて話すシーンも数多くありました。今回の映画のなかでも、彼女の存在を非常に強く感じられることでしょう」。それを受けてカーマイケルも、「私たちはいつも彼女のことを話していました。これからも一生、マギーの思い出を語り合いながら生きていくのでしょう。彼女と過ごせたあの時間に、ただただ感謝しながら」と、偉大な女優の死を悼んでいた。
構成・文/久保田 和馬
