
SNSなどで「自分を愛せない人は他人も愛せない」とよく言われます。
ですが心理学の最新研究によると、この有名なフレーズは「半分だけ嘘」なのかもしれません。
ドイツのレーゲンスブルク大学(University of Regensburg)などで行われた研究により、自己肯定感に近い概念であるセルフラブ(健全な自己愛)のレベルと恋人への親密さや情熱などの結びつきは決して強くなく「自己肯定感がボロボロの人には恋愛は無理」と断言できるほどではないことが示されました。
自分愛が低くても、ちゃんと恋愛している人たちもいるようです。
研究内容の詳細は2026年1月5日に『Discover Psychology』にて発表されました。
目次
- 自己肯定感がないと恋しちゃダメ?
- 「自分を愛せない人は他人も愛せない」は半分だけ嘘だった
自己肯定感がないと恋しちゃダメ?

SNSを開くと、「自分を愛せない人は他人も愛せない」「まずは自分を愛しなさい」という金言が山のように流れてきます。
自己啓発本でも、「自己肯定感をMAXにしてから恋をしろ」と言わんばかりのメッセージが並びます。
確かに「私」ついて一番知っている存在が「私」を嫌いならば、他人は好きになりようがない――という論調は一見すると正しいようにも思えます。
しかし注意深く分解すると、この言葉は奇妙な点が見えてきます。
私たち人間は相手のことを良く知らなくても「好き」になることがあります。
自分自身のことを見えてない人にナルシストに限って、自己肯定感が高いというケースもあるでしょう。
そうなると「私」に対する「私」の評価点数(自分愛や自己肯定感)や感想が、恋愛において決定要因になると考えるのは、理論の連鎖的に無理が生じることに気付くでしょう。
セルフラブと自己肯定感
「セルフラブ」は、日本語ではよく「健全な自己愛」と訳されます。ここでいう自己愛は、いわゆるナルシシズム(自分しか見えない自己陶酔)とは違い、「自分をひとりの人間としてちゃんと大事に扱う態度」を指します。その中には「自分には価値がある」と感じる自己肯定感も大きな要素として含まれますが、セルフラブは「ダメな自分もまあいいかと受け入れる力」や、「しんどいときに無理をさせず休ませてあげる力」など、自分との付き合い方全体を含んだ、もうひと回り広い概念です。自己肯定感はセルフラブという家の中にある大きな部屋のひとつであり、セルフラブが育つと、その部屋も自然に居心地がよくなっていく、というイメージでとらえると分かりやすいかもしれません。
一方で、心理学の世界では、ずっと前から「自分を大事にすること」と「自分しか見えないナルシシズム」は違うものだと整理されてきました。
自分を好きでいることは、わがままでも身勝手でもなく、むしろ幸福感やメンタルヘルスを支える土台のひとつとして研究されています。
また、恋愛感情そのものもバラバラに扱われているわけではなく、「三角理論」と呼ばれる有名な枠組みがあります。
そこでは、ドキドキや欲望といった情熱(passion)、心の距離の近さをあらわす親密さ(intimacy)、そして「長く一緒にいるつもり」というコミットメント(commitment)の三つを材料にして、さまざまな恋の形を説明します。
ただ、「セルフラブ」とこの恋の三角形の関係をまとめて調べた研究はこれまでほとんどありませんでした。
そこで今回研究者たちは、「セルフラブ」と「恋の三角形」を比較することで、その結びつきが本当に強いのかを調べることにしました。
もしセルフラブがあまり高くなくても「恋の三角形」要素を満たせるとするなら「自分を愛せない人は他人も愛せない」というよく聞く言葉に対する大きな反論になり得ます。
「自分を愛せない人は他人も愛せない」は半分だけ嘘だった

「自分を愛せない人は他人も愛せない」というのは本当なのか?
答えを得るため研究者たちは18〜68歳の大人約460人を対象にオンライン調査を実施し「セルフラブ」の強さと恋の三角形(情熱・親密さ・コミットメント)の関係を調べました。
するとセルフラブの高さと、3つの恋の成分の間には緩いプラスの関連がみつかりました。
ただ相関係数という結びつきを示す値は0.2~0.3という小~中程度のもので「セルフラブが高くないと恋愛はできない」と言い切れるレベルにはないことがわかりました。
実際、相関がこの程度にとどまるということは、「セルフラブがかなり低くても恋の成分が高めの人がいても不思議ではない」程度の結びつきだと示されています。
さらにもう一歩踏み込んで、「どのタイプのセルフラブが恋に効いているのか」の見極めが行われました。
ひと言にセルフラブといっても、その意味するところは広大です。
そこで研究ではセルフラブを
①自分の感情の認識能力
②ダメな自分も受け入れる自己受容と、
③しんどいときに自分を休ませるセルフケア
という3要素に分類しました。
この要素はどれもセルフラブに関わる要素だと考えられます。
「①自分の感情の認識能力」がなければ、そもそも自分の感情を知ることができません。
また「②ダメな自分も受け入れる自己受容」がなければ自己愛や自己肯定感は育ちません。
そして「③しんどいときに自分を休ませるセルフケア」は実際に自分が辛くなったときに自分を大切にできる力となります。
自分がどうでもいいタイプの人はセルフラブもないでしょう。
たとえば、自分をまったく休ませずに無理を重ねてしまう人は、自分のケアをあまり考えていない状態と言えるでしょう。
すると「恋の三角形」に主に関わっていたのは、「②ダメな自分も受け入れる自己受容」と「③しんどいときに自分を休ませるセルフケア」だけでした。
「①自分の感情の認識能力」も相関レベルでは緩やかな関連がありましたが、決定要因とは言えないレベルでした。
しかし最も意外だったのは、別にあります。
研究では「今の恋にどれだけ満足しているか」という要素がと、「失敗した自分への思いやり(セルフコンパッション)」が有意に関係していました。
自分の失敗について「まあこういう日もあるよね」と言って休ませてあげられる人ほど、恋人との関係に満足しやすいというわけです。
恋愛の満足度は「相手の言葉や態度」に関連すると思ってばかりいましたが「自分の失敗に自分が優しくなれるか?」が重要な要因の一つだったというのは、恋愛感を揺さぶる発見です。
こうして見ると、恋の「濃さ」を支えていたのはセルフラブ、とくに自己受容とセルフケアで、恋の「幸せ度」を支えていたのは「失敗した自分への思いやり」も関わるという、二段構えの役割分担が浮かび上がります。
自己肯定感が低いまま始める恋でも、セルフラブの中身を整え、自分の失敗に優しくなれる力を少しずつ育てていければ、恋の強い味方になってくれるかもしれません。
なお、この研究で集められた匿名データは研究者によってインターネット上に公開されていて、自分で数字を確かめたい人は生データを見ることもできます。
もしかしたら未来の「恋愛指南書」には、相手の条件のチェックリストに加えて最後に「失敗した自分を許す能力」という項目が加わっているかもしれません。
元論文
Self-love and love in a romantic relationship are partly related
https://doi.org/10.1007/s44202-025-00536-z
ライター
川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。
編集者
ナゾロジー 編集部

