緊張の結婚挨拶、思わぬ言葉
その日、Mさんは朝から何度も鏡の前に立っていました。清潔感のあるワンピースを選び、手土産も彼と相談して決めたもの。「きっと大丈夫」と自分に言い聞かせながら、彼のご実家へ向かったのです。
玄関で出迎えてくれた彼のお母さまは、にこやかな表情を浮かべていました。しかしリビングに通され、お茶をいただきながら会話が進むうちに、少しずつ空気が変わっていきます。
「お仕事は何をされているの?」「ご実家はどちらかしら?」質問はごく普通のものでしたが、どこか値踏みをされているような視線を感じたMさん。そして唐突に、こんな言葉が飛んできたのでした。「あなた、本当に料理できるの? うちの息子は食事にうるさいのよ」と。
胸に広がった小さな悲しみ
その瞬間、Mさんは言葉に詰まりました。初対面でいきなり能力を疑われるような問いかけ。悪意があったのかどうかは分かりません。けれど、心のどこかがチクリと痛んだのも事実でした。
隣に座る彼は困った顔をして、「お母さん、そんな言い方……」とフォローしようとしてくれます。しかしお母さまは「だって大事なことでしょう?」と引き下がりません。
Mさんは深呼吸をして、気持ちを落ち着かせました。怒りをぶつけても、この場の空気が悪くなるだけ。それに、料理ができないわけではないのです。むしろ、Mさんには静かに誇れるものがありました。
